スーパーボウルと広告

今年も2月はじめ、米国プロ・フットボール王座決定戦、スーパーボウルが行われた。今回は久しぶりに私の地元サンフランシスコ49ers が出場したので、大のフットボール・ファンの私も、もちろん興奮しながら見ていた。後半開始早々に相手がタッチダウンを奪うと、28-6と大差をつけられ、もはやこれまでかと半分あきらめかけていたところ、球場が停電してしまうというハプニングがあり、その後、勢いを盛り返した49ersが、もうほとんど勝ったかと思うところまで行った、ハラハラどきどきの試合展開となった。最終的には、あと一歩で終わってしまったが、49ersのクォーターバックが今シーズン途中からデビューした新人ということもあり、来年以降が楽しみだ。

さて、2年前にも書いたが、スーパーボウルは、試合だけでなく、ハーフタイム・ショーや、コマーシャルが大きな話題となる、米国の国民的一大イベントだ。前回の記事を読み返してみると、30秒コマーシャルが260万ドル以上と書いている。今年はというと、広告業界の話によると、平均370-380万ドル(約3.5億円)とのことだ。このような高額広告の価値が本当にあるのだろうか、というのが2年前の記事だった。

そのときには、番組の視聴者数の多さ(1億数千万人)、「コマーシャルを見たい」という人が多いという、通常では考えられない、企業側にとっては夢のような状況があること、インターネット上や日常会話で、試合の数日前、そして数日後までも大きな話題になること、スーパーボウルの試合そのものを見なくても、わざわざインターネット上にあるコマーシャルを見に来る人が多いことなどを上げ、金額の妥当性はともかく、広告価値が極めて高いことを書いた。その広告金額は2年前よりもさらに上がっており、広告枠も完売したというから、この金額でも広告の価値あり、というのが広告を出している企業の判断ということになる。実際、昨年の数字だが、スーパーボウルで最も見たい部分が「試合の部分」と答えたのが28%に対し、「コマーシャルが最も見たい部分」という人は、なんと39%という、1000人の大人に対する調査結果も出ているほどだ。

今年は、残念ながら、コマーシャルそのものの面白さからいうと、あまり評判はよくなかったようだ。各社ともスーパーボウル当日よりも前から、そのコマーシャルをインターネット上で見せ始めていたため、当日の驚きが少なかったのも、今年のコマーシャルの評判がいまひとつだった原因かもしれない。

しかし、今年は単にテレビで見せるコマーシャルだけでなく、最近話題のセカンド・スクリーンを活用したコマーシャルが増えたようだ。セカンド・スクリーンとは、テレビを見ながら何かをするため、2つ目のスクリーンとして使う、タブレットやスマートフォンのことだ。最近は、テレビを見ながら、このセカンド・スクリーンを使ってチャットしたり、ツイッター(Twitter)でつぶやく(Tweetする)ことが一般的と言えるほど広まっている。

そこで、テレビではコマーシャルの途中までを見せ、その続きはセカンド・スクリーンで、というものが増えてきた。たとえば、コカコーラ。カウボーイやショーガールなどいくつかのグループがコカコーラを求めて競争し、さて誰が勝つか。続きはセカンド・スクリーンでどうぞ、というものだ。

セカンド・スクリーンを使ったコマーシャルは、これ以外にも、ツイッターを使ったものがある。テレビを見ながらツイッターでつぶやくのは、今やかなり一般的になっており、そのつぶやきの内容によって、テレビ番組の人気を測ったり、どのような人が見ているか、番組のどの部分でつぶやきが集中するかなどの情報をもとに、いわゆるビッグデータ分析技術を使って、リアルタイムにテレビ番組を分析することが注目されている。

当然、スーパーボウルでも、テレビで放映されたコマーシャルに対して、どのような反応があったかの分析は、たくさん行われただろう。しかし、今回はそれだけではなかった。試合の途中で球場が停電し、30分以上試合が中断したことを、うまく利用した人たちがいた。停電(blackout/power outage)をキーワードにたくさんのつぶやきが集まったのは言うまでもないが、これを好機と見て、リアルタイムにツイッターのコマーシャルを作成し、つぶやき広告を流した企業がいくつかある。

まず、このようなキーワードのつぶやきを探したら、コマーシャルが出るように、ビールのBud LightやデオドラントのSpeed Stickは、リアルタイムに設定されたビッドに応じ、自社の広告がこの人たちに見られるようにした。また、洗剤のTideが出したつぶやきは、「We can’t get your blackout. But we can get your stains out.」だ。日本語にすると、われわれは、停電は取り除けないが(blackとoutを分けると、黒いものを取り除く、とも読める)、しみは取り除ける、というものだ。クッキーのOreoは、「Power out? No problem. You can still dunk in the dark」だ。これは、面白いと思った人が多かったようで、1時間以内に再つぶやきが10,000件あったという。自動車メーカーのAudiは、球場のニューオーリンズ・スーパードームのスポンサー企業が、競合会社のメルセデス・ベンツであることから、それをちょっとからかうようなつぶやきをしたようだ。

こんなことがリアルタイムに出来たのは、もちろんこれら広告を出す企業の担当者、そして広告代理店がリアルタイムに待機し、このような機会を狙っていたからだ。まさか停電が起こるとまで思っていた人はいないだろうが、それにすばやく反応し、広告を出したのは、広告チームの勝利といえる。

これまでのスーパーボウルは、試合中心の観戦から、ハーフタイム・ショー、コマーシャルの話題へと広がり、今度はセカンドスクリーンを使った、テレビからつながるコマーシャルや、ツイッターなどのSNSにまで広がってきている。セカンド・スクリーンはまた、SNSや広告以外にも、複数カメラアングルを提供するなど、新しい試合観戦の方法も提供してくれている。スーパーボウルは、単にフットボールやスポーツ・ファンだけでなく、試合そのものにあまり興味のない人たち、そしてITをうまく使った技術活用の先端現場としても、大きなイベントとして、今後も発展していくだろう。来年はそのスーパーボウルで、いよいよ久しぶりの49ersの優勝を見たいものだ。

  黒田 豊

(2013年3月)

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