新たなブラウザー戦争?

 

10月後半に入り、新たなブラウザー戦争が始まった。10月21日、AI チャットボットのChatGPTで有名なOpenAIが、AIブラウザー(AI-powered Web browser)のAtlasを発表した。その2日後には、Microsoftが、自社ブラウザーEdgeのCopilot Modeを機能強化し、本格的なAIブラウザーへと向かっている。その数か月前、7月には同じくAI チャットボットを持つPerplexityが、AIブラウザーのCometを発表している。Googleも自社ブラウザーChromeに、AI Modeを持っている。

 

ブラウザーの歴史は、インターネットが始まったころのNetscape Navigatorで始まった。その後、MicrosoftがInternet Explorer(IE)を発表し、市場を圧倒した。その後、Netscape Navigatorの流れをくむMozilla Firefoxが2004年に登場、そしてGoogleが2008年にChromeを発表し、じわじわと市場シェアを広げていった。いまではGoogle Chromeが市場の66~70%ほどを占めており、それにAppleのSafariが15~18%と続き、Microsoft Edge(IEの後継)は5%程度にとどまっている。そこに、今回のAIブラウザーの登場だ。

 

これまで、インターネットで何かを調べる場合、一般的なパターンとして、まずブラウザーを開き、Googleのサーチボックスにキーワードを入れ、出てきたウェブサイトのリストの中から必要と思われるものを選択し、そのウェブサイトに行き、その内容を読み、ほしい情報や調べたい結果を得る、ということが多かった。少なくとも私は、そのような形の使い方がほとんどだった。そして、ブラウザーの世界ではGoogle Chromeが市場の2/3を制し、サーチの世界でも、Googleは90%ほどの市場シェアを、いまでも握っている。要は、多くの人は、Google Chromeを使い、その中でGoogleのサーチを使って、インターネット上にある情報を集めたり、調べたいことの答を得てきた。

 

このやり方を大きく変えたのが、2022年11月の生成AI、ChatGPTの登場だ。今年6月に、このコラムで「生成AIで一変したサーチの世界」として、そのことをすでに書いている。そのときの感覚では、多くの人は何かを調べるとき、もはやGoogleのサーチに頼らず、ChatGPT などのAIチャットボットに直接聞いて、物事を進めていくのではないかと考えていた。そして、自分のその後のインターネットの使い方を見ても、まさにそのようになっていたし、シリコンバレーの人々も、同じような感覚だったようだ。

 

そして、ChatGPTを持つOpenAIは、10月初めの開発者向けイベントで、ChatGPTにエージェント機能を加える開発者向けキットを発表し、eコマースを含むあらゆるエージェント機能を、ChatGPTから直接行えるような仕組みをそろえた。そのため、小売りやeコマース・サイト大手のWalmart、Etsy、Shopifyなどと提携し、ChatGPTの中から直接商品を買えるようにする体制を整えた。これがうまく行けば、ChatGPTが新たなeコマースのプラットフォームにもなりかねない。eコマースだけでなく、あらゆるエージェント機能がChatGPTの中から使えるようになり、それらのすべてのプラットフォームになり得る形を、形成しようとしている。

 

そんな状況で、なぜ今OpenAIは新しいAIブラウザーAtlasを発表し、ブラウザー戦争が始まっているのか、というのは、素朴な疑問だ。ただ、もう少し自分の行動を見てみると、Googleのサーチを全く使わなくなったわけではなく、何かを調べるのではなく、特定のウェブサイトを探すような場合は、Googleのサーチを使い、そのサイトの会社名などを入れて、検索することはある。また、ChatGPTを使う場合も、まずブラウザーを開き、そこからChatGPTに入る。つまり、ブラウザーがインターネットを使う上での入口になっていることは、変わらない。最近はGoogleもAI Modeを提供し、GoogleのAIチャットボットであるGeminiを使った調査も、Googleのサーチボックスに質問を文章で入れることにより、結果をもらうことができる。

 

そこで、Googleのブラウザーをすでに開いていると、そのままGoogleのAI Modeを使い、ChatGPTにわざわざ行かない場合も出てくる。Googleとしては、サーチに関連した広告ビジネスは、生成AIの登場で、これまでと同じ形ではいかないかもしれないが、インターネットの入り口を押さえていれば、ユーザーからの情報の入手も容易で、今後のビジネスに大きな役割を果たすことができる。そのため、ブラウザーで引き続き市場シェアを維持することは、依然として重要な役割を持つことになる。

 

逆に言うと、ブラウザーを持たず、AIチャットボットのみで勝負したのでは、OpenAIやPerplexityは、インターネットの入り口をGoogleに抑えられたままで、いつの間にかユーザーがそちらに行ってしまう危険がある。生成AIは、単に調べたいことに答えてくれるだけでなく、今後エージェントという形で、あらゆる機能を加えていく可能性が高い。OpenAI社の10月初めの開発者会議でのエージェント開発キットやWalmartなど、様々な会社との提携を見ても、それが今後の方向である可能性は高い。しかし、そこに来てくれる前に、ブラウザーを握っているGoogleのAI機能を使われてしまっては、どうすることもできない。そのため、自社独自のAIブラウザーを持ち、ユーザーに最初からそこに来てもらうことが重要、ということになる。

 

少し脇道にそれるが、このAIチャットボット上でのeコマースは、Walmartなどの小売業にとって、より広い受け入れ口を持てるため、大きなプラスになる可能性があり、Walmartの株価は、OpenAIとの提携を発表した日、5%上昇している。ただ、将来的なマイナス面も挙げられている。それは、自社のウェブサイトに来てくれれば、そのお客のデータを持ち、さらに他の商品のお勧めができたり、また、自社サイトでの広告も可能になり、広告収入が得られる。にもかかわらず、AIチャットボット経由で商品を販売してしまうと、その機会を失ってしまうことにもなりかねないからだ。このため、少なくとも現時点で、AmazonはChatGPTを含むAIチャットボットとの提携をしていない。

 

話をブラウザーに戻すと、AIブラウザーは、そこで見ているウェブページの中を見ることもできるので、AIチャットボットにはできない、いろいろなことができる。たとえば、現在見ているウェブサイト内容のサマリーを作ったり、その中から何かを取り出すようなことも可能となる。AIチャットボットでこれをやろうとすれば、調べてくれたウェブサイトに行き、その内容を読み込ませ、その後サマリーを作ってもらう、という複数の作業が必要になる。また、AIブラウザーは、それまで行った調査やサーチなどを覚えてくれ、ユーザーがどんな人かもわかり、それにそった対応をしてくれることも期待される。

 

このようにAIブラウザーを使えば、AIチャットボット以上のことができるようになるので、ユーザーにとっても便利な面が増える。ただ、ここで気を付けなければならないことがある。それは、プライバシーやセキュリティの問題だ。特にセキュリティ上の問題として、いま言われているものに、"prompt injection attacks"というものがある。この攻撃を受ける可能性が、AIブラウザーのほうが、AIチャットボットに比べ、かなり高いと言われている。

 

これは、AIに対するプロンプトを、悪質なウェブサイトに埋め込まれてしまった場合、AIがそのプロンプトにそって、ユーザーの意思に反することをやってしまう可能性があるからだ。これは、AIブラウザーを使った場合、AIエージェントがユーザーに見えないところで、いろいろやってくれるために起こる。AIチャットボットの場合、基本的にプロンプトはユーザーが出すので、このような心配がなくなる。当面の対策としては、信用できるウェブサイトにしか見に行かない、という制限を加えることが考えられる。

 

この問題は、一つにはAIブラウザーがまだ新しく、セキュリティ対策が不十分なことにある。したがって、今後改善される見込みも十分あるが、現時点でAIブラウザーを使う場合は、このことに留意して使う必要がある。

 

生成AIの到来とともに、サーチビジネスは大きな変換点に来ており、それに関連した広告ビジネス、また、ウェブサイトにユーザーを呼び込むためのSEO(Search Engine Optimization)なども、ゼロから作り直す必要が出ている。実際、AIチャットボット向けに、自社のウェブサイトにAIチャットボットを誘導し、ユーザーに商品を勧めてもらうための支援を行うソフトウェアを提供するスタートアップ企業が、いくつも出てきており、大手企業もそれらの支援を受けながら、AIチャットボット経由の、あるいはAIブラウザー経由の情報収集や購買などに、対応しようとしている。サーチからAI チャットボットへ、そしてAIブラウザーへの大きな流れに、あらゆる企業、そして個人は、変化の激しい状況を見ながら、どのように対応していくか、判断を求められている。

 

黒田 豊


2025年11月

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