今年のCESは進化の年

毎年1月はじめに米国ラスベガスで行われるCES(旧Consumer Electronics Show)。今年の来場者数の正式発表は見ていないが、昨年は18万人近く、今年もそれに近いものだったと想像される。CESについてのレポートなどは、新聞等に多く出ているので、すでに読んでいる方もいるだろう。私は今年も限られた時間しかいなかったので、CES全体のレポートではなく、私の目にとまった今年のCESについて、書いてみたい。

全体として感じたのは、何か新しいものがどんどん出てきた、というよりも、ここ何年かで出てきたものが進化した姿が中心だった。AIを使ったスマート・アシスタントや車の自動運転などは、もはやなじみ深いものになっている。ドローンやロボットもしかりだ。比較的新しいものとしては、これから広がり始める無線通信の5G向け製品や、現在主流になりつつあるテレビの4Kの先を行く8Kテレビの展示があったが、これらはすでに大きな話題となっているもので、初めて見る斬新なもの、という印象は薄い。

また、これは今年に限ったことではなく、ここ何年かの印象だが、中国企業の出展がとても多いのが目につく。なかでも中国深圳のスタートアップ企業がたくさん出展しており、これはおそらく中国政府の支援があってのことではないかと想像される。また、10年以上前は日本企業がCESの主役的な感じがあったが、いまは韓国、中国、台湾などの企業に押され、日本企業の印象が薄くなってしまっているのは、寂しいことだ。テレビなどの、いわゆる家電製品はもちろんのこと、AI、ロボット、ドローンなどでも、これらの国の企業の出展が目立っていた。

そんな中、私の目についたものについて、いくつか紹介したい。あくまでも個人的な目にうつったもの、ということで読んでいただければと思う。ひとつは日本のホンダによる車の自動運転に関する新たな考え方の紹介だ。車の自動運転に関する出展が始まって、もう何年か経ち、昨年や今年は車内でのエンターテイメントや、ハンドルのない車などの出展が主流になってきている。私は以前から、タクシーやバスなどでは完全自動運転車も可能だが、個人用の自家用車では、なかなか難しいのではないか、と思っていた。たとえば、あるところに行きたい、という場合、タクシーならその場所の前まで行き、降ろしてもらえばそれでいいが、自家用車の場合は、近くの空いている駐車場を見つけ、そこに車を止める必要があり、そこまですべてを自動化するのは、まだまだ先のことのように思えたからだ。

ホンダの発想は、まさにこのような私の感覚に近く、さらに現実にありそうなシナリオでそれを説明していた。たとえば、家族でドライブ中に、車窓から見える景色から、立ち寄りたいところ、お店などが見つかったら、ちょっとハンドルを切ってそこに行きたい気持ちになることは、よくあることだ。ところがこれをハンドルのついていない自動運転車でやろうとすると、新しい行先を急遽指示する必要があり、簡単に行きそうにない。そこで、ホンダが提案しているのは、ハンドルやブレーキなど車の手動操作を可能にするものは、そのまま残し、通常は自動運転にまかせるものの、必要に応じて手動運転に切り替えられるAugmented Drivingだ。これは私の感覚にぴったりきたものだった。

次に目にとまったのは、Neonという、まだスタートアップらしい会社の展示だ。大きな画面をいくつも用意し、その中では、普通の人が身体を動かしたり、しゃべったりしているのだが、説明を聞くと、これらはすべて人工の人間、Artificial Humanだという。そして、その表情やしゃべる内容は、ソフトウェアでコントロール可能とのことだ。用途としては、受付など、人が対応するところに等身大のスクリーンを置き、来た人の問い合わせなどに対応しようというものだ。人型ロボットでこのような対応をしようというものもあるが、この会社の場合、あくまでも人間は人との対話に安心感を感じる、という考え方で、あたかも本当の人が対応しているように見せている。ロボットで人に似た顔を持たせて対応するものは、人と微妙に違い、何か気持ち悪い感じがするものも多いが、この画像は、2次元画像のためか、言われなければ、遠隔地にいる普通の人が対応してくれているように見えるのが、とても面白かった。

この他、Deltaが、航空会社として初めて出展し、機内での心地よさの提供に力を入れているのも注目された。さらにSonyが参考出展ながら電気自動車Vision-Sを展示しており、これは事前に何の発表もなかったので、大きな驚きとして注目された。Sonyの出展なので、車の性能という話よりも、社内のエンターテイメント性などが展示の中心だ。「感動体験で人の心を豊かにする」というSonyの考え方を、車に広げた形だ。今後Sonyがこれを製品化するのか、するとすればどのような形になるか、注目されるところだ。今回のSonyは、以前のようにゲームをたくさん並べたりするのではなく、この車に限らず、全体的に未来志向が感じられ、久しぶりにいいブースだと感じた。

中国などのスタートアップ企業の展示が多い中、日本の数少ないスタートアップの展示として注目されたのがXenomaのe-skinだ。身体に密着した服に取り付けられた多くのセンサーにより、身体の動きの分析を可能にしている。まだ金額がかなり高いので、プロスポーツ選手やオリンピック選手などによる利用が中心になると思うが、高齢者向けの行動モニタリング、分析用にも簡易的なものが用意されており、今後注目される。このようなものは、日本市場よりも、むしろプロスポーツの盛んな、また、高額所得者の多い欧米諸国で早く広まる可能性がある。

もう一つ、日本企業で、これはスタートアップ企業ではないが、豊田合成という車の内外装品等をメインのビジネスとしている会社が、新たなチャレンジとして、自社の持っている技術を活用し、電気でものを筋肉のように動かすe-Rubberというものを展示していた。ヘルスケアや、いろいろな分野での応用が期待される技術として、今後注目したい。

日本でも近年、スタートアップ企業が増え、既存企業も新たなイノベーションを起こして、新規ビジネスへの参入を試みている。そのようなものは、日本市場だけにとどまらず、ぜひ早い段階で世界市場に向け、ビジネス展開してもらいたいものだ。そのためにも、来年のCESでは、さらに多くの日本企業の新しい取り組みが見られることを期待したい。

  黒田 豊

(2020年2月)

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