Facebookいよいよ株式上場へ

2月1日、ソーシャル・ネットワーク(SNS)でトップを行くFacebookが、ついに株式上場を申請した。数年前から株式上場がうわさされ、期待もされていたが、Zuckerberg社長の意向で先延ばしされていたものだ。その結果、今回の株式上場は、2003年のGoogleをはるかにしのぐ、シリコンバレー・インターネット企業として最大規模の上場となることは間違いない。

現段階では何株公開するか、また予定価格がいくらになるか発表されていないので、規模の詳細は不明だが、$5 bil. から$10 bil.程度というのが大方の予想だ。これは2003年のGoogle上場時の$1.9bil.を大きく上回る。その結果、Facebookの時価総額も、$75-$100 bil.程度になる予定で、トップを行くApple(約$425 bil.)、先を行くGoogle(約$188 bil.)には及ばないが、大手IT企業のHP(約55.5 bil.)を株式上場時に早くも超えることになる。

Zuckerberg社長は、これまで、株式上場による会社のカルチャーの変化を避けたい、また3ヶ月ごとにビジネス状況を市場に評価批判されることを避けるため、上場を先延ばししてきたが、これまでFacebookに出資してきたベンチャー・キャピタルの要求、社員からの期待、また株式を持つ外部の人・組織が500を超え、上場しなくても財務状況を報告する義務が生じたため、株式上場に踏み切ることにした。

外部の株主が500を超えてしまった理由としては、最近活発になってきた、非上場会社の個別株取引(セカンダリー・マーケット)の存在がある。これにより、外部株主が増加しただけでなく、その取引価格の上昇により、すでに現時点でのFacebookの大体の時価総額も推定できている。

今回の株式上場申請のため、Facebookは初めて正式にその財務状況等を公開した。それによると、ユーザー数は8.45億人、2011年の売り上げは$3.71 bil.、利益は$1 bil.となっている。世界の人口がおよそ70億人、インターネット・ユーザー数が約21億人といわれるが、中国ではFacebookは政府規制により使用できない状況なので、中国のインターネット・ユーザー約5億人を除くと、インターネット・ユーザー16億人の半分以上がすでにFacebookを使っていることになる。また、上場時の売り上げ、利益水準を2003年当時のGoogleと比較すると、売り上げはGoogleの約$1.5 bil.に対して2倍以上、利益はGoogleの$105 mil.に対して10倍近くになっている。

Facebookから公開された情報で注目されるものとして、さらに次のようなものがある。ユーザー数の伸びは以前に比べ鈍化していること、売り上げの85%は広告収入で残りのほとんどはFacebook上でゲームを展開し、つい最近上場したZyngaからの手数料、モバイルでFacebookを使っている人はユーザーの約半数にあたる4.25億人だが、そこからはほとんど広告収入が得られていないこと、ユーザーはかなりグローバル化しており世界中に分散されていること、などが上げられる。

これを見ると、Facebookにもまだまだ将来リスクがあり、これからのビジネス展開次第で、さらに成長するか、飽和してしまうかの岐路にあることがわかる。特に大きな問題は、ユーザーのモバイルへの移行に対して、ビジネスモデルが描けていない点が大きい。モバイルの世界では、AppleとGoogleが根幹となるソフトウェア市場を握っており、Facebookとパートナー関係にあるMicrosoftは市場で遅れを取っている。モバイル利用からの収入モデルがうまく描けないと、収入や利益の鈍化につながりかねない。

また、広告収入が売り上げの大きな部分を占めているが、世界中で共通の広告を出して意味のある企業は限られており、それぞれの国や地域での、ローカルな広告展開が重要となってくる。手数料収入が広告収入より高い伸び率を示している点は、広告収入だけに頼らないという意味で歓迎すべき面もあるが、そのほとんどが現在のところZyngaからのものという一社依存も、今後問題になる可能性がある。また、以前から言われている、Facebookのプライバシー問題も解決しているわけではない。

Facebookの将来には、上に書いたような不安要素もあるが、SNSの将来性については、まだまだ大きなものがあり、それをうまく実現できれば、上のようなリスク要因も吹き飛んでしまうだろう。Googleが何度もSNS分野に挑戦し、昨年発表したGoogle+を積極展開しようとしているのは、そのためだ。例えば、広告にしても、現在のところは単にFacebookの画面上に広告を出す、いわゆるディスプレイ広告がほとんどだが、FacebookのようなSNSでは、人と人とのつながりを生かした広告を展開することができ、それが大きな魅力だ。つまり、自分の友達がいいと言ってくれるのは、単純に広告を見せるのに比べ、その広告効果ははるかに高い。そのような広告形態であるSponsored StoriesにFacebookは大きな力を入れ始めている。

今回の株式上場により、Zuckerberg社長は$20 bil. 以上の大資産家になり、社員の1/3程度(約1000人ほど)は、$1 mil.以上の資産を持つことになるだろうと予想されている。これにより、シリコンバレーでは高めの金額の住宅需要が一気に増え、不動産価格の上昇が予想され、また不動産業者は大きなビジネスチャンスと色めき立っている。不動産会社だけでなく、地域への経済波及効果は大きい。シリコンバレーが、このような大型の株式上場により、また活気付くことは間違いない。

Zuckerberg社長は、株式上場申請にあたって、投資家向けに書いた手紙に、以下のことを書いている。例えば、もともとFacebookは会社にするつもりではなく、世の中をもっとオープンにし、つなげるという社会使命を実現するために設立したこと。人々をつなげ、人々がビジネスや社会につながり、政府その他の組織に対する関係を変えていくことを期待していること。この会社は、利益を上げるためにサービスを提供するのではなく、よりよいサービスを提供するために利益を上げること、などだ。実際、アフリカ等で起こっている民主化運動にFacebookは大きな役割を果たしている。

Zuckerberg社長の言っていることのどこまでを本心と思い、どこまでを単なるリップサービスと受け止めるかは、受け手個人個人次第だろうが、言葉通りに受け取れば、とてもいいことを書いている。株式上場すれば、投資家からの利益追求要求圧力も大きくなるが、是非Facebookが彼の言葉通りにこれからも進んでいってもらいたいものだ。

  黒田 豊

(2012年3月)

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