2022年、加速する情報通信技術活用と課題

新年明けましておめでとうございます。
2020年春に始まったコロナ禍が、ワクチン接種の広がりとともに2021年後半にはようやく終息の兆しが見え始めたかと思った矢先、新しい変種のオミクロン株の発生で、再び世の中は先の見通しが立てにくい状況になってしまった。それでも年が改まり、その解決までにはあと一歩、そう期待したいところだ。

コロナ禍の2年、なんとか最悪の事態にならず、経済も生き続けているのは、情報通信技術の発展と活用によるところが大きい。リモートワークやタッチレスでいろいろなことができるのも、そのおかげだ。以前、10年後には情報通信技術の活用で世の中はこう変わる、と言われていたものが、わずか2年で現実になってきた点は大きい。人々が新しい技術を受け入れるのにかかる時間が、コロナのために一気に短縮され、情報通信技術活用が加速した。それによって、ビジネスのやり方を変革するデジタル・トランスフォーメーションも加速し、いろいろな分野で、「Digital First」がこれからの主流になると考えられている。

株式市場も、2020年春に一度大きく下がったあとは、オミクロン株が出現した一時期を除き、ほとんど一本調子で上昇を続けている。なかでも情報通信にかかわる企業の株価上昇は大きい。Apple、Microsoft、Alphabet(Googleの親会社)は2021年12月30日現在、2020年はじめに比べ2倍以上の株価となっている。Amazon、Meta(旧Facebook)も1.6から1.8倍と高い伸びを示している。リモートワークで必須となったオンライン会議システムを提供するZoomは、ピーク時よりかなり株価が下がったものの、それでもこの2年で株価は3倍近い。

スタートアップの世界でも、コロナ対策のための金融緩和の影響もあり、スタートアップ企業への投資額は新記録を更新しており、なかでも情報通信関連分野への投資額は大きなものとなっている。スタートアップ企業の新規株式上場は、多数のSPAC(Special Purpose Acquisition Companies:特別買収目的会社)の出現でさらに加速し、スタートアップ企業の評価額も業界関係者が驚くほど高額になっている。これまで、未上場で評価額が10億ドルを超えるユニコーンと言われる企業になると、大きく注目されたが、ここにきてユニコーン企業数が950にまで増えたため、ユニコーンの10倍、評価額が100億ドルのデカコーン企業にならないと、大きく注目されなくなってしまった。そのデカコーンもすでに30を数えるまでになった。

ホットな技術として挙がっているものも数多い。ビッグデータ分析とそのためのAI技術、ブロックチェーン技術を使った仮想通貨や各種業務、AR(Augmented Reality:拡張現実)・VR(Virtual Reality:仮想現実)・MR(Mixed Reality:複合現実)を使ったメタバースなど、枚挙にいとまがない。すでに何年も前から活用が広がっているクラウド・コンピューティングや、それを応用したSaaS(Software as a Service)分野も、コロナ禍でさらにその利用が加速している。MicrosoftはパソコンのOSやWord、Excel、PowerPointなどで有名だが、気が付いたらクラウドサービスの売上(MicrosoftがIntelligent Cloudと分類するもの)が、売上全体の36%にも上っている。Eコマースで小売業にデジタル・トランスフォーメーションを起こしたAmazonも、サイドビジネスのように見えたクラウドサービスが、売上は全体の約13%だが、利益の54%を占める中心的なビジネスとなっている。創業者Jeff Bezos氏に代わって、2021年7月からCEOとなったAndy Jassy氏は、そのクラウド・ビジネスAmazon Web Services (AWS)を2003年以来けん引してきた人物だ。

ホットな技術それぞれについては、これまでこのコラムでも取り上げてきたので、個別にはそちらを見ていただきたいが、今年、そしてこれから数年に起こることを考えるとき、世の中で言われるハイプカーブ(Hype curve)との関係にも注目したい。ご存じの方も多いかもしれないが、ハイプカーブとは、新しい技術、新しい言葉が出てくると、そこで一度大きく騒がれ、その後、期待ほど市場が大きくならず、市場が冷える過程を通り、その後は技術によっていつの間にか伸びてくるものと、そのまま消えてしまうものがあることを表現したものだ。

これでいうと、今年最初に騒がれる言葉は先月のコラムでも書いた、「メタバース」かもしれない。昨年で言えば、ブロックチェーン技術を使ったNFT(Non-fungible token:非代替性トークン)が、初期の騒ぎのただ中にいる。いずれもおそらく今年、来年は期待ほどではない、という状況に陥るのではないかと思う。ただ、その後気が付かないうちにどんどん伸びてくるか、それとも一時のあだ花で消えて行ってしまうかは、注意してみる必要がある。

一方、AIは技術そのものの進化もさることながら、それを活用したものがどんどん広がっており、この分野はハイプカーブの後半、安定して現実的に市場が大きく伸びている分野だ。コロナ禍でできるだけ人を介さず、いろいろな作業をするためにも、AIの活用が広がり、人々のAI技術に対する許容度も高まっているように感じる。今年も多くの分野でAIの新しい使われ方が出てきて、これまで出来なかったことが出来るようになることが期待される。国連が提唱しているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)にかかわる多くの分野でも、AIによって新たな解決策が出てくることが期待される。AIを有効活用するためには、どれだけデータを集められるかが一つの鍵となるので、「データの時代」などと言われるが、これも今年さらに加速するだろう。

ブロックチェーン技術については、それを利用した仮想通貨のBitcoinなどが、市場でその価格を大きく伸ばしているが、いまだに仮想通貨としての価値というよりも、投機対象になっている感が強い。仮想通貨としては、ドルなどと連動するステーブルコインや、各国の中央銀行が発行を考えている中央銀行デジタル通貨が、投機的ではなく、本来のメリットである個人間の安価で簡単な送金や決済などに使われることが、これから数年かけて広がる可能性がある。この場合、どの仮想通貨が主流になるか、また、これまでの通貨流通量をコントロールすることによって行われてきた経済政策にどのような影響が出るか、各国の戦いがすでに始まっている。

ブロックチェーン技術を使ったNFTも、投機対象という感がつよく、NFTを本当に価値のあるものと考える人がどれくらいいるのか、今後さらにこのブームが続くかどうかは不透明だ。ブロックチェーン技術を書類の認証に使うなど、いろいろな分野で活用する動きは、法的な問題もあり、導入に時間がかかる面もあるが、ゆっくりだが少しづつ広がっていく段階に入ってきていると言える。

情報通信技術の発展は、人間社会に多くのメリットを提供しているが、その一方で、課題も出てきている。SNSによる偽情報の拡散や世の中を混乱させる煽動的な活動、また誹謗中傷や本人に承認を得ずに個人的な画像を拡散するなどの、デジタル犯罪と言われるものも拡大している。SNSを広げてきた大手プラットフォーム各社も、このような使われ方をするとは、当初思っていなかっただろうし、その結果、それらに対する対策は、法的な面も含め、まだ十分追いついていない。

情報通信技術に多くのことが依存する中、そこにある貴重な情報を盗んだり、そのデータを一時的に使えなくして身代金を要求するなどの犯罪も多発している。情報セキュリティやプライバシーに対するニーズは、これまで以上に高まっているが、犯罪に対する防衛技術は進化しているものの、犯罪者側の技術進歩とともに、いたちごっこを続けていて、完全に解決を見ることは、今後も難しいだろう。

もっと大きな課題は、人間がどのようにAIと対峙していくかだ。AI、中でもMachine Learning(機械学習)やその発展形のDeep Learning(深層学習)は、AI自身が考え、結果を出してくる。そのもととなるのは、人間が提供するデータで、それをもとにAIは自分自身をトレーニングして成長していく。どのようなデータを、どれくらい与えるかによって、当然結果は変わってくる。少ないデータをもとに結論を出せば、間違うこともある。偏ったデータを提供すれば、偏った考えをもとにした結論を出す。悪意を持ってデータを提供すれば、悪意を持ったAIが出来上がる。これを誰かが悪用すると、SF映画のように、人類の破滅に向かう可能性も、決してゼロではない。情報通信技術の発展が、もろ刃の剣であることを、特にAIについては、忘れることができない。

現在そして将来のAIを含めた情報通信技術を、生かすのも人間だし、それによって人類を破滅に向かわせるのも、それを使う人間次第だ。技術で何ができるかだけでなく、それをどのように使うか、人間の倫理観にも深くかかわってくる問題だ。戦争でこれまでに使われた大量破壊兵器は、その恐ろしさを知って、人類はいまのところそれらを使うことを抑制できている。AIを含む情報通信技術についても、それを正しい方向に使う人間の知恵に期待し、今年、そして今後の進展に注目していきたい。


  黒田 豊

(2022年1月)

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