次世代高速インターネット

現在のインターネットはすでにパンク状態とも言われており、また、インターネットを利用している人のほとんどは、もっとレスポンスが速くなればと願っていることであろう。インターネット・アクセス・プロバイダー各社も次々にネットワーク容量の拡大に向け、投資を行っているが、今のところ飛躍的にそのスピードが速くなる様子はない。 

これを受けて、米国政府は現在のインターネットより大幅に速い高速の次世代インターネット(Next Generation Internet: NGI)構想を打ち上げ、予算もつけて、既にその研究開発に入っている。NGIは単にネットワークの速さだけを問題にしているのではない。インターネットをベースとした新しいアプリケーションの発展を阻害しているその他の要因も含めて検討されている。具体的には、インターネットの信頼性、堅固さ、セキュリティ、クウォリティ・オブ・サービス(QoS)、ネットワーク管理などについての研究開発が行われている。そして、ネットワークそのものについては、現在のインターネットの100倍速いネットワークで100のサイトを接続するものと、現在のインターネットの1,000倍速いネットワークで10のサイトを接続する2つのテストベッドの設置が含まれている。また、ネットワーク・インフラそのものだけではなく、このような高速なネットワークを利用した革新的なアプリケーションについても研究開発が行われている。

高速なネットワークが実現すると、現在一般的に出来ないものが可能となってくる。例えば、リアルタイム・ビデオは、現在のインターネットでも不可能ではないが、ネットワークの速さが不十分なため、その精度は低く、また、ネットワークが混んでくると状況がさらに悪くなるという現実があるが、このようなことが解消され、リアルタイム・ビデオが現実のものとなる。 同様にして、遠隔地にいる人とネットワークであたかもそこにその人がいるように見せる仮想プレゼンスも可能となる。 

さらに、今はデータ、音声、ビデオ等がそれぞれ別の方法で通信されている場合がほとんどだが、これがインターネットの通信プロトコルであるIPプロトコルに統合するということも可能になってくる。また、複数の宛先に通信するマルチキャストも簡単になる。そして、現在電話会社が行っている公衆電話網も、いずれIPプロトコルを利用した音声通信(Voice over IP)という形で統合されてくるであろう。 

このようなことが現実となってくると、次世代インターネットを利用した具体的なアプリケーションとしても、沢山のものが実現可能となってくる。ネットワークを利用した遠隔医療はすでに色々なものが試みられているが、次世代インターネットの世界では、静止イメージはもとより、リアルタイム・ビデオを使った遠隔地からの診療も可能となる。教育についても同様で、新しい形の遠隔教育が可能となる。医療に限らず、他の分野でも、遠隔地から機器を操作して色々なことが可能となる。その道のエキスパートが遠隔地を訪問せず、居ながらにして色々な作業が可能となる。

また、マルチメディアという言葉がもてはやされた頃よく言われたビデオ・オン・デマンドも実現する。無線の領域にまで高速ネットワークが広がると、モーバイル・ビデオも可能となり、これだけでも多くの新しいアプリケーションが実現する。仮想プレゼンスを利用した仮想コンフェレンスなども当然実現する。

その他、交通関連のシステム(Intelligent Transportation System)のリアルタイム化、リアルタイム危機管理、リアルタイム環境情報、また、そのような情報を利用したリアルタイム気象予報なども可能となる。さらに、いままで一箇所に集中しておく必要があったものの分散化、例えば、分散シミュレーション、分散イメージ・ライブラリーなども可能となる。

念のためにいっておくが、これらは次世代インターネットが実現したときに現実となるものであり、その過程は、現在のインターネットがある日突然この新しいネットワークに変わるというわけではなく、少しづつ変わってくるというのが現実的である。したがって、このようなネットワークが使えるようになるのは、まず最初にテストベッドなどに参加する大学や研究機関、一部の政府や民間組織から始まり、次に大企業というように進んでくるであろう。したがって、個人の家庭で、インターネットを利用したビデオ・オン・デマンドができるなどというのは、残念ながらそう近い将来ではないだろう。

さて、このように高速な次世代インターネットが現実になったときには、今まで述べてきたようなアプリケーションが実現するはずであるが、そのためには単にネットワークが高速になり、色々な機能を持つというだけでは必ずしも実現しない。もっとコンピューターの側でもこのようなネットワーク、アプリケーションをサポートするものが出来てくる必要がある。

たとえば、QoSひとつとっても、ネットワーク・レベルでのQoSに加え、コンピューター上のアプリケーション・レベルでのQoSも必要となる。その他関連する技術としては、ソフトウェア・エージェント、分散ディレクトリー、次世代ネットワークOS、分散データベース、コンピューター・テレフォニー・インテグレーション(CTI)、次世代オブジェクト、ネットワーク/システム管理、分散OSなど、色々なものが必要となってくる。

このような状況を考えると、次世代インターネットの話は単に通信メーカーに関係するばかりではなく、コンピューター・ハードウェア/ソフトウェア・メーカーにも大きな影響を持ち、それらの企業にとっても、新たなビジネス・チャンスとなる。同時に、情報通信の先進ユーザーとなって、競合他社に先んじようと思う企業にとっても、今から準備しておく必要のあるものである。

  黒田 豊

(1998年10月)

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