有料サービスを開始したHulu

Huluについては、ご存知の方も多いだろうし、このコラムでも触れたことがあると思うが、初めての人のために簡単に説明すると、これは、インターネットのビデオサイトで、テレビ番組を中心として配信しているものだ。大手テレビ局のNBC、Fox、ABCが出資しており、これらのテレビ局の番組を含め、多数の番組を、通常テレビで放送した翌日から無料で見ることができる。インターネットなので、当然、いつでもどこでも見られる便利なもので、インターネットのビデオサイトとしては、米国ではYouTubeに次いでアクセス数が多い人気サイトだ。YouTubeがユーザーからの投稿(UGC: User Generated Contents)を中心にしているのに対し、Huluは、テレビ番組を中心に、すべてプロが作成したもので構成している。

これまで、Huluのコンテンツはすべて無料で見ることができたが、パソコンで見ることは出来るものの、テレビ画面やiPhone、iPadなどでは見ることが出来ないよう、制限を加えていた。この制限を取り払う新しいサービスを、Hulu Plusとして、6月29日から有料(月額$9.99)で開始した(まだ一部対象者のみ)。新しいHulu Plusでは、過去のテレビ番組シリーズで、今までHuluでは見られなかった番組も、この有料サービスに追加した。これまでのHuluで無料で見ることができたものは、そのまま無料で見られるので、無料だったHuluを有料に変更した、というものではない。

このHulu Plusについては、いろいろな見方ができる。Huluはこれまで広告収入によるビジネスモデルをとっていたが、出資者のテレビ局等がそれだけでは十分な利益を確保できないので、Huluを有料モデルにしていくための一石を投じた、という見方が一つにはある。一方、Hulu Plusを使えば、テレビにもHuluからのビデオ配信でテレビ番組がいつでも見られる(当面はSamsungのインターネット接続付テレビとSony PlayStation3経由のものが発表されたが、今後登場してくるGoogle TVを含め、多くのテレビでこれが可能になると予想される)、iPhoneやiPadでも見られるということで、パソコン以外でテレビ番組を見たいと思っていた人たちには、大変便利なものになる。このため、Hulu Plusを契約すれば、現在多くの人が契約しているケーブルテレビや衛星放送、電話会社のIPTVサービスなどが解約され始めるのではないか、という意見も出ている。

そもそもケーブルテレビ等の契約は、ほとんど見ることもないテレビ局をたくさんバンドルされ、かなりの金額を毎月支払っている人たちが多く、ユーザーに評判が悪い。その人達の中には、可能であれば見たいテレビ局だけをもっと安価に、あるいは無料で見たいと考える人も多い。もちろんテレビアンテナを屋根に取り付けて、地上波放送を無料で見ることも可能だが、それでは見ることができないチャンネルがいろいろあったり、場所によっては、映像がきれいに入らないという場合もある。そのため、無料のHulu、あるいは月$10以内のHulu Plusで見たい番組が見られれば、それに乗り換えたいと思うかもしれない。

Hulu Plusを待つまでもなく、Huluのように、インターネット経由でテレビ番組を見るOver-The-Top (OTT)と言われるやり方に、ケーブル会社等は脅威を感じており、1年ほど前から、ケーブル会社等は、契約者に対して、いつでもどこでもインターネット経由でテレビ番組を見ることができる、TV Everywhere構想を打ち上げ、すでにトライアル段階にあり、一部で実施している。今年はじめのバンクーバーオリンピックでは、nbcolympics.comですべての競技を見るためには、どこかのケーブルテレビや衛星放送、電話会社のIPTVサービスに契約している必要があった。これはまさしくTV Everywhereの考え方によるものだ。

このように、ケーブル会社等は、現在の儲かっているビジネスモデルをインターネットの世の中でも継続し、なおかつ、いつでもどこでもテレビ番組を見たいというユーザーの希望に合わせるため、TV Everywhereで、Huluのような無料ビデオサイトに対抗しようとしている。ただ、これに対し、テレビ局やコンテンツオーナーは、必ずしもこれまでのケーブルテレビ等のビジネスモデルを継続するだけでなく、自分で自ら利益を最大にするためには、どのようにすべきか、模索している。Hulu.comはその一つであり、Hulu Plusもその延長線上にある。また、野球の大リーグをはじめ、プロスポーツの団体などは、独自に有料でそのコンテンツをインターネット上で配信し、それなりにユーザーがついている。

これまで、テレビ局、コンテンツ会社とケーブルテレビや衛星放送、電話会社のIPTVサービスは、うまく共存共栄してきた。しかし、インターネットのブロードバンド化の広がりとともに、インターネットによるビデオコンテンツ配信が実現し、これからはそれぞれ別な方向を向き、戦い始める可能性が出てきた。そんな中、大手ケーブル会社のComcastが、大手テレビ局のNBCの買収を迫っており、これが実現すれば、ComcastはHuluの株主にもなり、Huluに対してどのような態度で向き合うかが注目される。

インターネット経由でテレビ番組を配信すれば、通常のテレビ放送のように、一方的に提供される番組やコマーシャルを見る以上のことが実現できる。コマーシャルでは、ユーザーが見たい製品のコマーシャルを選択できたり、自分の知りたい内容のものであれば、長いコマーシャルを選択することもできる。スポーツ番組等では、複数のカメラアングルを用意して、ユーザーが自由にそれを選択することもできる。遠くにいる友人とチャットしながら一緒にテレビを見るviewing partyも可能だ。また、ユーザーを特定して、その人の嗜好に合わせた広告を出すターゲット広告など、インターネットならではの、出来ることは多彩だ。

一方、今のテレビ放送は放送時間帯が固定しており、コマーシャルなどもユーザーに選択の余地はない。コマーシャルの有効性についても、視聴率という指標のみに頼っており、そもそも録画されてコマーシャルをスキップされているものも数に入ってしまっている、きわめてあいまいなものでしか判断できない。インターネット経由でのテレビ番組配信は、それに比べ、多くの利点を具えている。

今後Hulu Plusなどを使って、テレビやiPod、iPadなどでテレビ番組を、いつでもどこでも見る機会が増えれば、これまでのテレビ界のビジネスモデルは一変する可能性がある。当面はケーブルテレビ等の契約を打ち切る人はそれほど多くないだろうし、この変化は時間のかかるものだが、Hulu Plusがその時計をまた一歩先に進めた気がする。

  黒田 豊

(2010年8月)

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