スマートフォンの次

最近、新聞や雑誌で、「スマートフォンの次」という話を見かけることが多くなった。とは言え、世の中、まだまだスマートフォン全盛の時代であり、これにタブレットが続いているのが現状だ。スマートフォンやタブレットの新しいアプリが次々に登場し、使い方はさらに広がりを見せている。したがって、スマートフォンの時代が終わりつつあるなどという話ではない。

その一方で、スマートフォン市場を切り開いてきたAppleのiPhoneは、昨年9月のiPhone5の発表でも、ちょっと退屈などと言われるように、製品、特にハードウェアの面では、成熟してきたといえる(2012年11月コラム記事「年末商戦を前に出揃ったタブレット、スマートフォン」参照)。ハードウェアではなく、ソフトウェアの面で、AppleのSiriのようなパーソナル・アシスタントが、スマートフォンを次の段階に進める可能性は十分秘めているが、市場はそれだけでなく、別なデバイスも求めているようだ。iPod、iPhone、iPadときて、さて次は何がAppleから出てくるか、ということに期待が高まっている。

数年前から話題になっているのは、iTVだ。Appleは今でもApple TVという箱を提供しているが、これはインターネットからのコンテンツやパソコンからのコンテンツをテレビに映し出すものだ。一昨年亡くなったApple 元CEOのSteve Jobs氏がおもちゃと言ったもので、本格的にテレビを革新するようなiTVの登場を、市場は心待ちにしている。しかし、そのうわさも次第に薄れ、今度Appleから出てきそうなものとしては、iWatch、つまり腕時計を革新的に新しくしたもの、というのが今のうわさの中心だ。

未発表のiWatchについて、そのうわさだけ追いかけても仕方ないが、世の中には、すでに類似のハイテク・スマートウォッチ製品が出ているので、それを見れば、Appleが出すかもしれないiWatchがどのようなものか、その一端は見ることができる。その中で現在注目されているものに、Pebble Technology社のPebbleがある。すでに商品化され、今年1月から出荷がはじまっている。価格は$150。

大きさは通常の腕時計と同じくらいで、機能的には、通常の時計機能に加え、無線通信機能の一つであるbluetoothを使い、iPhoneやAndroid端末と通信可能だ。それにより、Pebbleでスマートフォン上のテキストを読んだり、誰からの電話かわかり、画面の大きさの制限はあるが、TwitterやFacebookに対応することができる。また、GPSや3軸加速度センサー等を使って、走った距離などを算出することもできる。スマートフォンのようにアプリもあり、25,000のゴルフ場での距離表示も可能という。

この会社、従業員11人の小さな会社だが、注目を集めているのは、製品そのものだけではなく、会社立ち上げ時の資金調達にも理由がある。ベンチャーキャピタルからの出資は必ずしもうまくいかなかったが、最近流行のクラウド・ソーシングで多数の一般投資家からの出資を募集した。そうしたところ、当初$100,000(約1千万円)集めるつもりだったのが、これをわずか2時間で達成。その後も出資希望者が続出し、会社がストップをかけるまでに、7万人近くから$10 mil.(約10億円)以上の資金が集まった。出資者には、製品が出荷可能になった時点で、割引価格の$115で購入できる権利をつけたのも、功を奏した模様だ。

このスマートウォッチ市場は、Pebble以外にも、数社すでに参入しているので、これにAppleがiWatchで市場参入すると、競合は激しくなるが、新たな市場が形成される可能性は十分ある。腕時計市場は、世界で$60 bil.(約6兆円)と言われている。これはテレビ市場の約半分だが、利益率ではテレビの数倍と言われており、十分魅力ある市場だ。

スマートフォンの次という点では、スマートウォッチ以外にも、いろいろなものが上がっている。その中で大きく注目されているものに、Googleがテスト使用を始めているGoogle Glassがある。これは、まだ発売されておらず、今年末頃と予想されている。ゴーグルのような、いわゆるヘッドマウント・ディスプレイ(Head Mount Display)で、ゴーグルの中に画面が見える。また、音声入力にも対応しており、それを使っていろいろなことを可能にしている。

たとえば、写真やビデオを撮る、情報をサーチする、翻訳する、メッセージを送る、道順を表示する、目の前の景色についての情報を得る、などが音声による指示で、ハンドフリーで実行可能だ。価格的には、スマートウォッチと一桁違う、$1,500というのが、最初に購入資格のある人向けの値段だ。

スマートフォンの次ということでは、スマートウォッチとGoogle Glass以外にも、いろいろと身体に付けて使用する、ウェアラブル(wearable)デバイスが出てきている。手袋のようなもので、小指がマイク、親指がスピーカーになって、手だけで会話できるものもある。また、ヘルスケアやフィットネスに関連したウェアラブル・デバイスは、万歩計に始まり、心拍数測定、カロリー消費の計算など、各種デバイスがすでに世の中に出ている。

このようなウェアラブル・デバイスが次々に世の中に出てきているのは、それを実現する半導体チップやセンサーの高性能化、低価格化が大きな要因となっている。これまで、何年も前から、このようなものを世に出し、チャレンジした製品はあったが、成功していない。しかし、そろそろ環境が整ってきたタイミングと言えるだろう。

ウェアラブル・デバイスが成功するためには、単に高機能や低価格だけでは、十分でない。これに加え、重要なのは、使いやすさとスタイルだ。使いやすさ、最近の言葉で言い換えるとユーザー・エクスペリエンス(user experience)は、最も重要な要素の一つだ。ウェアラブル・デバイスは、身に着けるものなので、身に着けて違和感がない、というのも、使いやすさの一面でもある。また、身に着けるものであることから、スタイル、つまり格好いいかどうかも、ユーザーが購入するかどうかの大きな要素となる。

Appleはこれまで、この使いやすさとスタイルで、新しい市場を切り開いてきた。追随するSamsungも、多くのデザイナーを抱え、スタイルに注力している。高機能と低価格化には強みを発揮する日本のメーカーだが、使いやすさとスタイルでも勝負できるかが、この市場での成功の鍵となるだろう。

  黒田 豊

(2013年4月)

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