インターネット・ブームは本物か

9月のレポートをお読みになった方はもうおわかりだろうと思うが、私は今回のインターネット・ブームは間違いなく本物であると考えている。世の中でブームになるものは色々とあるが、それらはいくつかの種類に分類することができる。これらについて、私のかかわっている情報産業に例をとり、見てみたい。

まず、ブームになった時点では大きな市場は形成されず、かなり先の将来に次第しだいに市場が出来てくる場合があげられる。双方向テレビ等の(リアルタイム性を必要とする)マルチメディア・ブームはこれに該当する。(詳しくは9月のレポートをご覧いただきたい)

つぎに、世の中が一時的にブームとなり、それに関連した製品等も出てくるが、市場が反応せず、大きな市場とはならずに小さなニッチ市場になってしまうものがある。たとえば数年前のPDA(Personal Digital Assistant)または Personal communicator といわれるポケットサイズのコンピューターがこれに該当する。この他にも(PDA とも関連しているが)ペンをコンピューターの入力媒体として使用するペン・コンピューター、人口知能といわれるAI(Artificial Intelligence)などもこの分類に入るであろう。ただし、これらのものは今後の技術の進歩にしたがい、いずれ表舞台に再登場する可能性も十分に含んでいるので注意したい。

三番目のタイプは特に米国ではブームになっていないのに日本だけでブームになるものがある。前回お話したCALSはその典型的なものといえる。先日も日本から2ケ月にわたってシリコンバレーをおとずれ、色々しらべておられた方が米国ではCALSが全くと言っていいほど話題になっていないことにショックをうけておられたのが印象的であった。

そして四番目が本物といえるブームで、ブームになった時点で確実に市場が形成され、その後も着実に成長していくものがある。インターネットは間違いなく、この分類にはいる。私はシリコンバレーに住んでかれこれ8年近く(以前住んでいた2年を加えると10年近く)になるが、この間、本物といえるブームは2つあった。ひとつはこのインターネットであり、もうひとつは大型コンピューターからパソコンやワークステーションを利用したクライアント・サーバー・システムへのコンピューター・ダウンサイジングの動きである。

では何故インターネット・ブームは本物といえるのだろうか。まずここ数年のインターネットの急成長をみればこのブームが本物であることは一目瞭然であろう。インターネットに接続されているコンピューターの数はここ4年で約12倍、年率にして約88%という驚異的な伸びを示しているのである。そして、この急激な伸びは当分の間、、続くことは間違いないというのが大方の見方である。世界中のインターネット・ユーザー数も既に5,000万人をこえるといわれ、コンピューター・ワークステーション・メーカー大手のシリコン・グラフィックス社(映画『ジュラシック・パーク』の制作にそのワークステーションが使用されたことで有名)の創設者で、現在インターネットのブラウザー(検索用ソフトウェア)の中心的メーカーのネットスケープ・コミュニケーションズ社の創設者であり、会長であるジム・クラーク氏などは5年後には今日の電話のような世界共通のユニバーサル・ネットワークになるだろうと予測しているほどである。

このようにインターネットが最近になって急成長した理由も明確に存在する。そもそも世界共通のネットワークとしてのインターネットの歴史は古い。米国国防省の傘下にあるARPA(Advanced Research Projects Agency)が全米各地における異なった種類のコンピューターに蓄積された各種技術研究情報を共有するために1969年にはじめたネットワーク(ARPANET)のSRI インターナショナルとUCLA(University of California, Los Angeles)との接続実験に起源をもつ。

その後、このネットワークは世界中に広がり、学術研究の世界では大変重宝されるようになった。しかし、このネットワークが現在のような学術研究以外で、しかも一般の人達が簡単に使えるようなものになるまでには長い時間がかかった。それは、インターネットの利用が学術研究のみに制限され、また、使いやすいツールも存在しなかったためである。それが、ここ数年でインターネットの利用が民間にも解放され、グラフィック・ユーザー・インターフェース(GUI)を利用したしろうとにも極めて使いやすいツールが出現したため、もともと便利であったインターネットは急激に世界中に広がっていったのである。私の書いているこのレポートが印刷物にならなくても世界中の人々に読んでもらえるのもインターネットがあればこそである。

インターネットが世界中に広がるに従い、ずっと以前からいわれていたネットワーク社会が本当の意味で実現してくる。これは今われわれが住んでいる社会を大きく変革させる力を持っている。

ネットワーク社会では情報が世界中に瞬時に伝わってしまう。このことはあらゆるビジネスを営む企業に対して大きな変革をもたらす。たとえば、ある商品の地域毎の値段の違いについて考えると、インターネット上でビジネスを行う会社がどんどん増加してくれば、日本だけで高価にすることは不可能となってくる。今でもカタログ販売等を使って海外から商品を購入する人達が日本でもいるが、これがインターネット経由で出来るようになってくると商品の選択の幅も広がり、値段の比較などもより詳細に行うことができるようになってくる。こうなると、いままでのように、日本の輸入業者は大きな利益を確保できなくなってくる。実際、この点に目をつけ、米国では日本向けを中心としたインターネットによる商品販売が既に一部はじまっており、今後も多くのものが計画されている。

またネットワーク社会では情報が情報源から情報の最終利用者に直接伝わってしまう。したがって、情報を中間でコントロールすることによって成り立っているビジネスは、その事業の根幹をゆるがされることになる。たとえば、旅行代理店のおおきな業務のひとつに航空券等の予約、発券業務がある。しかし、これも各航空会社がインターネット上に飛行機の予約状況、価格等の情報を提供し、直接予約が出来るようになったらもはや旅行代理店に予約を頼む必要がなくなる。実際、航空会社各社はつぎつぎにインターネット上にホームページを作成し、例えばアメリカン航空は詳細フライト・スケジュールが見られるようにしてあり、そこから航空券の予約が可能となるのも時間の問題であろう。××代理店、××仲介業等と名の付く業界は要注意である。

さらに、顧客サービスの改善にインターネットをうまく利用している会社もある。大手クーリエ会社のフェデラル・エキスプレスでは、顧客から受けたクーリエ便の状況を常時インターネット経由で確認できるようにしている。無事相手に届いたか、いつ届いたか等の情報は大事な書類等を送った場合、是非知りたい情報である。このような顧客サービスをする会社としない会社では今後その業績に大きな違いが出てくることだろう。

まだまだいくらでもインターネットを使った新しいビジネスのやりかたは、あとをたたない。このようにインターネットの有効利用は企業と顧客の間を直接結び付け、企業にコストの削減、顧客サービスの向上、顧客からのフィードバックの迅速な収集など数多くの利益をもたらす。インターネットがいかにあらゆる企業にとって重要であるかというゆえんである。

そしてインターネットは大変な速度で進行している。時間をかけて様子見している企業は完全に取り残され、競合他社に大きな遅れをとることになる。コンピューターや通信業界に属する企業ばかりでなく、あらゆる業種の企業にとって、インターネット戦略を作り、それを実行することが緊急に求められている。

  黒田 豊

(1995年10月)

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