本格化するソーシャル・ネットワークを使ったサーチ

これまで、インターネット上で情報を見つけるサーチといえば、キーワードを使ってサーチし、そこに出てきたリンクをクリックして、必要と思われる情報を見つける、というものだった。サーチ結果のランキング上位に出てくるものは、ユーザーの住んでいる場所等、一部ユーザーの状況を考慮したものも含まれるが、あくまでも一般的な解だ。

一方、インターネット以外の世界だと、情報をいろいろな本や雑誌で調べるということもあるが、もっとも多いのは、その情報を知っていそうな知人・友人に聞く、というやり方ではないだろうか。Facebookを筆頭とするソーシャル・ネットワーク(SNS)は、そのような自分の知人・友人の集まりなので、サーチとSNSのインテグレーション、融合については、以前から注目されていた。もちろん、Facebookで自分の友人たちに、こんなものは知りませんか、と直接聞くことは、これまでもできたが、その返事を待たなければならず、返事をくれる人は、ほんの一部の人かもしれない。

このような状況を変えるべく、Facebookは、1月15日、新しいGraph SearchというSNSでの新たなサーチ機能を発表した。まだ米国のみであり、機能も限定された形でのベータ版だが、そこには、新しいサーチとSNSの融合の姿が垣間見れる。どのようなものかというと、まずサーチの質問は、自然言語で行う。たとえば、「私の友達でジャズが好きな人は?」、とか、「私と同じ出身地で、ハイキングが好きな人は?」などだ。今のところ、これでサーチできるのは、人、写真、場所、趣味/興味の4つだが、今後これを増やしていく予定という。CEOのZuckerberg氏の言葉を借りれば、Googleなどがやっているウェブサーチは、キーワードで検索し、リンクをリターンするものだが、Graph Searchは具体的な問い合わせに対して答を出すもの、ということになる。

ここまでは、すべてFacebook内の情報を探す話だが、将来的には、Microsoftとのパートナーシップで(MicrosoftはFacebook出資社の1つ)、何かをサーチしたとき、まずはFacebook内をサーチし、さらにその後MicrosoftのサーチエンジンであるBingを使ってウェブサイトの検索してくれるようになると言われている。そして、そのウェブ検索結果にFacebookでの友達の「いいね」情報なども付加される模様だ。

ここまで来ると、いままでGoogle等のサーチエンジンを使ってまずサイトへのリンクを見つけ、それからほしい情報を見つける、というやり方をする人が、かなり少なくなる可能性があるのではないだろうか? 今の段階では、このFacebookのGraph SearchがGoogleサーチの脅威になるようには見えないが、このように将来のことを考えると、Googleにとって、一大事になりかねないのが、今回のFacebookのGraph Search発表だ。

Graph Searchが脅威となるのは、Googleばかりではない。物を買ったり、行くレストランなどを決めるとき、人の評判を聞いて決めることはよくあることだが、今のところその分野でリードしているのは、地域ごとにお店等のユーザー評価をリストしているYelpというサイトだ。しかし、もしGraph Searchが本格的に広がり、それを使うことによって、買う物、使うサービスを決めることが広まると、Yelpを使う人は少なくなってしまうだろう。このことが直接の原因かどうかわからないが、Yelpの株は、このFacebookのGraph Searchの発表直後、6%値を下げた。

ただ、このようにFacebookのGraph SearchがGoogleのサーチやYelpのサービスを脅かすまでには、まだかなり時間がかかりそうだ。FacebookもGraph Searchはまだ制限付ベータ版で、これからどんどん使えるものにするよう、機能を加えていくと言っている段階だ。1月の発表時に、Zuckerberg氏は、今のところ、このGraph Searchでどのように儲けるかについては、注力していないとも言っている。

実際、このGraph Searchが有効に使えるようになるためには、まずユーザーがたくさんの情報をFacebookに提供しておくことが前提となる。Yelpなどは、地域ごとのお店等のユーザーの評判をすでにかなり持っていて、それが重要な情報となっている。これに対し、Facebookでは、まだまだそのような情報は十分蓄えられていない。たとえば、自分がどこに行ったことがあるか、どんなレストランに行ったことがあるか、どのようなものに「いいね」と思っているか、誰とどこでどんな写真を撮ったか、どんな趣味/興味があるか、などの情報が入っていないと、Graph Searchしても、目的の内容は出て来ない。このような状況になるまでには、しばらく時間がかかることは間違いない。

Graph Searchが有効になるための情報が蓄えられるためには、Facebookのユーザーが、プライバシーの不安なく、このような情報を提供できることがとても重要だ。Zuckerberg氏もそれは十分理解しており、このGraph Searchでは、すでに個人で設定したプライバシー条件で見ることができる人にしか、情報は提供されない、プライバシーに十分気を使ったシステムだと述べている。そして、もう一度、自分のプライバシー設定を見直し、どのような情報が、誰に見られるようになっているか、確認しなおしてほしいとも言っている。Graph Searchがこのようにプライバシーに気を使っていることはいいことだが、これまでのFacebookのやり方を見ると、いつの間にかシステムが変更され、ユーザーが意図しない形で情報が見られたくない人にまで見られてしまうようなことが過去にもあったので、はたして皆、このZuckerberg氏の言葉を信用して、どんどん情報を入れて行くかどうか疑問であり、それが実現しないと、このシステムの有用性は乏しくなってしまう。

一方、このGraph Searchが将来広まったとき、企業のビジネスにとって、多くの人に「いいね」をクリックしてもらうことが重要になってくる。これによって、情報を探している人に、その人の友達が「いいね」と言っていることがわかり、その人がその店やブランドを使う可能性が極めて高くなるからだ。こうなってくると、Facebookへの参加、そしてそこでの評判が、企業にとって極めて重要になってくる。

Facebookが今回発表したGraph Searchは、これまでにない、新たな情報の見つけ方を示唆している。これまでのようなキーワード・サーチは、今後しばらくは続くものの、その後は、Graph Search、あるいは、Appleがしばらく前に出したSiriでやろうとしているパーソナル・アシスタントなどにとって代わられる可能性が高い。そのとき、キーワード・サーチは、Graph Searchやパーソナル・アシスタントの下で動くツールでしかなくなり、ユーザーの本当のニーズを捕まえるのは、サーチエンジンより上位レイヤーのアプリケーションとなる。ただ、そうなってしまうまでには、まだ時間がある。FacebookやApple Siriの動きはもちろんだが、これに対してGoogleがどのように対抗してくるかにも、注目したい。

  黒田 豊

(2013年2月)

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