タブレット、スマートTVで日常化するインターネット・ビデオ視聴

インターネットによるビデオ視聴(プロが製作したテレビ番組や映画など)については、すでに何回か書いているが、最近のタブレット、スマートTV(インターネットに接続されたテレビ)の広がりで、いよいよ米国では日常化してきた。主要テレビ局の夜の番組が翌日にはインターネット上で見られるようになったのは、早や5年ほど前だが、最初のうちは途中でビデオが数秒中断するというようなこともあって、あまり見やすくなかったが、ここ数年は技術が改良され、そのようなこともなくなり、かなり見やすくなっている。

そのため、映画なども、レンタルビデオを借りに行く人が減り、インターネット上で申し込み、インターネット経由のストリーミングで映画鑑賞する場合が、圧倒的に多くなった。それでも、これまでは、パソコンで見ることが中心だったため、必ずしもすべての人に受け入れられていた訳ではなかった。パソコンで映画やテレビ番組を見ることに、若い人はほとんど抵抗がないし、飛行機などでパソコンで自分の見たい映画を見ている中年層の人達もたくさんいるが、まだこれに抵抗のある人達も、少なくなかったからだ。

それが最近、タブレットの普及と、スマートTVの広がりで、大きく状況が変わってきた。タブレットが世の中に出てくる前から、スマートフォンでもビデオ視聴は可能だったが、やはり画面が小さいので、ユーザーは限られていた。それがタブレットの出現で、多くのユーザーがタブレット上でビデオを見るようになった。家の中でも、ちょっとソファーで見る、というようなことが出来、画面の大きさもそれなりの大きさなので、ビデオを快適に見ることができる。実際、タブレット・ユーザーの半数以上は、タブレットでビデオを見ていると言っている。

一方、インターネット経由のビデオコンテンツをテレビ画面で見たいという要望に対し、これまで、パソコンとテレビをつなぐボックスなども売られてる。しかし、パソコンとテレビをつなげ、また、通常はテレビと別の部屋にあるパソコンを操作して、テレビ画面でビデオを見られるようにする必要があるなど、使い難さが目立っていた。それが、インターネットと接続したスマートTVの登場で、簡単にできるようになった。パソコンとテレビをつなげるボックスそのものも進化し、パソコンをつなげなくても、そのボックスがインターネットにつながり、テレビ画面から直接操作できるようになるなど、旧来型のテレビとの組み合わせで、実質的にスマートTVに出来るようになった。現在売られているApple TVはその一例だ。

この2つのことで、インターネット経由のビデオ視聴が、いよいよ日常化してきた。毎年1月にラスベガスで行われるConsumer Electronics Show (CES) でも、今年、さらにこのあたりが進んできている印象があった。

コンテンツを提供する側も、インターネット経由のビデオ配信は、テレビ視聴率に悪影響を及ぼすのではないかという昔の考え方から、新たなビジネスチャンス、新たな収入源としてのプラス面が前面に出てきている。その端的な例は、毎年テレビで最も高い視聴率を取り、テレビ広告料が最も高いといわれる、スーパーボウル(プロフットボールの王座決定戦)が、今年はインターネットでも見られるようになったことだ。インターネットでストリーミングしたテレビ局NBCの話では、210万人がインターネットでスーパーボウルを楽しんだようだ。

毎年3月にやっている、やはり人気の高い全米大学バスケットボール選手権(March Madnessと言われる)の試合は、すでに数年前から、インターネットでの視聴が可能だ。オリンピック放送も、テレビ放送外の種目を含め、北京オリンピック以来、インターネットで本格的に見ることが出来る。また、米国大手テレビ局3社(ABC、NBC、Fox)が共同出資し、テレビ番組を中心にインターネットで配信しているHuluは、昨年会社を売却する方向で考えていたが、次第にインターネットによるビデオ配信の重要性が高まってきたため、会社売却は取りやめることにした。

このような一連の動きをもとに、以前から言われていた、cord cutting(ケーブルテレビに象徴される、コード経由でテレビを有料で見ることをやめること)がいよいよ本格化するのではないか、という議論が再び活気付いている。実際、1月7-8日付のWall Street Journal紙にも、cord cuttingした場合、どのような方法でテレビ番組を見ることが出来るかを書いた、2ページにわたる大きな記事が紹介されていた。

もちろん、本当にcord cuttingが広がってくると、既存のケーブルテレビ会社や衛星放送会社、光通信などの高速回線を使ったIPTVを提供する電話会社等はビジネスが成り立たなくなるので、防戦策を考えている。コンテンツ提供側も、ケーブルテレビ等に番組を提供することによる収入は極めて大きいので、これを失うわけにはいかず、安易に何でも無料でインターネット経由で提供しようとはしていない。

これに対し、インターネット経由のビデオコンテンツ配信で、新たなビジネスを目論むIT企業の動きも本格化している。GoogleはGoogle TVで、AppleはApple TVで、またMicrosoftもそれぞれケーブルテレビや衛星放送に代わる仕組みを作ろうとしている。いわゆるVirtual MSO構想だが (MSOはケーブルテレビの別称)、コンテンツ会社との契約条件でなかなか合意が得られず、彼らの狙い通りに、まだ事は運んでいないのが現状だ。うわさによると、Microsoftは、コンテンツ会社への支払いが高額になり過ぎるため、その計画を中断しているという話だ。 

そのため、Google TVがもともと目指した、インターネット経由のビデオコンテンツはすべて無料、Googleは広告で儲ける、というビジネスモデルは、簡単には行きそうにない。むしろ、何らかの、別な形の有料形態になっていくものと思われる。インターネット経由のビデオ配信で多数のユーザーをかかえるNetflixがこれまでうまくいっているのは、コンテンツ提供側に十分なお金を支払ってコンテンツを提供しているからだ。そのため、ユーザーにもサービスは有料で提供している。違いは、ケーブル会社等に比べ、チャンネル数はまだ少ないが、価格はケーブル等に比べると、かなり安いことだ。Huluにしても、無料で提供しているものもあるが、タブレットなどに提供するものはHulu Plusという有料のサービスだ。

タブレットやスマートTVの普及により、インターネット経由のビデオコンテンツ視聴が日常化することに変わりはないが、このような状況のため、それによってcord cuttingが現実となり、ユーザーはこれまで支払っていた高額のケーブルテレビ代等から開放される、というようなうまい話には簡単になりそうにない。しかし、テレビ番組等を見るパターンが大きく変わることは十分予想され、いよいよテレビを中心としたビデオ・エンターテイメントの世界が、大きく変わろうとしているのが実感できる。

  黒田 豊

(2012年2月)

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