白熱するAppleとGoogleの戦い

6月25日、サンフランシスコでGoogleの開発者向けコンフェレンス、Google I/Oが始まった。Appleが同じ場所で同様のApple WWDC(Worldwide Developers Conference)を6月2日に行ってから、まだ3週間のため、必然的にこの2社の比較が話題となっている。2日間のGoogle I/Oコンフェレンスも、トップのキーノート・スピーチで始まったが、Googleの場合は社長ではなく、上席副社長で、Android、Chrome、Apps責任者のSundar Pichai氏が行った。

今年のGoogle I/Oは、Androidによるエコシステムが前面に出ていた印象だ。その狙うところは、スマートフォンやタブレットに加え、スマートウォッチなどのウェアラブル・デバイス、車、テレビを含むホームだ。そして、これらをシームレスにつなげたエコシステムの構築が、目指すところだ。3週間前のAppleのコンフェレンスを思い出しても、強調していた点に多少の違いはあるものの、どちらもエコシステムを構築し、ユーザーを囲い込もうという狙いは全く同じだ。両社ともコンシューマーの身の回りを、全方位でカバーしようとしている。

ここ数年のIT業界を見ると、注目すべきは、Apple、Google、Facebook、それにAmazonの4社だ。FacebookはSNSから、AmazonはEコマースから市場領域を広げようとしているが、どちらもAppleのiOSやGoogleのAndroidのようなオペレーティング・システム(OS)を持っていないので、共通のプラットフォームをもとにしたエコシステムの構築という面では、AppleとGoogleに比べると、やや見劣りする。OSを持ち、共通のプラットフォームをもとにしたエコシステムを作る可能性のある、もうひとつの会社といえばMicrosoftだが、モバイルでの出遅れが響き、今のところAppleとGoogleに比べると、かなり劣勢で、これから挽回するには、相当な登り坂だ。

GoogleがAndroidを中心に、エコシステム構築にまい進しているのは、スマートフォンで世界の80%におよぶ市場シェアを握っていることがある。遅れていたタブレットでも、2013年の出荷ベースでは、62%のシェアとなり、ここでもトップの座をAppleから奪い取った。この勢いを利用して、一気にAndroidエコシステムを構築し、世界中のユーザーを囲い込もうという戦略だ。

今回のコンフェレンスでGoogleが強調していた点をいくつか見ていこう。Androidを機軸としたエコシステムで狙っているものの一つに、Contextually Awareというものがある。日本語にすると、その人のいる状況を知った上で対応してくれる、というところだろうか。また、スマートフォンやウェアラブル・デバイスなど、さまざまなデバイスをシームレスにつなげる、という点がある。さらに、特に車などで必須となる、音声認識を使ったシステムも強調している。

スマートフォンとウェアラブル・デバイスのスマートウォッチを組み合わせると、たとえば、スマートウォッチを身に着けている人を認識し、スマートフォンをパスワードで解除する必要なく自動的に使えるようにすることができる。車ではAndroid Autoで、Google Mapとナビゲーションやサーチを、音声入力に対応できるものにし、使いやすさが強調されている。40社以上の車のパートナーの紹介もあり、これから本格化する車市場で、約30社のパートナーを持つAppleのApple CarPlayに対抗している。

ウェアラブル・デバイス用には専用のOS、Android Wearを用意し、これを使った四角型のスマートウォッチとして、Samsung Gear Live、LG G Watchが発売され、コンフェレンス参加者はどちらか好きなほうを選んで持って帰ることができる。また、Motorolaも近々Moto 360という丸型スマートウォッチを発売予定で、これも出荷されはじめたら、コンフェレンス参加者に配られるとの発表が、キーノート・スピーチの最後にあった。

SamsungとGoogleは、お互いに頼れるパートナーであるとともに、主導権争いもしており、つい最近、SamsungはAndroid OSではない、日本企業と共同で開発したTizenという、オープンソースのOSを使ったスマートフォンを発売したばかりだ。しかし、今回のウェアラブル・デバイスでは休戦し、パートナーとして最初の製品を出してきている。今後Samsungが、Google AndroidとTizenのどちらを重視していくか、注目される。

テレビに関しては、2010年に売り出したGoogle TVがコンテンツ業界と契約を結ばずに販売したことから反発を受け、失敗に終わっているので、この市場への再チャレンジだ。Google TVが失敗したことから、同じ名前ではなく、今度はAndroid TVという名前だ。インターネット経由で配信されたテレビ番組等を、Android TV(ソフトウェア)を使ったサードパーティ・メーカーのスマートTVや、インターネット・セットトップボックス(iSTB)を使ってテレビに映し出す仕組みだ。スマートフォン、タブレット、それにパソコンからは、昨年発売された$35のChromecast(テレビに差し込んで使うスティック状のハードウェア)を使って、ビデオコンテンツをテレビで見ることができるが、Android TVにより、スマートフォン等を使わずに、テレビにインターネットからのビデオコンテンツを映し出すことができる。

Appleの持つApple TVや、Rokuなどのサードパーティ・ボックスと違い、Googleは、ソフトウェアのみを提供し、ハードウェアはテレビメーカーやサードパーティにまかせる方式だ。これまでのスマートフォンやタブレットと同じ方式をここでも踏襲している。

テレビ以外のホームでのデバイスやアプリケーションとしては、いろいろな異なるフィットネス・デバイスからの情報を統合するGoogle Fitプラットフォームが紹介された。発想は先日Appleが発表したHealth Kitとほぼ同じだが、名前からして、Googleのものはフィットネスの範囲に留まっているのに対し、Appleは医療業界とのパートナーシップも発表したので、Appleのほうが、ヘルスケアを医療まで広げたものになる可能性がある。

スマートフォンやタブレット向けのAndroidについては、今年後半に出荷予定のAndroid Lの機能について、新たなユーザー・エクスペリエンスによる使い易さの向上などの説明に多くの時間が費やされたが、昨年から話題となっているGoogle Glassや、今年はじめに大型買収として大きな話題となった、ホームでのエネルギー管理を行うNestについては、特に何の発表もなく、また、今でも収入の大部分を占めるサーチについても、何も出てこなかった。

今回はAndroidによるエコシステムを強く印象付けることに主眼を置いたコンフェレンスとなったが、これは、個別の製品やサービスではなく、全体のエコシステムを制覇することが、Appleに対抗する上で最も重要だからだ。この2社がエコシステムを作り上げていくと、コンシューマーは、そのどちらか一方を使うことになるが、どちらの陣営もAPI(Application Programming Interface)をオープンにし、幅広いデバイス、アプリケーションを使えるようにしているので、ユーザーとしては、2社が競争し、さらに進化したすぐれた製品やサービスが世の中に出てくることが、期待できそうだ。

  黒田 豊

(2014年7月)

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