AIバブル?
昨年に続き、AIの話題が毎日続いている。今年かなり回復してきたスタートアップ企業への投資も、第3四半期は、その半分近くがAI関連企業へのものだ。そんな中、11月に入り、「AIバブル」の話がさかんに語られはじめている。その直前の10月末と言えば、AI用チップで業績を急拡大しているNvidiaが、AppleやMicrosoftを越え、初の時価総額5兆ドルを超えたときだ。この時価総額(当時)は、Googleの親会社AlphabetとMeta(旧Facebook)の時価総額を合わせたものよりも大きい。また、世界大手小売り3社(Amazon、Walmart、Costco)の時価総額を合わせたものよりも大きい。自動車業界と比較すると、Tesla、GM、Ford、Stellantis(Chryslerの親会社)の時価総額合計は1.7兆ドルに過ぎない。その他、NetflixやDisneyなどのエンターテイメント業界、Coca-ColaやMcDonaldsなどの食品業界と比べても、Nvidiaの時価総額は、比較にならないほどの大きさだ。
さすがに、ここまで来ると、ちょっと行き過ぎではないかと、投資家の間でもAIバブルが頭をよぎったのかもしれない。その結果、AI関連株の「売り」が始まり、11月1ヶ月でAlphabetを除く、多くのAI関連会社が株価を大きく下げた。特に11/17の週は、大きな下落の週となった。それもNvidiaが11/19に第3四半期決算を、市場予想より高い前年度比売上62%アップという報告をしたにも関わらずだ。11月の株価低下は、以下のようなものだ。
― Nvidia : -12.6%
― Microsoft : -5.0%
― Amazon : -4.5%
― Oracle : -23.1%
例外はAlphabetで、唯一11月に株価を13.6%上げている。その理由としては、それまでにGoogleが生成AIでOpenAIに先手を取られ、追う立場になったこと、Googleの売上の大部分を占める広告収入に、OpenAIのChatGPTの台頭で、大きな影響が出るのではないか、などと思われたことで、株価が他社に比べ、伸び悩んでいたのが一因だ。そのGoogleが第3四半期発表で、クラウド・ビジネスの順調な伸びや、広告収入の伸びを受けて、その不安が当面解消された。また、政府によるGoogle分割の不安がなくなり、さらに11月18日には、GoogleのChatGPT対抗チャットボットのGeminiの新しいバージョンが発表され、これはChatGPTをしのぐとも言われ、OpenAIのSam Altman社長が、社内に「非常事態宣言」を出したという話も出て、Googleの存在感が高まったことが挙げられる。
11月以前から、AIバブルを懸念する声は、くすぶっていたが、AIの可能性、将来性に期待するほうが、強く出ていたのが現状だ。しかし、そもそも「AIバブル」と言われるが、その言葉には注意が必要だ。これは、AIそのものがバブルで、世の中がAIで大きく変わったりせず、一過性のブームで終わる、という話ではない。あくまでもその期待が、実現する可能性に比べ、大きすぎ、お金がAI関連に行き過ぎているのではないかという、言ってみれば「AI投資バブル」だということだ。
これは、いまさら言うことではないかもしれないが、私の昔の経験から、念のため言わせてもらっている。その昔の経験とは、インターネットが始まったころの話だ。米国ではインターネットは世の中を大きく変えるものとしてとらえられ、その後の大きな発展も、それにそった、さらにそれ以上のものだった。しかし、日本では、最初にインターネットが騒がれた後、一時インターネットの話題が下火になったことがある。当時私が話をした、日本の大手SI(System Integration)会社の役員の方が「もうインターネットは終わったね」と言ったことを、いまでもよく覚えている。また、ある大手出版社とインターネット関連の本の出版の話をしているとき、担当者は乗り気だったにもかかわらず、その人の上司が「インターネットとか、exxという言葉の入った本は、もう売れないので出せない」と言っているという話を聞き、愕然としたことを覚えているからだ。日本におけるインターネット対応が、これによって遅れたことは否めない事実だ。今回のAIでは、このような心配はなさそうだが、念のため確認しておきたい。
さて、今回のAIバブルについては、AI関連ビジネスを大きく3つに分けて考える必要がある。
1. AIインフラストラクチャ―
2. 生成AIのためのベースとなるLLM(Large Language Model)開発
3. 生成AIを活用した、各種ソリューション
まず、AIインフラストラクチャーだが、NvidiaのAI向けチップは、その代表格だ。この分野は、AI市場全体の中で最も先行しており、すでに大きな売上、利益を生んでいる。また、これに関連して、これらAIチップを使ったサーバー、それをたくさん集めたデータセンター、そして多くの人にそれを使ってもらうクラウド・サービスなどが、この分野に入る。
すでにチップ業界やクラウド・サービス分野は、これに関連して大きな売上や利益を上げており、将来的にも比較的安全な分野と言えるが、それでも以下のような懸念を抱えている。
• 巨大なデータセンターを必要とするようなAI需要が、本当に実現するか
• AI向けチップでは、Nvidiaが勝ち続けるのか、それともAmazon、AMD、Googleなどが開発するチップが、その市場を崩していくか
• 新たな技術革新で、安価なチップや小さなデータセンターで、AIが利用可能になる未来は来ないか
• 現在のまま大きなデータセンターが必要になるとして、その電力需要は、十分に満たされるのか
• インフラストラクチャーへの投資、AI企業への投資、チップの購入などが、限られた企業同士で循環的に行われており、どこかがくずれると、その影響が多くのAI関連企業に及ぶのではないか
2つ目の生成AIのベースとなるLLMについてはどうか。この分野は競争が激しいが、この分野で先を行くためには巨大な投資が必要で、プレーヤーは限られている。先行するのはOpenAIだが、売上という面では、すでにAnthropicがOpenAIをしのいでいる。また、Googleもその存亡をかけ、大きな投資とともに開発を急いでおり、つい最近のGemini3の発表で、ChatGPTをしのいだとも言われ、急激に追い上げている。ヨーロッパにもフランスのMistralなど、いくつかの有力企業が存在する。中国も侮れない。
この分野での大きな懸念は、巨大な投資に見合った売上が、将来見込めるか、という点だ。一方で、いま巨額の投資をしないと負け組になってしまう、という懸念もあり、各社ともあらゆるところから資金を集め、巨額投資を続けている。巨額投資の回収に何年かかるか、そして本当に回収できるのかが大きな懸念だ。また、この分野は勝者総取りの可能性のある市場で、生き残るのは、1社と言わなくても数社程度で、そこに残らないと消えて行く可能性が十分ある。投資家としては、いかに勝ち馬を見つけるかも、大きな課題だ。
3番目の生成AIを活用した各種ソリューションについては、ここ数年、AIエージェントなどと言われるものなど、たくさんのものが、多くのスタートアップ企業からも発表されている。ここでの課題は、ユーザーが、どれほど本気で、そして、いつ頃から本格的にこれらのソリューションを利用し始めるかだ。また、多数の企業が乱立している分野でもあるので、ここでもどの会社が勝ち馬か、それを見極めることが、投資家として成功するには、大きな鍵だ。インターネットの初期にも、多くのスタートアップ企業が乱立したが、その多くは退場を余儀なくされている。
また、この分野は、それぞれのソリューションの使われる業界などで、その対応の仕方が大きく異なることが予想される。大きくは、次の3つの点に注意する必要がある。
• いつ頃から本格的に使われ始めるか
• どれくらいの期間をかけて、浸透していくか
• どれくらいの企業プロセスが生成AIに取って代わられるか
これらは、それぞれのソリューション、業界によって大きく変わる。ソフトウェア開発分野は、すでにかなり先行していると思われるし、一般事務作業への利用も広まろうとしている。一方、ヘルスケアに特化したソリューションなどには、大きな投資も行われているが、各種規制などによる障壁も考えられ、本格的な浸透には時間がかかるものもあるだろう。
以上見てきたように、3つの分野それぞれに懸念はあるが、AIの将来性については、疑問の余地はない。そのような中で、投資家としてうまくやっていくためには、常に市場や技術の動向を見極め、さらにはその中での勝ち馬を見つける「目利き」が重要となる。このようなAI市場、投資する面白味とリスクのバランスを取りながら、注目していきたい。
黒田 豊
2025年12月
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