インターネット各社の開発者向けイベントから見えてきたもの

この4月から6月にかけて、インターネット有力各社は、恒例の開発者向けイベントを開いた。4月にFacebook、5月にMicrosoftとGoogle、そして6月にApple。その中から、彼らがこれからどんな方向を目指しているかが見えてきた。

ざっとまとめると、AIを活用したパーソナル・アシスタント、そしてそれを搭載したホーム・スマート・スピーカー(AIスピーカー、スマート・スピーカーなど、いろいろな言い方がされている)、そして、少し中長期的には拡張現実(Augmented Reality)、さらに遠い将来に向けては、人の脳とコンピューターのかかわり、と言ったところだ。

まずは目先にホットになっているのが、ホーム・スマート・スピーカーなので、今回は、これについて書くことにしたい。すでに知っている人も多いと思うが、まだあまりなじみのない人のために簡単に説明すると、これは、家庭のリビングルームや台所などに置ける20センチ前後の高さの円筒形のスピーカーのようなもので、単にスピーカーとして音を出すだけではなく、インターネットにつながり、ユーザーがいろいろなことを、自然な言葉で頼むと、それをやってくれる、家庭のパーソナル・アシスタント的な存在だ。

たとえば、部屋の電気をつけたり消したり、ニュースを聴いたり、交通情報を確かめたり、好きな音楽を聴いたりできる。パーソナル・アシスタントなので、その人の好みなどを次第に覚え、使えば使うほど便利になる。

パーソナル・アシスタントと言えば、最初に製品を出したのはAppleで、2011年にiPhone 4Sに搭載されたSiriが最初だ。しかし、AppleがSiriをiPhoneなど既存製品に搭載している間に、2014年、Amazonが自社のAIを使ったパーソナル・アシスタントのAlexaとともに、ホーム・スマート・スピーカーのEchoを発売した。実はその時点では、発売したのがAppleやGoogleではなく、Amazonだったこともあり、それほど大きな話題になっていなかったし、このような製品がユーザーに受け入れられるものかどうか、疑問に思う人も少なくなかった。しかし、これが$180(現在はAmazonサイトで$140で販売)と安価なこともあり、米国のユーザーの間に広がり、いつの間にか人気商品となった。

これを見て、遅ればせながら、 AIに力を入れているGoogleが2016年5月に、同じようなホーム・スマート・スピーカーGoogle Homeを発表、同年11月に発売された。その後、今年5月にはMicrosoftが自社のパーソナル・アシスタントCortanaを使ったホーム・スマート・スピーカーInvokeを発表し、今年秋には、発売される予定だ。そして、この6月、Appleが他社にかなり遅れて、同様のホーム・スマート・スピーカーHomePodを発表し、米国など3ヶ国では今年中に販売が開始される予定だ。

これらの製品は、その形状から、ホーム・スマート・スピーカーなどと呼ばれているが、実体は家庭で使う、音声対応のパーソナル・アシスタントで、家庭内にあるいろいろなものをコントロールする、要になる製品だ。実際、各社の製品には、コンピューターと呼ぶべきチップが搭載されており、ソフトウェアもAIをフルに活用したパーソナル・アシスタント、そしてインターネットに接続して使うなど、今後のホームでの中心的な役割になっていく可能性が十分ある。いずれ誰かがいいネーミングをするだろうが、私が付けるとすれば、ホーム・スマート・アシスタント、というあたりだろうか。

各社が注目し、製品開発を競っているホーム・スマート・スピーカーだが、現在どれくらい売れているかというと、米国では、昨年までにおよそ1600万台程度、そのうちAmazon Echoが70%、Google Homeが24%、合わせて94%の市場を握っていると言われる。今後の伸びも、かなり大きなものが予想されており、米国でのユーザー数は、今年3600万人となり、昨年の倍以上になると、調査会社EMarketer社は予想している。

このような製品が広まるためには、音声認識のレベルが高いことが要求されるが、最近のめざましいAIの発展で、AIを活用した技術である音声認識のレベルもかなり向上し、間違いなく聞いてくれる確率がかなり向上している。これにより、ユーザーも、使い続けよう、という気持ちになっている。また、以前は音声でコンピューターやスマートフォンに語りかけることは、何か不自然でいやだという人も少なくなかったが、音声認識アプリケーションの普及で、抵抗感がなくなってきた、という点も挙げられる。

今年末には、大手各社の製品が出そろうことになるが、それぞれ基本機能は似たようなものでも、それぞれ特徴を持たせようとしている。先頭を行くAmazonは、これまでの音声だけの対応では不十分と考え、カメラとスクリーンを取り付けた新しいモデルEcho Show($230)をこの5月に発表。テレビ電話ができるようになるし、画面表示することにより、たとえば天気予報でも、一日の天気の変化や、週間予報が見られるなど、よりパソコンやスマートフォンでの使い方に近いものにしている。形もタブレットの置物のようで、円筒形ではない。6月末には、出荷を開始した。

Googleは今年5月の発表で、Google Homeを使って電話がかけられる機能を加えた。Amazon Echoは、Echo同志の会話は可能だが、通常の電話には、かけられない。また、人の声の違いを聞き分ける機能を搭載したものを開発し、家庭内でGoogle Homeを利用する人それぞれのスケジュールや嗜好に合わせた対応が可能になるという。

最後発のAppleは、スマート・スピーカーという点を強調し、部屋の空間を考慮した音の出し方など、音楽性にこだわったところを強調している。そのため、価格も他社のホーム・スマート・スピーカーとは大きく異なる倍以上の$349という値段を設定し、他社のパーソナル・アシスタント的な使い方もできるものの、スピーカーとしての価値を強調している。本来ならば、パーソナル・アシスタントのSiriを最初に世の中に出しているので、その部分の強味を強調してもよさそうなところだが、6年経ってもSiriを十分に進化させることが出来なかったツケが、ここに来ているように感じる。

また、Appleの他の製品、iPhone、iPad、Apple Watch、Apple TVとのうまい組合せ利用も、既存Appleユーザーにとっては、ほしいところだが、今回の発表では、まだ十分それが出来ているとは言えない状況だ。一つ強味が発揮できるとすれば、Siriはすでに36ヵ国、21ヵ国語で利用可能になっているので、それを生かして早い世界展開をする、ということはありうる。実際、2014年に最初のEchoを発売したAmazonは、まだ英語とドイツ語にしか対応していないし、Googleも、7ヵ国語程度だ。
一方、ホームで雑音のある中での使用、また家族の複数の人が使う、という環境では、それらに対応する技術が必要になるが、ここでもAppleの発表では、何も示されていなかった。Googleは、5月の発表で、それを可能にしている。
パーソナル・アシスタント技術を世の中に広め、それを活用した多くのアプリケーションを構築するには、どうしても1社だけではなく、多くの外部サードパーティの活用が欠かせない。その点、Amazonは早い時期からAlexa技術をオープンにし、他社に活用してもらう戦略をとっている。その結果、すでに車でFord、冷蔵庫でLG、ランプでGEなど、大手企業とパートナーシップを結んでいる。Alexaを使ったアプリケーションも、すでに12,000が構築されている。Googleも技術をオープンにし、車のAudiや、家電のGEを含む70社がGoogle Assistantを使った製品開発で提携している。
一方Appleは、以前からSiriの技術を開放してほしいという開発者たちの声にもかかわらず、なかなかその技術をオープンにせず、2016年にようやくオープンにしたものの、7つの限られた分野だけにとどまっている。このAppleの秘密主義ともいわれるやり方が、先行しているSiriを広めることに成功しなかった一因と言われている。秘密主義に加え、Appleは、AmazonやGoogleに比べ、個人のプライバシーにとても注意しており、そのため、パーソナル・アシスタントという、個人データを多く集めるものでも、それに大変気を使っているという。そのこと自体は、ユーザーにとってうれしいことだが、その結果、Siriの持っている機能が十分生かされず、そのため、開発者の何人かはAppleを去ったとも言われている。
最後発でホーム・スマート・スピーカーを出したAppleが成功するか、疑問を持つ人は少なくない。ただ、なかには、そもそもAppleはiPodにしても、iPhoneにしても、類似の製品が出て、何年か経ってから自社製品を出して、大きな成功を収めたので、今回もその可能性は十分ある、という人もいる。確かにiPodの前に、携帯音楽端末としてはSonyのWalkmanがあり、市場を圧倒していた。しかし、それをAppleが逆転するには、iTunesを含む、ユーザーにとって、とても便利なエコシステムを作るという「ひとひねり」のビジネス・イノベーションを起こしたので、大きな成功につながった。iPhoneでは、その前に、確かにBlackberryという、モバイル携帯端末はあり、ビジネス分野では、モバイル環境で電話だけでなく、Eメールが使えるということで、市場に広まっていた。これに対し、iPhoneは携帯音楽端末という機能に加え、タッチパネル・インターフェースや、アプリという概念を構築し、AppStoreを含む、モバイルにおける新たなエコシステムの構築という大きなビジネス・イノベーションを起こし、Blackberryとは全く異なる市場を構築することに成功している。

では、今回のApple HomePodは、どんなビジネス・イノベーションを起こしたのだろうか? 確かに空間を把握して音を制御するという、スピーカーとしての性能のよさは、差別化にはなるかもしれない。しかし、他社製品に比べ、ホーム・スマート・アシスタントとして、何かビジネス・イノベーションを起こしたかといえば、残念ながら、大きなものは見当たらない。Steve Jobsなきあとの、Appleのイノベーションを起こす企業としてのイメージが、だんだんと薄れていくことに不安を感じるのは、私だけではないのではないだろうか。

  黒田 豊

(2017年7月)

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