AIでしのぎを削るGAFAM

GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)がAIで優位に立つべく、しのぎを削っている。昨年11月、OpenAIによる生成AIのChatGPT一般開放以来、その激しさは増すばかりだ。生成AIについては、野放しにすると、マイナス面も色々あり、規制の必要も言われているが、その問題については、また別な機会に取り上げたい。

生成AIが登場する前から、すでにGAFAM各社はAIを積極的に活用し、多くのサービスを提供している。Amazonはユーザー個人個人向けのレコメンデーションに、需要予測に、倉庫でのロボットに、詐欺の発見に、無人店舗に、そしてパーソナル・アシスタントのAlexaにと、たくさんの分野でAIを活用している。パーソナル・アシスタントでは、AppleのSiriがその最初だったが、Appleはそれ以外にも、AppStoreでのユーザーに合ったレコメンデーション、ログイン時のFaceID、プライバシーの強化などにもAIが使われている。

Googleもパーソナル・アシスタントのGoogle Assistantを持ち、市場占有率の高いサーチでも、よりユーザーの求める結果が出るよう、AIを活用している。また、売上の大部分を占める広告収入を高めるため、AIを使ったターゲット広告は、当初から力を入れているところだし、YouTubeでのユーザー向けレコメンデーションもAI活用分野だ。さらに自動運転車のために子会社Waymoを立ち上げ、この分野でも先頭集団にいる。そして、ビッグデータ分析を実現した、Machine Learning(機械学習)の次を行くDeep Learning(深層学習)についても、DeepMind社を買収し、先頭を切っている。

Meta(旧Facebook)も、売上の大部分を占める広告収入最大化のため、ターゲット広告にAIを活用している。また、Facebookユーザーそれぞれに見せる内容を決めるのに、AIがフルに活用され、その人の好みに合ったものが出てくるようにしている。ただ、これについては、自分の考えに合った投稿ばかりが出てきて、意見が偏りがちになり、人々の考え方の二極化に貢献してしまっているという側面もある。

Microsoftも、パーソナル・アシスタントでCortanaを持っているが、AmazonのAlexa、GoogleのGoogle Assistant、AppleのSiriに比べると、市場での記事等を見る限り、あまり多く使われていないように見える。セキュリティ問題の発見や子会社LinkedInでの仕事のレコメンデーションなど、いろいろなところでAIを使ってはいるが、これまではAI活用という面で、あまり目立っていなかったように感じる。

それが、昨年11月のOpenAIによるChatGPTの一般公開によって、大きく変わった。OpenAIはMicrosoftの一部ではなく、別な会社だが、早い時期からMicrosoftの支援を受けており、強いつながりを持つ。2019年の$1 bil.出資に始まり、すでにその出資額は$13 bil.に上っている。生成AIに早くから注目していたMicrosoftは、ここぞと攻勢をかけている。MicrosoftはOpenAIのChatGPTを、いち早く自社のサーチエンジンであるBingに搭載し、サーチエンジンで圧倒的な強さをほこるGoogleに対抗しようとしている。その結果、Bingモバイル版の1日のダウンロード数は、これまでの8倍に増えたという。そして、Microsoftはサーチだけでなく、自社の主力製品であるOffice365にChatGPT機能を組み込むと発表している。Co-Pilotという機能で、Excel、Word、PowerPointの作成や編集が、Co-Pilotとのやり取りで、大幅に便利になるという。

対抗するGoogleも負けていない。ChatGPTと同様の機能を持つBardを今年2月に発表。デモで間違った情報が出てくるなど、発表を急いだ印象は残るが、Googleは数年前からキーワードではなく、自然な言葉によるサーチを目指して研究開発中と発表しており、急場しのぎというわけではない。そして、OpenAIに対抗する製品を開発中と言われるスタートアップ企業のAnthropicにも、中心的な出資者として加わっている。MicrosoftがOffice 365にChatGPT機能を組み込むことに対しても同様で、Googleもすべての製品にAIを組み込むと明言している。5月に行われた開発者向けコンフェレンスでは、2時間のキーノート・スピーチで、AIという言葉が実に110回使われたという。

会社名をMetaに変えたFacebookも、当初注力すると言っていたメタバースよりも、いまは生成AIに力を入れている。早速自社の主力ビジネスである広告について、生成AIを使ったツールを発表している。これは広告する会社向けで、今年後半には使用可能になるという。また、Metaはマルチモーダルにも力を入れており、ImageBindという、テキストや音からイメージを生成することができる機能を開発中だ。そして、AIを動かすエンジンとなるチップMTIA(Meta Training and Inference Accelerator)の自社開発も発表し、2025年に完成予定という。

Amazonは、商品購入のためのサーチエンジンとして広く使われており、ここにChatGPT的な生成AI機能を加える予定だ。また、パーソナル・アシスタントのAlexaについても、同様に生成AI機能を加える予定というが、Amazon独自の生成AIについての明確な話は、まだ出てきていない。

Appleも生成AIに対して、どのように対応していくか明言していない。機密情報漏洩を恐れて、社内での生成AI利用制限をかけるなど、消極的な態度すら見える。ただ、最近の社員募集を見ると、生成AIのエキスパートを求めており、これから体制を整えようとしている可能性はある。Appleは、Siriを買収した時点では、パーソナル・アシスタント分野でのAI利用で先頭を行く存在だった。しかし、その後Siriの機能拡張はあまり進まず、AmazonやGoogleに抜かれた感がある。生成AIについても、他社に比べ遅れをとっていることは否めないが、これからどう巻き返してくるか、興味深い。

GAFAM5社のAIに対する対応を見てきたが、パーソナル・アシスタントではAppleによるSiriの買収、Deep Learning(深層学習)技術ではGoogleによるDeepMindの買収、生成AIではMicrosoftによるOpenAIへの大規模出資と、いずれもスタートアップ企業が道を切り開いてきているものに、大手各社がそれを取り込もうとしている。どこに次の新しい技術を持ったスタートアップが潜んでいるか。これを見極めることも、AI分野で優位に立つための大事な要件だ。

AI分野は、技術力のあるスタートアップにより、新しいことが起こる分野だ。AIでは、日本からも、その技術力で次のOpenAIのような会社が出てくることも十分考えられる。日本のAI技術が世界のレベルに比べ、どこまで進んでいるのか詳細は不明だが、チャンスは十分ある。GAFAMの今後の動きに注目するとともに、日本企業にも期待したい。

黒田 豊

2023年6月

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