個人の寄付が多い米国
米国は寄付がとても多い国である。日本で寄付といえば、災害があったときの義援金を思い出すし、そのような場合には、日本でも多くの人が寄付をしているように思う。また、テレビ局が1年に1回、チャリティーのための24時間放送をしたりすることも目に浮かぶ。これらの、個人が比較的少額の寄付をする場面は日本でもいろいろとあるが、米国のように、お金持ちが多額の寄付を行うということは、あまり見られないように思う。
そういう意味で、米国の個人による寄付には、日本とは桁違いな大きさがある。毎年ビジネスウィーク紙が発表する、個人による寄付のランキングというものがあるが、これを見ると、寄付の額は半端ではない。今年のトップはMicrosoft社創設者のBill
Gates氏とその奥さんMelindaさんであった。その額は、100億ドル。最近の円高で1ドル100円で単純計算しても、1兆円である。2位はIntel社創設者のGordon Moore氏とその奥さんのBettyさんで、その額は、70億ドル強、約7000億円強である。上位5人の合計では、235億ドル、2兆3500億円に達する。
Bill Gates氏とMelindaさんは、今年大きな寄付をしただけではなく、いままでの合計でも、280億ドル近く、およそ2兆8千億円の寄付を行っている。Bill
Gates氏については、好きな人も、きらいな人もいるかもしれないが、寄付に関して言えば、大きな社会貢献をしている、高く評価できる人であることは、間違いない。Gates夫妻はこれだけ寄付しても、まだ資産が480億ドル(4兆8000億円)ほどあると言われているが、まだ若いし、この資産総額は、Microsoft社の株価変動で大きく変化するであろうから、それを考えると、かなりの額を寄付していることに違いない。
一方、2位のMoore夫妻は、残りの資産が38億ドル(3800億円)程度と推測されているので、残り資産の倍近くを今年だけでも寄付したことになる。これ以外にも、情報通信関連では、7位にDell社創設者のMichael Dell夫妻、9位にMicrosoft共同創設者のPaul Allen氏が、上位10人の中に名を連ねている。
寄付先を見ると、これは、人それぞれによって異なり、健康/医療、教育/文化、自然保護、動物保護、バイオ研究、等に向けられている。いずれも資金が必要だが、政府等からの予算はなかなか十分に取れないという分野に、これら個人の寄付が大きく貢献している。
こんなに多額の寄付が出来るのは、それだけたくさん給料をもらっていたり、自社株を持っているため、それを売却したり、その配当金によるところが多いことは確かである。また、米国の税制は、寄付に対して、税額控除できる額が大きいので、寄付しやすい環境が整っていることも事実である。しかし、それでも寄付をしない人はしないわけで、自分が成功したら、その分、社会還元しようという姿勢が多く見られるのも確かである。ちなみに、Gates夫妻の今年の寄付の中には、今年Microsoftが行った特別配当金全額(推定約30億ドル)も含まれていると言う。
このように、多額の現金を寄付することは、以前から行われていたが、最近になって、面白い寄付の仕方をする人も出てきた。オークションサイトで有名なeBayの創設者であるPierre Omidyar氏は、最もお金持ちの31才になった後、ほとんどの資産を寄付することに決めたが、単に自分でそのお金をどこかに寄付するだけでなく、他の寄付の方法を作り出すことにも資金を提供している。
たとえば、Global
GivingというOmidyar氏から寄付をもらって運営しているサイトでは、世界中から、何か特定プロジェクトにお金が必要なものがあれば、ここに寄付依頼を出し、寄付する側は、これを見て、自分にあったプロジェクトに寄付するというものである。プロジェクトといっても、何億円もするものというよりも、小学校のクラスの教材を集めるためといった、数万円レベルのものからある。これによって、いままでだと、どこかの団体にお金を寄付しても、一体何にどのように使われているかわからなかったものが、はっきりわかるようになっている。実は知らなかったが、日本でも、同じような組織が存在するようだ。Googleで寄付というキーワードで探すと、出てくる。
米国では、このように裕福な人々が多額の寄付を行っているが、それだけではない。一般庶民もそれぞれの収入に見合った寄付をたくさん行っている。インディアナ大学の調べによると、米国の寄付全体の59%は、年収が10万ドル(約1000万円)以下の人たちだという。米国はまさしく寄付大国と言える。
日本での寄付の数字は見たことがないが、おそらく米国に比べるとかなり少ないのではないだろうか? 米国のように、雑誌でランキングを出すのがいい方法かどうかについては、議論があると思うが、少なくともどんな人が寄付をしているかがはっきりわかり、これも寄付の輪を広げるためのひとつの方法ではないかと思う。もし雑誌に関係している人がこのコラムを読んでいたら、このような寄付特集をやるのも、悪くないのではないだろうか?
黒田 豊
(2004年12月)
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