Google、SNSに再挑戦

Google が6月28日、新しいSNS(Social Networking Service)としてGoogle+を発表した。SNSで先行するFacebookへの対抗だ。ただし、まだ招待者のみということで、誰でも参加できるわけではない。

GoogleがSNS市場に挑戦するのは、今回が初めてではない。すでに数回チャレンジしており、いずれもうまくいっていない。その間にFacebookはどんどんユーザー数を増やし、今や世界で7.5億人のユーザーを抱えている。しかし、SNS市場は今後インターネット広告ビジネスにも大きな影響を与えるものなので、サーチ関連広告を中心としたインターネット広告でトップを行くGoogleとしては、SNSでのFacebookの独走を許すわけにはいかない。そこで今回の発表となった。

Googleは昨年秋ごろから、新たなSNSを開発している話をしていたが、単純にFacebookに対抗するようなものではないと言っていた。しかし、今回発表されたものを見ると、少なくとも見かけ上は、Facebookによく似ている。Facebookより後発なので、いくつかの特徴はある。その一つはCircleと言われるもので、情報をシェアする人達をグループ化し、それぞれのグループで共有する情報を分けようというものだ。

Facebookは友達全員と情報をシェアすることが基本であるのに対し、Google+では、小グループを作っていくことが基本になっている。もっとも、FacebookもGroup機能として、このような一部の人達をグループ化する機能を、昨年秋から提供している。

もう一つGoogle+の特徴的な機能として、Hangoutと呼ばれる、仲間10人まででビデオチャットを行う機能がある。ビデオチャットについては、Facebookでは、サードパーティのアプリケーションがあるものの、Facebookが直接提供する機能としてはなかった。これについては、FacebookがGoogle+発表約1週間後の7月6日、Skypeとの提携という形で、ビデオチャットを提供すると発表した。ただし、今の時点では1対1のビデオチャットで、10人までのビデオチャットが行えるGoogle+に比べると、やや機能が劣っている。その他にも細かいところでいろいろな違いはあるが、大きくはこの2つと言っていいのではないかと思う。

機能的に比べるとGoogle+はFacebookに比べてそん色ないといえるが、問題はFacebook7.5億人のユーザーに対し、Google+はこれからユーザーを集め始める、ということだ。これは大変厳しいチャレンジだ。パソコンを購入する場合などは、何年かに1度は買い換えるし、そのときに別なメーカーに買い換えることも、それほど大きな問題はない。しかし、SNSでは、そのような簡単な乗り換えは出来ない。

Facebookを今使っている人達は、そこでたくさんの友達(Friend)を作っているわけで、Google+に移ってしまうと、それらの友達とのつながりがなくなってしまう。つまり自分だけがFacebookからGoogle+に移っても何も意味はなく、友達皆が大移動しなければならない。もちろん、このようなことが起こらないとは限らず、つい数年前はSNSといえばFacebookではなく、Myspaceが有名だったのが、いつの間にか皆MySpaceからFacebookに移ってしまい、Myspaceは今や話題にもほとんど登らなくなってしまった。したがって、人々がFacebookからGoogle+に大移動することも、可能性がゼロではない。しかし、今のFacebookの規模を考えると、あまり現実的とは思いにくい。

別な可能性としては、Google+がFacebookと正面から喧嘩せず、特徴あるSNSとして、特定な使い方をされるということがある。実際、つい最近株式上場を遂げたLinkedInは、同じSNSでもビジネスに特化しており、個人の趣味などではなく、ビジネス上の経歴をプロフィールに載せ、仕事探しやビジネスの役に立てようとするものだ。2ヶ月前に上場したときの事前価格に比べ、現在はその2倍以上をつけていることからも、LinkedInに対する市場の評価は高い。また、企業内で使うためのSNSに特化しているSNS会社も存在する。ただし、Googleのビジネスモデルの基本が広告収入ということを考えると、後者の企業内SNS市場を狙うということは、少々考え難い。

このように、Google+の将来は厳しいものがあるが、巨人のGoogleがはじめたことなので、投資のための資金も十分だし、世の中も注目している。また、Googleの持っているサーチ市場での圧倒的な強さ、無料で提供しているGmailなどのユーザー、モバイル端末で使われるOSのトップを走るAndroidなどとの連携をはじめると、Google+を強化するための種は、たくさん持っている。一方のFacebookも、自社に資本を入れているMicrosoftとの関係をさらに強化し、サーチの世界ではMicrosoftのBingとの連携を強め、ビデオチャットの世界では、Microsoftが最近買収したSkypeとの連携を強めて対抗している。

Google+はまだ始まったばかり、しかも招待者のみが使えるという状況だが、株式市場の反応はよい。Googleの株価はGoogle+発表前日の$482.80から上昇し、7月7日には$546.60を付けた。Google+のためだけとは言えないが、時価総額が10日間で約200億ドル(約1.6兆円)増加したことになる。それだけGoogleの今回の発表は注目されており、またSNS市場そのものが注目されていることがよくわかる。今後SNSの世界が、Facebookの一人勝ちではなく、Googleが強力な競争相手となれば、市場のためにも、ユーザーのためにもいいことに違いない。

  黒田 豊

(2011年8月)

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