ビデオ・ストリーミングに本格移行するテレビ視聴

テレビ視聴が、これまでのテレビ放送から、インターネット経由のビデオ・ストリーミングへ、いよいよ本格的に移行してきた。インターネットが始まった当初、使われていた通信回線の速度は遅く、とてもビデオが送信できる状況ではなかった。それが2005年2月、通信回線の高速化とともにYouTubeがはじまり、一般の人たちが作成したビデオ・コンテンツをインターネット経由で配信しはじめ、インターネットでのビデオ配信が現実になった。これを受け、テレビ局などが自局のコンテンツを自社のウェブサイト等で配信し始めた。2007年ころの話だ。

一方、過去の映画コンテンツなどは、ビデオレンタル店でDVDを借りて、家で見るというのが以前のやり方だったが、まずそのDVDを電話等で頼めば郵送してくれるサービスが始まった。そして、インターネットでビデオ・コンテンツを見ることができるとわかると、DVDを使わず、インターネット経由で直接映画を見ることがはじまった。これをいち早く行ったのがNetflixだ。Netflixは1997年、メールによるレンタルビデオ・サービスとして開始し、2007年にストリーミング配信をはじめた。

私がこのコラムで「放送とインターネットの融合で変革する放送業界、広告業界」というタイトルで記事を書いたのは、2005年11月だ。ただ、そのころ一般家庭がインターネット接続に使っていたのはADSL方式で、その通信回線速度はビデオをスムーズに見ることができる速度ではなかった。しかし、それから通信回線速度が上がれば、いずれテレビ番組を含め、インターネット経由のビデオ・ストリーイングが大きく広がるだろうと書いている。

その後、2008年4月には「インターネットによるビデオ配信の功罪」というタイトルで、米国ではテレビ局が、ほぼすべての夜の番組をインターネット配信するなど、とどまるところを知らない、と書いている。2009年4月には「さらに進む、インターネットでテレビ番組を見る時代」、5月には「テレビでインターネット上のビデオを見る」、10月には「TV Everywhereトライアル開始」と、立て続けに記事を書き、このころ米国でビデオ・ストリーミングが大きく広がったことが見て取れる。

2010年5月には「今度はGoogle TV!?」、8月には「有料サービスを開始したHulu」、10月には「新しいApple TVは出たけれど」と、やはりビデオ・ストリーミング関連の記事を続けて書いている。2012年2月には「タブレット、スマートTVで日常化するインターネット・ビデオ視聴」、6月には「米国大手ビデオ配信サービスNetflix今後の行方」、2013年6月に「いよいよテレビがいつでも、どこでも見られる時代に」、8月には「Googleふたたびテレビにチャレンジ」、2014年4月には「本流になり始めたテレビ番組のインターネット視聴」、11月には「テレビ番組配信方法をひっくり返すテレビ局の動き」、2015年5月には「競争が激しくなる米国ビデオ・ストリーミング市場」と進む。

最近では、2018年5月に「テレビ番組は、アプリで見る時代」、2019年5月に「乱立するビデオ配信サービスは、ユーザーに利益をもたらすか」、12月に「Disney+ストリーミング・サービス、いよいよ登場」、2020年12月には「ディズニーのストリーミング・サービス急拡大は、コロナ禍による変革加速の象徴」を書いている。途中、2012年の北京オリンピック、2016年のリオ・オリンピックでの全種目インターネット・ビデオ配信についても書いている。

このように2005年ころから、このビデオ・ストリーミング市場を追いかけてきて、ずっとテレビ番組の見方が変わる話をし、米国で一般的なケーブルテレビや衛星放送経由でのテレビ視聴が、インターネット経由によるビデオ配信視聴に変わる、いわゆるコード・カッティング(ケービルテレビ契約を解約する、ケーブルのコードを切る)がずっと言われ続けてきた。しかし、現実には、ビデオ・コンテンツ視聴が広がったにもかかわらず、ケーブルテレビ等の解約は、少しづつしか進まなかった。それがコロナ禍でいよいよ加速した。2019年から2021年の3年で、1800万以上のコード・カッティングがあったという。2022年4月には、テレビ番組をストリーミングで見ている人は、全体の30%を超えている。

ケーブルテレビ会社も、これに合わせて大きく変身している。最大手のComcastは、ビデオ・コンテンツを持つNBCUniversalの買収などを経て、現在の売上構成を見ると、コンテンツ・ビジネスが29%、インターネット接続ビジネスが19%、以前からのケーブルテレビ・サービスは、もはや18%に過ぎない。

テレビ視聴のビデオ・ストリーミングへの移行の要因はいろいろ考えられるが、まずはインターネット経由のビデオ配信の品質が、通常のテレビ放送を見るのと変わらないものになったことがあげられる。そして、コンテンツも過去の番組などだけでなく、その時点での生番組などが見られるようになってきたことで、ケーブルテレビなどによるテレビ放送を見なくても、これまで見ていた番組が見られるようになってきたことを、消費者が実感できたことがある。さらにDisney+をはじめ、多くのビデオ・ストリーミング・サービスが提供され、消費者に選択の範囲が広がったことも大きな要素だ。

実際、これまでNetflixがこの市場で大きくリードしていたが、Disney+をはじめ、多くの有力サービスがひしめく市場になっている。最近のユーザー数では、Netflixが世界で2.22億、Disney+は1.38億だが、同社のHulu(0.46億)、ESPN+(0.22億)を加えると、2.06億になり、Netflixに迫っている。AmazonもPrime Memberが2億いると言われ、同じレベルで競っている。この他、Warner Brothers Discoveryが1億ユーザーを抱え、Paramount+がShowtimeと合わせて6200万、またApple TV+、NBCUのPeacockなど、有力なサービスがユーザーを取り合っている。

ケーブルテレビや衛星放送は、家庭内に設置する設備もあり、一度契約すると解約されたり、他のサービスに乗り換えられることは、比較的少ない。一方、ビデオ・ストリーミングは、家庭内に必要となる設備は少なく、契約・解約は頻繁に行われる。そのため、過去のコンテンツだけでは、それを一通り見たら解約される、ということもよくある。したがって、ビデオ・ストリーミング・サービスでは、独自コンテンツの開発が成功の鍵となっている。Netflixは、当初他社のコンテンツを取りまとめているに過ぎないサービスだったが、これでは独自性がなく、他のサービスに簡単に移られてしまう。そのためNetflixは2013年に独自コンテンツ制作に参入し、これに本格的に力を入れ、エミー賞をいくつも受賞している。

Netflixはまた、AIによるユーザーの嗜好分析にも力を入れており、ユーザーに対するレコメンデーションが優れているという理由で、Netflixを使い続けているという人も少なくない。しかし、そんなNetflixも2022年に入り、初めてユーザー数の減少に見舞われ、まだ十分利益は確保できているものの、5月に初めて150人、6月にさらに300人のレイオフを発表している。消費者は限られた予算の中でストリーミング・サービスを利用しており、選択肢の広がりとともに、その選別も始まっている。

追い上げるDisney+にしても、過去の膨大なDisneyもの、そしてStar Warsものがあるが、それでも新しいコンテンツを追加していかないと、ユーザーにずっと契約を続けてもらえる保証はない。有力なサービスがほぼ出そろった今、早くも淘汰の波が押し寄せてきそうな気配のビデオ・ストリーミング業界だ。米国に比べ、テレビ局などのビデオ・ストリーミング配信開始が遅れた日本は、これから先行する海外勢にどう立ち向かっていくか、こちらも注目していく必要がある。


  黒田 豊

(2022年7月)

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