ビデオ自動監視システム
西海岸メディア・レポートでは、いつもその時のシリコン・バレーの最新状況を色々と報告しているが、今回は久しぶりに、米国で最新技術として注目されているものの一つをご紹介したい。SRIインターナショナルで開発したビデオ自動監視システム(Automated Video Monitoring : AVM)といわれるものである。
ビデオ・モニターによる状況の監視は以前から行われていることであるが、例えば、セキュリティのために設置されているビデオ・モニターは、人間が監視し、何か起こったらそれに対応するようなシステムが一般的である。ビルの警備などを考えた場合でも、警備室のビデオ・モニターを人間が監視していないと、何かが起こった時に対応できない。誰かを常にビデオ・モニターの監視のために置けない場合は、警報など、別な方法で緊急事態を知らせ、そこで初めて警備員がビデオ・モニターを見ることになる。ビデオ・モニターで録画したものは、また、犯罪など、何かが起こった場合、あとでその内容を見て犯人などを見つけるのにも使われている。
この現在の一般的なビデオ・モニターの使われ方の問題点としては、まず、人間が常に画面を監視しているか、それとも警報など、別の方法で緊急事態を知らせない限り、何かが起こったその時に対応することが出来ない点が上げられる。また、何かが起こったあとにビデオの録画を見る場合でも、大きな広場のように沢山のビデオ・モニターから得られた録画を人間が見て、何か起こった事象を判別するのは、多くの時間がかかり、現実的でない場合も多い。
このような現在の問題点を解決してくれるのが、ビデオ自動監視システム(AVM)である。ではAVMはどんなことをしてくれるのであろうか。まずは、動いているものの検出とそのトラッキングが上げられる。例えば、無人の発電所、倉庫などで人のいる気配があれば、泥棒かなにかである可能性があるので、警報を鳴らし、警備の人間に対応をしてもらわなくてはならない。単に動いているものの検出なら、AVMなどという大げさなものを使わなくても、モーション・ディテクター(motion
detector)など、安価なものでも可能であるが、それでは犬や猫が動いても、また、柳の木の枝が動いても誤った警報を鳴らしてしまうことになる。そこで、目的物(target)の自動分類(classification)が必要になる。このような機能により、動いているのが人か、車か、動物か、などを見分ける機能がAVMには含まれている。
また、AVMには、“活動”分析という機能があり、人がなにかあやしいことをやっているかどうかを分析する機能もある。人がいても不思議のないところでは、単に人がいるということでは、警報を上げられないが、もしその人が不審な行動をとっているようなら、そこで警報を上げることが出来る。例えば、ある人が入ってはいけない建物の入り口で何かゴソゴソしているとする。これは鍵を開けようとしている可能性があるということで、警報を上げることが出来る。
さらに、AVMは何か“物”(object)が新たに置かれたり、逆に持ち去られたりした場合、それを検知し、警報を上げることができる。前者は誰かが爆弾などを置いて行った場合、後者は泥棒が何かを持って行った場合などが考えられる。
AVMのこのような機能を実現しているのは、人工知能(AI)技術である。日本ではAIブームが去ってからAIという言葉はほとんど聞かれなくなってしまったようだが、米国では、昔のブームの時のようにAI万能という話はないものの、しっかりと現実をみつめたAIアプリケーションが進歩してきているのである。
AVMは色々な使い道が考えられるが、やはり中心となるのはセキュリティに関連したものであろう。建物や立ち入り禁止場所への侵入監視、爆弾や毒物などの据え置き監視、盗難監視などが考えられる。また、車の事故監視や、ある場所の混雑状況把握など、セキュリティ以外の分野でも使われる。AVMは自動監視システムではあるが、監視の無人化では必ずしもない。あくまで監視を自動化し、警報を自動的に上げるためのシステムである。ただ、それによって必要となる監視員の削減が実現出来たり、普通ならリアルタイムに対応できないようなものに対しても、即時対応が可能となるなど、そのメリットは大きい。
AVMにはまた、リアルタイムではなく、事後にビデオ録画を分析する場合に有効な機能もある。 例えば、ある特定の物または人(object)に注目し、その物(人)の行動をフォローするということも可能である。これは特に大きな広場などで複数のカメラから撮った録画の分析で、その物(人)が一つのビデオから別のビデオに移るような場合などに、特に有効である。
いままでは安全な国としてセキュリティについてはほとんど無頓着といっていい日本であったが、これからはAVMのような最新技術を駆使し、効率的で安全な日本を回復する必要があるのではなかろうか。
黒田 豊
(1998年9月)
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