コロナ禍は、日本企業、日本社会にとって、変革の大きなチャンス

新年明けましておめでとうございます。
2020年は、3月頃に始まった新型コロナウィルスに襲われ、全く予想もしていなかった年になってしまった。ウィルスに感染し、あるいは感染しなくても、大変な目にあった方々には、ご苦労を心よりお察し申し上げます。

年が改まり、世界各地でワクチンの接種も始まり、コロナ禍もようやくトンネルの先に光が見えてきたのは、何よりだ。そこで、コロナ禍に見える、ポジティブな面について考えてみたい。コロナ禍で仕事の仕方も大きく変わり、リモートワークをするようになった方々も少なくないだろう。また、できるだけ物に触れず、タッチレスでいろいろなことが出来るような世の中にもなってきた。これらの多くは、ここ数十年で大きく発展してきた、情報通信技術(ICT)によるところが極めて大きい。世界中の多くの人々が、それを強く実感した。

リモートでの仕事、タッチレスでの作業が大幅に増えた結果、テレワーク、Eコマース、テレヘルス、リモート授業、各種機器のリモート操作、自動操作、ロボット活用など、すでに技術的に可能になってはいたものの、まだそれほど広く使われていなかったものが、次々と日常的に使われるようになってきた。テレワーク一つとっても、移動時間の節約、通勤ラッシュの緩和、オフィスなどのスペースとコスト削減、地理的な制約の排除など、多くのメリットが言われていながら、これまでは保守的な考え方、人事評価の難しさなどを含む反対意見などにより、特に日本では、なかなか進んでいなかった。

それがコロナ禍になり、昨年春には緊急事態宣言も出され、「やるしかない!」ということで、多くの会社がテレワークに舵を切った。その結果、やってみたら「結構問題なく出来る!」ということがわかり、今後コロナ禍が終息しても、ある程度はテレワークが残るだろう、というのが大方の見方だ。テレヘルスにしても、米国のある病院では、以前は1日20件ほどしかなかったのが、コロナ下ではその350倍、7000件になったという。コロナ禍終息後も、テレヘルスで問題ないものは、そのままもとには戻らないだろう。一つ一つ上げるとキリがないが、多くのものが、コロナ以前には戻らず、ほとんどのものがWithコロナのときの状況と、コロナ前の状況のハイブリッドになるだろうと予想されている。

そうなる理由は、Withコロナで起こった変化にメリットがあると多くの人たちが感じ、人々の行動に変化をもたらしたからに他ならない。シリコンバレーには、スタートアップ企業を支援する多くのベンチャー・キャピタルや個人のエンジェル投資家が存在するが、彼らの話を聞いていると、コロナ禍によって起こった人々の考え方の変化、そして行動の変化によって、さらに新しいニーズが出現し、それをうまく見つけてソリューションを提供するスタートアップ企業が、これから次々に出てくるだろうと、大きな期待を持っていることがわかる。まさに、新しいことを始める、イノベーションを起こす絶好のチャンス、というわけだ。

このような状況で、日本企業、そして日本社会には、いま大きく3つのチャンスが訪れている。1つは大きく遅れているデジタル活用、デジタル・トランスフォーメーションを急加速させるチャンス。2つ目は、コロナ禍で大きく変化した人々の考え方、行動に対する新たなイノベーション、新たなビジネスのチャンス。そして3つ目は、これまでイノベーションを起こすことに大きな障害となっていた、日本的な物事のやり方を大きく変革し、停滞気味の日本を活性化するチャンスだ。

まず1つ目のチャンス。スイスのビジネススクールIMDによると、世界各国のデジタル競争力は米国が1位、日本は前年から4つ下がってなんと27位という低い位置にある。実際、今回のコロナ禍で、日本がいかにデジタルで遅れていたかを実感した人たちは多いだろう。日本政府の人達もそれを実感したことは、先日あるセミナーでの西村経済再生担当大臣の、コロナ禍によって日本のデジタルの遅れが明確に露見した、という趣旨の発言にも表れている。

日本政府が、そして日本の人々がこのデジタルでの遅れを本気で実感したいま、デジタル・トランスフォーメーションを一気に急加速させる絶好のチャンスだ。世界27位に甘んじている日本だから、「加速」では物足りない。「急加速」が必要だ。日本では、皆が同じ方向を向くと、とてつもなく大きな力を出し、急加速することができる。戦後日本の急速な復興を見れば明らかだ。いま、コロナ禍のおかげで、それが実行できる絶好のチャンスを迎えている。

次に2つ目のチャンス。ICTでのイノベーションは、これまで米国を中心に発展し、日本発のものはほとんどなかったと言っても過言ではない。しかし、コロナ禍で人々の考え方が大きく変わり、行動が大きく変わったいま、シリコンバレーのベンチャー・キャピタリスト達が言うように、新たなイノベーションの大きなチャンスだ。日本でもスタートアップがここ5年ほどで随分成長してきた。いまこそ、スタートアップを含めた日本企業が、新しいイノベーション、特に時間のかかる技術革新を伴わなくても出来る、ビジネス・イノベーションに挑戦する絶好のチャンスだ。

そして3つ目のチャンス。私が5年ほど前に出版した「なぜ日本企業のビジネスは、もったいないのか」(日本経済新聞出版社)にも書いたが、日本ではイノベーションがなかなか起こり難い。日本人個人個人、日本企業、そして日本社会全体が、何か小さくなってしまっていて、本来ある力を出し切っていないように強く感じる。ある人は「閉塞感」という言葉を使っているが、同じようなことだと思う。

そこには日本的ないろいろな問題が見いだされる。減点主義、リスク回避思考、既存ビジネスへのマイナス影響回避、新しいものに対する不当評価、横並び志向、投資効果を考えすぎてつぶされるイノベーション、市場のタイミングとの不一致、イノベーションを起こしにくい職場環境、外部の力の活用不足、掛け声倒れのグローバライゼーション、グローバル市場ニーズとの不一致、本社中心主義、悪平等、年齢で人を見すぎる日本社会、上下関係を意識しすぎる日本社会、和が大切の落とし穴、大きな市場変化に弱い日本企業など、多くの問題を抱えている。

この一つひとつをここで説明する余裕はないが、これらが日本人を完全燃焼できない、力を出し切らない状態にしてしまっている。5年前に拙著を読んでいただいた方々に話を聞くと、話しはよくわかるし、その通りだと思う、だけど自分の会社は変わりそうにない、というものが多くいただいたコメントだった。しかし、最近ある方と話していたら、拙著で書いたような変革が、日本人、日本企業、そして日本社会に今こそ必要だし、コロナ禍によって人々の考え方、行動が変わったことにより、いまなら日本を変革できるのではないか、という言葉をいただいた。ということは、日本人、日本企業、そして日本社会の意識を変えることも、コロナ禍のおかげで実現できる大きなチャンスが到来している。

日本企業、日本社会、そしてそれを構成する日本人一人一人が、このコロナ禍を機に、ぜひ変革し、素晴らしい日本を築いてくれることを、コロナ禍が解決するであろう今年は、大いに期待したい。そのため、私も微力ながらお手伝いできればと思っている。

  黒田 豊

(2021年1月)

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