人が戻り始めた今年のCES

毎年1月はじめに米国ラスベガスで行われるCES(旧Consumer Electronics Show)。コロナ禍で2021年はオンライン開催、昨年は会場での開催だったが、オンラインでもいろいろ見ることのできる、ハイブリッド開催だった。今年は3年ぶりの本格開催となり、人もある程度戻ってきた。私も3年ぶりにラスベガスに足を運ぶことにした。以前のコラムでも書いたが、やはりオンラインで出展社を見て回っても、全体の雰囲気をつかむことは難しいからだ。例によって私は1日しかいなかったので、CES全体のレポートをするつもりはないが、私の目にとまった今年のCESについて、書いてみたい。

まず、出展社数は約3,200、訪れた人は約115,000人。昨年の来場者は44,000人だったので、それを大きく上回ったが、コロナ前の17-18万人には遠く及ばない。会場のスペースで見ても、2020年に訪れたときに比べ、2-3割小さくなっていたようだ。それでも会場を歩き回ると、がらがらという風ではなく、それなりに人が集まっている感じはあり、CESも今年は復活したか、という印象だ。

さて、内容を見ると、これまでと多少違う印象がある。多くの人がすでに言っているように、目玉となるような新しいものが、今年は見当たらない。これまでだと、たとえばドローンがたくさん登場したり、自動運転車、自動車内エンターテイメント、空飛ぶ車など、それなりに目を引くものがあったが、今年はあまりそのような、目立ったものがなかった。新しいものが出てくるタイミングではなかった、ということも言えるだろうし、景気の先行きが不安なため、少し先の将来使えそうなものよりも、今日明日使えるものに焦点が移っていたからとも受け取れる。

大きな展示ブースを構えている企業を見てみると、韓国のSamsungやLG、SKなどが、相変わらず真ん中の大きなスペースに陣取っており、人も多く集まっていた。また中国のHisense、TCLなどもかなり大きなスペースで目立っている。日本企業ではSonyとPanasonicが大きなブースを構えていた。Sonyにはホンダとの協業で開発中の電気自動車(EV) AFEELAが展示され、ブースの場所(毎年ほぼ同じ所)が会場の奥のほうにもかかわらず、多くの人が集まっていた。センター会場の中の日本企業では、CANON、Nikonがこれまでのカメラなどだけでなく、VRコミュニケーション・アプリや、デジタル・マニュファクチャリングなど、新しい領域に進もうとしているのが、目を引いた。

小さなブースを構える数多くの出展企業で見ると、以前同様、中国系と思われる企業が多かったが、コロナ前に比べると、少なかったように感じた。中国のゼロコロナ政策中だったため、米国にまで出てくるのが大変だったのかもしれない。米中対立の影響、という可能性もある。

CESでの展示は、その内容(分野)で大体スペースを分けているが、それを見ると、ヘルスケア分野が今回大きくなったと感じた。その中では、韓国企業がとても多いのが目立つ。以前からこの分野、なかでも美容・健康分野に韓国系企業が多かったが、今年はそれがさらに拡大した感じだ。個人的にも興味のある分野なので、少し時間をかけて見て回ったが、比較的安価で、ちょっと買って試してみたくなるものもいくつかあり、目のマッサージ器は、購入してみることにした。

ヘルスケアは広い分野なので、美容・健康、コロナ禍で注目されたウィルス検出が簡単にできるもの(コロナ以外も検出)、また、犬や猫などペット用の製品もある。マッサージ・チェアの出展も多かった。ヘルスケア・セクションに日本のサントリーが出展していたので、足を止めて話を聞いてみた。出展はサントリーのグローバル・イノベーション・センターによるもので、ほとんどのものがまだ開発中のようだったが、非侵襲性(non-invasive)血糖値測定器や、人の身体年齢を算出してくれるものなど、面白いものがいくつかあった。サントリーの「やってみなはれ」精神を生かし、今後たくさんの面白いものが出てくることに期待したい。

もう一つ、大きなスペースを取っていたのがVehicle Tech & Advanced Mobilityセクションだ。自動車関連企業の出展だが、数年前に比べると、大手自動車メーカーの出展が少なく、個別技術、部品等の展示が中心で、今回のCESのメインという感じではなかった。BMWはCEOがキーノート・スピーチを行うなど積極的な参加で、メルセデス・ベンツもそれなりに目立った出展をしていたが、トヨタ、ホンダ、GM、Fordなどは目につかず、やや寂しいものだった。乗用車ではないが、農業機器大手のJohn Deereが、自動運転可能な大型トラクターを展示し、キーノート・スピーチにも出て、AIや自動運転などを活用した将来の農業について語るなど、今回のCESテーマであるHuman Security(食料、健康、環境、エネルギーなど)に沿ったものとして、注目を浴びていた。

あと一つ大きなスペースを使っていたのは、Lifestyleという分野で、家でのエネルギーやセキュリティを含むスマートホームや、生活にかかわるWellness関連などの展示があった。FoodTechも近くにあり、サンプルを試食できることから、人は集まっていたが、出展社数はそれほど多くなく、今一つ盛り上がりに欠けていた。

これ以外の分野として、過去に大きなスペースを占めていたゲーム関連の出展、それに関連したeスポーツもほとんど見当たらなかった。また、発展が続くAI & Roboticsセクションも出展が少なくてスペースが小さく、Smart City、Fintechなど、まだまだ話題の分野も、目立った出展は見られなかった。

スタートアップ企業の出展が集まるEurekaセクションには、1000社あまりのスタートアップが、所せましとブースを並べていたが、それぞれ小さなブースのため、個別に立ち止まって話を聞かないと内容が見えず、今回は時間の関係で、日本のスタートアップ数社の話を聞くにとどまった。私も多少かかわっているダンス・トレーニング・プラットフォームのワンアーカー社に話を聞くと、他国からの人たちから興味を示されたようで、やはりCES出展の価値は十分あるようだ。このセクションは国別に分かれており、日本もそれなりのスペースを構えていたが、フランスが大きなスペースを取っていたのが目についた。

日本でも近年、スタートアップ企業が増えてきているが、日本市場だけにとどまらず、ぜひ早い段階で世界市場に向け、ビジネス展開してもらいたいものだ。そのためにも、来年のCESでは、スタートアップ企業の集まるEurekaセクションだけでなく、一般企業スペースに、日本のスタートアップ企業が進出していき、グローバルにビジネスを展開していくことを、さらに期待したい。

 

  黒田 豊

2023年2月

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