AIブームで急成長するNvidia

半導体メーカーのNvidiaの快進撃が続いている。ご存じの方も多いと思うが、Nvidiaは米国シリコンバレーに本社を置く半導体メーカーで、創業時からグラフィック処理の高速化に役立つGraphics Processing Units (GPU)を開発・販売し、主にゲーム市場の成長とともに伸びてきたが、そのGPUがAIの高速化にも役立つということで、AI市場のここ数年の伸びとともに、大きく成長してきた。GPU市場では、実に80%以上の市場シェアを持っているという。

そして、2023年6月には、時価総額で1兆ドル($1 trillion)を超える7番目の米国企業となり、半導体企業のトップとなった。そして、つい最近、2023年第4四半期の業績結果が発表されると、株価は一気に上昇、2月22日には1日に時価総額が$277 bil.上昇し、これはこれまでの株式市場の1日の時価総額上昇最高記録となった。GAFAM (Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)を超える数字だ。そして2月23日の取引中には、時価総額が一時2兆ドルを超え、3月1日の終値でも超えている。

時価総額では、Microsoft、Appleに続く3位、Amazon、Alphabet (Googleの親会社)、Meta(旧Facebook)の上を行っている。昨年第4四半期の業績結果が出るまでは、そろそろNvidiaの急成長も鈍化するのではないかとの警戒感から、株価も少し下がったが、結果は3四半期連続で市場予測を上回り、売上$22.1 bil.(前年同期の3倍以上)、利益$12.3 bil.(同8倍以上)となり、その心配を吹き飛ばす結果となった。Nvidiaの株価は2023年1年間で3倍に、今年に入ってからも、すでに70%上昇している。

AIブーム、特に2022年11月にChatGPTが出現し、生成AIが大きく注目され、これは一時的なブームではなく、インターネットがそうであったように、世の中を大きく変える可能性の高いものだ。そして、そのAIモデル構築のため、NvidiaのGPUが必須となっている。このAIチップ需要に対し、Nvidiaの生産が追いつかない状況で、Nvidiaの主力商品であるH100は$25,000と高価なこともあり、ネットワーク機器大手のCiscoなどは、Nvidiaのチップ輸送に、現金輸送車並みの警備員を付けているという。

NvidiaのGPU確保が、各社のAI開発スピードに大きく影響するということで、どれくらいのチップを確保できているかが、AI企業にとって重要になっており、優秀な人材採用の、一つの要素にもなっている。今やMicrosoftやGoogleなど、大手各社のAI開発費の多くは、GPU購入につぎ込まれているという。

そのため、学生や転職を考えるエンジニアなどの間で、Nvidia人気は極めて高い。社員の半数以上が$228,000以上の年収を得ているという高給に加え、ストックオプションももらえるので、株価急上昇中のNvidiaは、とても魅力的だ。実際、社員の中で、資産100万ドルを超えるMillionaireになっている人も、かなりいるという。

Nvidiaという会社が産声を上げたのは1993年。シリコンバレーでは珍しく、創業時から30年、現在に至るまでCEOでビジネス全般を見るHuang氏と、ハードウェア専門家のMalachowsky氏、それにソフトウェア専門家のPriem氏 の3人で、ゲームの3Dグラフィックスに、より現実味を持たせる高速チップを開発する会社を作ろうと話してできたのがNvidiaだ。その3人が集まって話していたのは、日本でもファミリー・レストランでおなじみのDenny’sだったという。彼らによると、何時間も無料のコーヒーのお替りばかり頼んでいた、あまり歓迎されないお客だったと言っている。

現在は時価総額3位、半導体では、以前隆盛を極めたIntelなどを超え、トップに立っているが、その道は必ずしも順調ではなかった。この30年で、Nvidiaの株価が85%落ちたことが二度あった。Amazonには一度あったが、Microsoft、Apple、Google、Facebookには、一度もなかったことだ。そして、直近の2022年にも、85%ではないが、株価が半分になった経験をしている。こんなことが過去にあったので、Nvidiaには、「あと30日で倒産するかもしれない」という危機感を持つことが、非公式なモットーとなっているという。いまは、さすがにそれは現実的な話ではないが、それでもHuangは、このような危機感を常に持ちながらビジネスを行っているという。

Nvidiaは常に、まだ市場が出来てないところに市場を作ることをめざしてきた。ゲームの世界でGPUを使って3D 処理を高速化することもそうだし、AIにそのGPUを活用することもそうだ。Huangは、これを$0 bil.市場にチャレンジする、という言い方をしている。AI市場に参入しようとしたとき、株式市場関係者は、あまり好意的にそれを見なかったようだが、AIの研究者たちは違っていた。彼らには、いままさに必要なチップだったのだ。このチップを使ったAIスーパーコンピュータとでもいえるものを、Nvidiaは2016年に構築し、それを導入したのがOpenAI社だ。OpenAIが、その後ChatGPTを発表し、瞬く間に世界に広がったのを見ると、NvidiaのAI市場参入という狙いが、いまのNvidiaの隆盛を形作ったと言える。

このように急成長してきたNvidiaにも、死角がないわけではない。現在の高い売上は、いくつかの大口ユーザーの大量購入による。Nvidia自身、昨年の売上の実に19%が、大口顧客1社からのものだと証言している。そして、業界の推定では、クラウド大手のGoogle、Amazon、Microsoftで、Nvidiaの売上の半分以上になるだろうとのことだ。また、Metaは今年NvidiaのH110チップを350,000購入すると言っており、これは金額にすると、$9 bil,近くになる。この大口顧客依存は、将来の一つの不安材料だ。

AIブーム、そしてそこに使われるNvidiaのチップの需要を見て、他社も同様にAI向けチップ開発に邁進している。Advanced Micro Devices (AMD)は、Nvidia対抗のチップで今年$3.5 bil.の売上を見込んでおり、半導体大手のIntelやArmもAIチップ市場参入を表明している。チップメーカーだけでなく、現在の大口ユーザーであるGoogleやAmazonも、AI用チップの自社開発を目指しており、Microsoftは既に昨年11月、AIチップのMaia 100を発表している。ただ、AI市場でチップが使われるためにはソフトウエアが必要で、Nvidiaはその点、他社より数歩先を行っている。Nvidiaに追いつくのは容易ではない。

注目すべきなのは、NvidiaのチップのAI利用には2つのパターンがあり、一つはAIモデル構築のためのトレーニング用で、大量のデータを高速に処理する必要があり、これにはNvidiaのチップのスピードが極めて重要で、いまのところ他社がそれに追いつく兆しはなさそうだ。もう一つの使い方は、出来上がったAIモデルを使って、具体的な問題にAIに応えてもらうことだ。ChatGPTでいえば、OpenAI社はChatGPTを世の中に出すまでに、大量のデータを使って、そのAIモデルのトレーニングを行った。そして、そこにはたくさんのNvidiaのチップが使われた。

一方、そのChatGPTを使って、文章を作ったり、文章のエラーを見つけたり、翻訳したりするが、こちらに関しては、AIモデルのトレーニングほどは、高速の処理が必要ではなく、この部分(inferencingと呼ぶ)に関しては、他社のつけ入る隙が十分ありそうだ。そして、将来は、AIモデル構築のためのトレーニングよりも、inferencingの部分に多くの需要があるとも言われている。そうなったときには、inferencing部分を含むAIチップ市場は、Nvidiaの独壇場ではなくなる可能性が十分ある。直近の生成AIブームをけん引してきたOpenAI社も、7兆ドルという桁違いのお金を求め、電力消費の少ないAIチップ開発を目論んでいる。

とはいえ、AIモデルは、一度構築すればそれで終わりというわけではなく、新しいデータを常に加えて、AIモデルを更新していく必要があり、ここでは、まだNvidiaのチップが必要となる。そして、個別企業ユーザーも、セキュリティや信頼性の問題から、独自のデータを使ったAIモデル構築に進む可能性があり、まだまだNvidiaのチップを必要とする市場は大きい。Nvidiaの隆盛は、しばらく続くだろうが、その先もその優位性を保てるか、それとも他社が追いついてくるのか。この先、Nvidia、そしてAI向け半導体チップ市場の行方が注目される。


黒田 豊

2024年3月

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