Google、Motorola Mobilityを売却

1月29日、Googleは2011年に買収したMotorola MobilityのLenovoへの売却を決定した。最終的にこれが成立するまでには、米国政府の承認等も必要だが、特に大きな問題は指摘されていないので、承認される可能性が高い。Google がMotorola Mobilityを買収したときの話は、このコラムでも2011年9月に取り上げている。

Google がMotorola Mobilityを買収したときの金額は$12.5 bil.、Googleがこれまでに行った買収で最大のものだった。今回のLenovoへの売却金額は$2.91 bil.といわれている。Motorolaのセットトップボックス・ビジネスをすでに$2.35 bil.で売却していること、またMotorolaが持っていた現金があったとはいえ、それを差し引いても、損失は$6bil.程度あると予想されている。Googleの昨年度の決算を見ると、売上高$60 bil.弱、利益も$13 bil.弱確保しているので、この程度の金額でGoogleの屋台骨に影響がでるわけではないが、それでも決して小さい数字ではない。

そもそもGoogleがMotorola Mobilityを買収したとき、大きな目的は2つあった。ひとつはMotorolaのもっている携帯電話に関連する17,000に及ぶ多数のパテントの確保。もうひとつは、ハードウェア・ビジネスを確保することにより、Apple、それに続くAmazon、Microsoftなどと同様、ソフトウェアだけでなく、スマートフォンの世界でハードウェアを含んだecosystemを構築することが狙いだった。

今回のLenovoへの売却でも、得られたパテントはほとんどそのままGoogleに残るので、金額的に大きなマイナスがあっても、それがまるまる損失になっているわけではない。Motorola Mobility買収前には、わずか520ほどしかもっていなかったパテントを、その買収によって、一気に30倍以上に増やしたのだから、それだけでも大きな成果と言える。

ただ、パテントだけがほしかったのであれば、パテントだけの買収も可能だったはずだ。それを敢えてビジネス全体を買収したのは、やはりハードウェアを含むビジネスに参入したいという意図があったことも間違いないだろう。Googleは、Motorola Mpbility買収前から、自社ハードウェアのNexsus One、Nexsus Sというものを販売していたが、ほとんど売れていなかった。それをMotorola 買収により、ハードウェア・ビジネスを一気に加速させようとした。

だが、残念ながらその目的は達成されず、今回の売却となった。しかし、そもそもGoogleはパテントだけを買うべきで、ビジネス全体を買うべきではなかったという議論は2年前からあり、今の時点でのMotorola Mobilityの売却は、決して悪い選択ではない。

それは、買収から2年たち、わかってきたこともいろいろあるからだ。ひとつは、Motorolaの黒字化が難しく、赤字が続いたことだ。具体的に言うと、2012年には$616 mil、2013年には$928 mil.の大きな赤字を出していた。GoogleはもともとMotorola Mobilityのハードウェア・ビジネスは、とんとんになればいいと言っていたが、そこまで到達するのも、ほど遠かった。

もうひとつは、Googleがモバイル端末ハードウェアに本格参入するということで、これまでAndroidをかついで、ハードウェアを販売してきたSamsungなどとのパートナーシップ関係がギクシャクしてきたことだ。ハードウェア・メーカー側も、GoogleのAndroid依存を簡単にやめることはできず、表立ってGoogleを批判してはいなかったが、GoogleがMotorolaに有利にソフトウェアを開発、提供する可能性は否めず、常にその不安を持ちながらビジネスを実施する必要があった。そのため、Android以外の第三のOSとして、Tizenなどを担ぐ動きも見せていた。それが、今回のMotorola Mobility売却で、一気に不安が解消されることになる。

そしてさらに、モバイル端末市場の成熟化が上げられる。これは2011年当時はまだはっきりしなかったが、現在はAppleも利益率が下がってきており、Samsungも同様だ。スマートフォンも、ハードウェア・ビジネスは製品の成熟化とともに利益率の低いコモディティー・ビジネスに向かい始めている。そのようなときに、大きな赤字を出しているMotorola Mobilityを持ち続ける価値は、もはやない。

もうひとつ加えると、Androidを使ったスマートフォン市場では今、Samsungが圧倒的な強みを見せており、他のハードウェア・メーカーを引き離している。この状況が続くことは、Googleにとっても、決していいことではない。それは、Googleに対してSamsungの力が相対的に強くなっていることを意味するからだ。これに対し、LenovoにMotorola Mobilityを売却し、Lenovoの力を強めることは、対Samsungという意味で、Googleの力を強化することにもなる。ということで、Googleにとっては、少々高い授業料になったかもしれないが、この時点でMotorola Mobilityを売却できることは、今後のGoogleにとって好ましいと言える。市場も同様の反応を示している。

一方、買収を決定したLenovoはどうか。Lenovoはすでにコモディティー化したハードウェアでのビジネスで、利益を上げることを得意としている。2005年にはIBMからパソコン事業を買収し、いまやパソコン市場で世界のトップに立っている。また、Lenovoにとって、Motorola Mobilityの買収は、モバイル端末市場において、米国市場への大きな足がかりとなる。Motorola Mobility 買収の数日前に発表されたIBMの低価格サーバー・ビジネスの買収も加え、パソコン、低価格サーバー、モバイル端末と、コモディティー化し始めている市場で大きな地位を占めることになる。

コモディティー・ビジネスは、利益率は低いものの、大量に販売することができ、これからさらに広がる開発途上国での需要に大きく対応可能となる。その意味で、この買収は、Lenovoにとっても有益なものとなる可能性が高い。

Googleは、スマートフォンだけでなく、Kansas Cityでの光ケーブル敷設とそれを利用したサービス、車の自動運転、そして今年一般販売が予定されているウェアラブル・デバイスのGoogle Glassを含め、たくさんの分野に手を広げている。現在の売り上げを見ると、まだまだサーチエンジンをベースにした広告ビジネスがほとんどというのが現状だが、そのビジネスで$58.7 bil.におよぶ現金を蓄え、幅広い分野にともかくチャレンジできるということは、なんともうらやましい限りの会社だ。そしてその強い力を使って多くのサービスは無料で提供している。そこで得た個人情報で、これからどのようなことをしてくるか、それがユーザーにとって、ひとつの心配の種だ。

  黒田 豊

(2014年2月)

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