これから長く続くインターネット革命

私がこのコラムを書き始めたのは、もう7年近く前の1995年9月である。きっかけは、私がその年の4月に出版した「インターネット・ワールド」(丸善ライブラリー)であった。以後、一貫してインターネットによって変革する世界、インターネット革命について肯定的に書いてきた。

最初の数年は、私が肯定的に書いているレベルより、はるかに早いスピードでインターネット革命が進み、そのペースはいつも楽観的過ぎる傾向のある市場調査会社の予測をも大きく上回った。その後、米国ではインターネットによる変化がどんどん起こっていたにも関わらず、日本では、「インターネット・ブームはもう終わった、次はCALSだ」などと言われたり、また一時、「インターネットは胡散臭い」などと言われた時期があった(1999年6月のレポート「インターネットは胡散臭い???」参照)。

2000年になって、ようやく日本でも再びインターネットは本物だということで、皆本気に取り組み出したと思ったら、今度は米国のほうで、過熱していたNASDAQ市場が急落し、やや取り戻した後、長い下降線をたどることになった。(2000年5月のレポート「インターネット株の急落」参照)。それから2001年の暮れあたりまでの間に、インターネット関連ベンチャー、いわゆるドットコム企業の多くが倒産し、規模を大幅縮小した。

最近は、インターネット・ベンチャーのバブルがはじけたため、日本では、米国で起こっていることを分析しても、あまり役に立たないと考えるような空気さえ感じられる。もちろん米国で新しく起こることがすべてうまく行くわけではないことは当然であり、これは、昔からそうである。インターネット時代を待つまでもなく、シリコンバレーではベンチャー企業が次々と立ち上がり、新しいことを始めてきたが、ベンチャー企業として立ち上げても、本当に成功する企業は、ここシリコンバレーでも、ほんの一部である。しかし、成功も失敗も含め、情報通信分野での新しい試みは、米国からのものが多いことに変わりはなく、それらを分析して得られることは、まだまだたくさんある。

ここ何年かのインターネット・ベンチャー・バブルは、その数や、ベンチャー・キャピタルの投資した金額が異常に大きかったため、通常と違うように見えるかもしれないが、形としては、いつもとそう大きく変わるものではない。ちなみに、私はインターネットに関連して、バブルという言葉を使うときは、注意して使っている。インターネット・バブルという書き方をする人も多く、大きな意味では、そうとも言えるが、このように言うと、インターネットそのものが、実は重要ではないものだったかのような誤解を招く恐れがあるので、私は使わないようにしている。私が使う場合は、「インターネット株バブル」とか、「インターネット・ベンチャー・バブル」という言葉である。「インターネット通信設備投資バブル」というものも、付け加える必要があるだろう。

しかし、ここに来て、やっぱりインターネット革命は起こっており、それも社会への影響がかなり大きな形で起こっているという見方も、ようやくいくつか出てきた。私は一貫してインターネット革命の重要さを主張し続けてきているので、やっと周りもそのような認識になってきたかと、ほっとしている。米国では、この5月13日付けのBusiness Week紙が特集を組み、現在進行中のインターネット革命と、150年前の蒸気機関車の発明と鉄道の始まった頃の話を対比させて記事にしている。

Business Week紙の記事によると、1850年頃のイギリスでは、蒸気機関車の発明を受けて、多数の鉄道会社が名乗りをあげ、その多くに対して株式投資や、銀行の多くの貸し付けが行われた。ところが1847年に鉄道関連株は85%急落し、バブルが崩壊して銀行を含む多数の会社が倒産した。確かにここ2年のインターネット関連株、関連ベンチャー企業倒産の様子を見ると、まさにそっくりな状況である。同じようなことは、産業革命や自動車が世の中に出てきたときにも起こっている。

面白いのは、その後30年かけて、鉄道はどんどん発達し、1870年には、年間3億人以上の人を運び、ユーザーにも大きなメリットをもたらしたことである。また、ビジネスのやり方、人々の行動も鉄道によって大きく変わったのは、ご存知のとおりである。バブルのあとの淘汰の波を乗り越えた企業は、その後、大きな利益を享受したわけである。 時を同じくして、日本でも日本経済新聞が、5月13日から3回の連載で、「米ネット革命―第2幕」という特集を組んだ。ここでは、昔の蒸気機関車や産業革命との対比のようなことはされていないが、米国で今、実際に起こっている、企業や個人のインターネットによる大きな変革を伝えている。

両者の記事に共通して出ていたことだが、旅行業界は、インターネットによって最も大きな影響を受けた業界であろう。航空業界が最近、旅行代理店への手数料廃止(大手には特別な契約で一部支払っている模様だが)に踏み切ったのは、画期的なことである。何年か前には、旅行業者の団体が、そんなことをすると、その航空会社の切符を売るのをやめるなどと言って、航空会社側に対して脅しをかけていたが、いまや立場は完全に逆転してしまった。私が「インターネット・ワールド」に、旅行代理店など、中間者がインターネットによって淘汰されていくと書いてから早や7年が経ったが、いよいよそれが本当に起こり出している。

世の中に大きな変化が起こったとき、人々は大きな変革がすぐにも起こるように思って大騒ぎするが、そのうち、そのことがそれほどすぐには起こらないのを見ると、今度は、何も変化は起こらなかったと思ってしまい、ひとつのブームが終わったというくらいに考えてしまいがちである。しかし、蒸気機関車の発明や、産業革命のような大きな変革は、時間をかけて、本当にそのすごさがわかるものであるということを、我々は忘れてはならない。

インターネットについては、2000年にバブルがはじけるまでは、このようなアップダウンもなく、一直線に拡大していくかと思われるほどのすごい勢いであったが、やはり人々が頭で考えるほど、その変革のスピードは早くなかった。そのために、今回のバブル崩壊が起こったわけである。この頭で考えるスピードと、現実のスピードの差は、既存の社会システム、人間個人個人の考え方や行動が大きく変化するには、大きな船の方向を変える時と同じで、どうしても時間がかかるということである。

しかし、インターネットによる変革は、企業内で、個人個人の中で、そして社会全体でどんどん進んでいる。インターネット・ベンチャー企業淘汰の嵐も、かなり収まってきて、米国でよく言う「砂塵が収まった」状態にほぼたどり着き、社会全体のe-改革が、より健全な形で進みだしたといえる。インターネット革命は、これから時間をかけながら、さらに大きく社会を変えていくに違いない。

  黒田 豊

(2002年6月)

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