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Linuxに力を入れるIBM

先月のコラムでは、オープンソース・ソフトウェア(OSS)が本格的に広がり始めたことを書いたが、その大きな理由の一つがIBMがLinuxに力を入れていることだと述べた。そこで今回は、これに続けて、IBMがどのようにLinuxに力を入れているか、また何故そのようなことをやっているかについて書いてみたい。

IBMはLinuxを積極的に推進するため、2001年に10億ドルを投資したと述べている。IBMが年間800億ドル以上売り上げている大企業とはいえ、自社のソフトウェアやハードウェアの開発ではなく、OSS関連にこれだけの投資を行うのは、並大抵のことではない。IBMは「すべてのものをLinux化」し、さらにそのサポートのためにこの大きな投資を使っている。

実際、IBMは300人にもおよぶLinux開発部隊を擁するLinux Technology Center(世界に散らばったLinux開発者によるバーチャルな組織)を作っている。バーチャルな組織とはいえ、彼らは基本的にLinux関連ソフトウェア開発の専任部隊である。片手間にやっているわけではない。各国にLinux Support Centerのようなものも作り、社内だけでなく、お客やビジネス・パートナーがLinuxを使うことを支援している。

では、何故IBMはこのようにLinuxに力を入れているのだろうか? ずっと以前、IBMで長く働いたことのある私からすると、このような単純な疑問が湧いてくる。そもそもIBMはソフトウェアを大きな強みとしていたはずである。特にハードウェアの価格が下がり出して以来、ソフトウェアとサービスが、ビジネスの大きな柱だったはずである。にもかかわらず、自社ソフトウェアではなく、OSSであるLinuxを推進するとは、一体どういうことか?

確かに世の中は、プロプラエタリ―(独自)なシステムよりもオープンなシステムを好むように変わり、ソフトウェアもその例外ではない。しかし、それが会社の大きな稼ぎの中心の一つなのに、簡単にオープン化の流れに迎合してしまっていいのだろうか。その答は、IBMのソフトウェア戦略の変化を見ることによって、読み取ることができる。

ソフトウェアは大別すると、3つの種類に分けることができる。1つはアプリケーション・ソフトウェアであり、会社で使う会計システムだったり、あるいはワードプロセッサーだったりと、広範囲にわたる。2つ目は、オペレーティング・システム(OS)と言われ、ハードウェアのコントロールを含め、コンピューターの中核をなすソフトウェアである。IBMが今まで自社製品向けに作っていたプロプラエタリ―なもの、また、パソコンやサーバーのMicrosoftのWindows、ワークステーションのUnixなどがこれにあたる。そして、3番目がミドルウェアと言われ、この2つの中間に位置するものである。ミドルウェアには、データベース管理ソフトウェア、ウェブ・アプリケーション・サーバー、グループウェアなどが含まれる。

IBMは以前、この3つのすべてのソフトウェア分野でビジネスを行っていた。ところが、この戦略にしばらく前から大きな変化が起きた。まず数年前、広範囲にわたるアプリケーション・ソフトウェアから撤退を宣言し、他社のアプリケーション・ソフトウェアを顧客に勧めるようになった。そして今度は、OSの分野でも、自社のプロプラエタリ―なソフトウェアだけでなく、LinuxというOSSを推進している。

理由はいくつかある。一つは、IBMがいくつかのOS分野で敗北したことである。Intelチップを使ったパソコンおよびサーバーでは、昔OS/2というIBMプロプラエタリ―なOSを提供していたが、これがMicrosoftのWindowsに惨敗を喫してしまい、IBMはOS/2を数年前に出荷停止し、既存ユーザーへのサポートもまもなく終了しようとしている。

次に、IBMはUnixの分野でAIXというOSを持っているが、これもSunのSolarisに勝てず、市場を十分に取れないでいる。そこで、Sunのハードウェアに比べ、数分の一の安価なIntelベースのサーバーとLinuxの組み合わせをお客に勧めることにより、Sunへの対抗、そしてMicrosoftへの対抗軸としているわけである。

IBMの独壇場である大型メインフレーム・コンピューターの分野では、競合他社にOSで負けたということはないが、メインフレーム市場自体が縮小しており、今後の新たな機能追加のために、独自OSの開発を続けていたのでは、コスト的に厳しいという面がある。例えば、IBMの推進しているオンデマンド・コンピューティング(必要なときに必要な分だけコンピューターを使い、ユーザーはその分だけ支払う)やグリッド・コンピューティング(多数のコンピューターを、あたかも一つのコンピューターのように使う)では、Linuxを前提に考えている。

さらにIBMでは、メインフレームの使い方として、ばらばらのサーバーをひとまとめにした統合サーバーという位置付けで、Linux(この場合は複数のLinuxをメインフレーム上で稼動させる)によるメインフレーム・コンピューター利用という勧め方もしている。これなら、プロプラエタリ―なシステムを嫌い、オープンシステム志向のお客にも、メインフレーム・コンピューターを使ってもらえるという、巧みな戦術である。

また、IBM自体の問題として、同じIBMのハードウェアを使っていても、Intelベースのサーバーから、Unixサーバー、さらにメインフレーム・コンピューターへと機種を上げていくと、そのたびにユーザーはOSを変更しなければならず、そのためのユーザー・ソフトウェアの変更やテストなど、多大な労力がかかる。これはIBMにとっても、決してよい状況ではない。これを、LinuxによってすべてのIBMハードウェアをサポートすることにより、解消できるようになったわけである。Linuxを推進することによって、単に競合他社への対抗と言う面だけでなく、IBMユーザーへのメリットも大きいわけである。

IBMはまだすべてのOSから撤退するとは言っておらず、少なくともメインフレーム・コンピューター向けは、今後もIBM独自のOSを、Linuxとともに継続して提供するのではないかと思う。しかし、IBM版のUnixであるAIXは、今後撤退の可能性が十分あると思われる。実際、うわさとしては、そのような話がすでに出ている。

IBMがLinuxに力を入れるのは、上のような理由からである。しかしIBMは、すべてのソフトウェア分野でOSSを推進しているわけではない。実際、IBMはミドルウェア分野では、5つのキー製品の名前を挙げて、強力に推進すると明言している。したがって、この分野では、例えばデータベース管理用のOSSは、IBMにとって競合(コンペティター)となるわけである。つまり、IBMのOSS戦略などという言い方ではなく、IBMのLinux戦略というほうがわかりやすい。

このようにIBMがLinuxを積極的に推進するため、Intelベースのサーバー向けUnixを主力製品としているSCO社は、IBMがLinuxの一部に、SCOのUnixソフトウェアを無断でコピーして使っているという訴訟を起したりしているが、今のところ、その証拠として提出したものは、そのような問題が全くなく、市場全体も、SCOの単なるブラックメールだと言う見方が大勢である。

IBMも、ここまでLinuxに力を入れているわけだから、あとに引くこともないだろう。IBMは、ずっと以前から独禁法の裁判等、裁判には慣れているし、それに対応する弁護士グループもそろっている。IBMのLinux推進は今後とも続くに違いない。

  黒田 豊


(2003年9月)

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