どうなるAmazon.com
インターネット上での書籍販売にはじまり、音楽CD、おもちゃメーカー大手のトイザラス(Toys "R"
Us)との提携によるおもちゃ販売、さらに電化製品など、消費者が求める、あらゆる商品へと販売を広げてきたAmazon.comに大きな転機が訪れた。つい数日前、全従業員の15%にあたる1,300人の人員削減を発表したのである。Amazon.comは日本でも知名度が高いので、このニュースを知っている人達も多いであろう。
日本では、リストラによる人員削減は、ほとんど最後の手段というイメージなので、Amazon.comもいよいよギリギリのところまで来たのだろうか、と思う人も多いかもしれない。しかし、米国では日本と違って、レイオフは必ずしも最後の手段というわけではなく、経営上、コスト削減が必要と判断され、かつ人員削減がベストな方法であると考えられると、実行に移される。法律的にも日本やヨーロッパでは、レイオフをしにくいようにする色々な足かせが企業にかけられているが、米国の場合は、それがほとんどないと言える。
実際、情報技術の活用によって効率が上がり、従来よりも少ない人数で同じビジネス量が出来ると判断されれば、高い利益を上げている企業でもレイオフを実施する。有名なJack Welch会長が率いるGeneral Electric (GE) は、インターネットを利用したe改革で大きな成果を上げていると声高に宣伝しているが、それが具体的な利益向上に数字的に表れていないという批判が、Wall
Street(日本でいう兜町にあたるが、企業に対する影響力はケタはずれに大きい)の証券アナリスト達から寄せられている。GEの場合、これからHoneywell(ここも利益を出している)との合併と合わせ、その実を示すために数万人規模のレイオフが行われるだろうと予想されている。
日本では、社員を終身雇用し、ほどほどの利益を上げていればよしとされる傾向が強い(最近は変化しつつある)が、米国では高い利益を上げ、株主利益に貢献する必要があり、証券アナリストは、これを企業に強く求めてくる。企業の株価は証券アナリスト達の評価によって大きく左右されるため、企業はどうしても証券アナリスト達のコメントに合わせ、人員削減してでも利益を向上させる努力をすることになる。これが米国流経営である。ただし、経営者がこのようにしたがっているというよりも、Wall
Streetからの圧力によると言っても過言ではない。仮に、経営者が「人を重視する暖かい経営」などと言ってみても、利益の数字が上がらなければ証券アナリストに批判され、株価が下がって退陣させられてしまうことになる。
では、今回のAmazon.comの大規模なレイオフはどうだろう。これもWall
Streetからの大きな圧力に、もはや抗し切れなくなったAmazon.comがとった行動という要素は大きい。ただし、Amazon.comの場合、GEのように利益を上げながらのレイオフとは違うので、状況は大きく異なる。Amazon.comの場合、そのビジネスモデルは、インターネットによるe-革命の波に乗り、最初数年は大きな赤字を出しながらも、売上をどんどん伸ばしてビジネスを進め、ある時点から利益を出し始めようというものである。実際、多くのe-コマース企業(いわゆるドットコム企業)は、ほぼ同様のビジネスモデルであった。
ところが、多数のドットコム企業の出現に加え、既存企業(いわゆるBrick &
Mortar企業)が市場に参入し、市場が過当競争状態になってしまった。その上、消費者向けe-コマースの伸び率が、1998年から1999年までに比べ、1999年から2000年へは、下がってしまった。このため、Amazon.comを含めたドットコム企業が利益を上げ始めるまでの年数は、予定よりも長くかかることが明らかになった。そこで当然、その間の追加資金が必要になってきた。Wall
Streetも今まではe-革命の大きさから考え、数年間赤字を出していても、これらの企業は、いずれ必ず成功するというポジションをとっていたが、急転して、早く利益を上げる体質にならなければならないと、態度を一変させてしまったのである。そのため、これらドットコム企業の株価はどんどん下がり、新たな資金調達も極めて難しくなった。ドットコム企業の雄であるAmazon.comにも、この大波が襲ってきたのである。
Amazon.comの場合、2000年の売上が予想より伸びなかったことに加え、数年前に書籍のみを販売していた頃、当時使っていた書籍卸の会社を、ライバルのBarns &
Nobleに買収され、自ら流通システムを構築する必要が生じて、大きな投資が必要になったこと、また、自社のビジネス以外にも、いくつかのドットコム企業に投資していたが、それらが昨年来のドットコム企業の衰退のため、大きな赤字をもたらしたことも、赤字拡大の原因として上げられる。
そのため、2000年通期でも、売上約27.6億ドル(約3200億円)に対し、約14.1億ドル(約1600億円)という大きな赤字を出しており、Wall
Streetの大きな批判の的となり、株価も最近1年間の最高値約$85から、現在は約$14へと80%以上下がってしまっている。このような状況で、もはや大幅人員削減をして、利益を出せる体制に持っていくことは、Amazon.comにとって、生き残るために取らざるを得ない方策であったと言える。
さて、この大幅人員削減で、Amazon.comは利益を出せる体制になり、無事成功への道をたどるのであろうか。今年第4四半期には利益を出すと言ったJeff Bezos
CEOの言葉を実現出来るかにかかっていると言えるだろう。これまでAmazon.comは、そのブランド名を世界に広げることに大成功した。数年前には存在しなかったこの会社を、日本でもインターネットを少しでも使ったことのある人なら、必ずといってもいいほど知っているであろう。これは他の多くのドットコム企業が持ち得なかった、大変大きな財産である。その結果、いまや150以上の国で、1,700万人以上がAmazon.comに口座を持っているといわれている。さらに、私自身、何度かAmazon.comを利用した経験からも、そのサービス・レベルの高さは、疑う余地がない。
e-コマース企業として成功するには、ブランド力と品質の高いサービスに加えて、仕入れ、在庫管理、流通など、いわゆる小売業として利益を上げるための経営の基本が必要となる。今回の大幅人員削減でも、そのブランド名に大きなキズがつくことは、少なくとも米国ではないであろう。また、第3の点(在庫管理など)については、同時に発表された、利益を出さない商品の販売からの撤退を含め、おそらくプラス面のほうが大きいであろう。しかし、2番目の点、品質の高いサービスが今後も維持できるかどうか、大いに注目される。
e-コマース企業成功のためには、一度買い物をした人が、また買いにくるリピート客を多く持つことが必須である。これが今回の大幅人員削減でサービス・レベルが低下し、維持できなくなるとすると、Amazon.comの将来には大きな不安がある。今までAmazon.comのサービスに大いに満足している一個人としては、是非品質の高いサービスを維持し、成功への道を歩んでほしいと願う次第である。
黒田 豊
(2001年2月)
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