増加する日本語を勉強するアメリカ人

アメリカ人は、英語で世界中どこでも通してしまおうとすることで悪名高いが、外国語を勉強する人も多い。もともと外国からの移民が多いアメリカでは、生まれた国の言葉、あるいは米国生まれでも両親などが移民で、別の言語を話せるバイリンガルな人は多い。私の住んでいるカリフォルニアなどは、2ヶ国語以上話せる人のほうが、英語しか話せない人より、ずっと多いのではないかと思う。実際、レストランなどで食事をしていても、英語だけでなく、世界各国の言葉が飛び交っており、英語以外の言葉を話すのに、何の遠慮もいらないという感じである。

日本語を勉強しようというアメリカ人も、特に1980年代頃は多かった。いわゆるJapan as Number Oneの時代で、日本の経済が大きく発展し、アメリカをも抜かんばかりの勢いで、日本でも、もうアメリカに習うことはない、と言い出す人がいた時代である。アメリカでも、日本でのビジネスが大きく注目され、日本とのビジネスをするために日本語を学ぼうという空気が結構あり、実際、エリート・ビジネスマン達の一部は、日本語を勉強していた。

しかし、日本のバブル崩壊とともに、日本の重要性が低下し、日本語を学ぶビジネスマンは減少した。最近では、中国ビジネスがホットなため、これからのビジネスのために中国語を習う人達もかなり増えているようだ。

ところが、ここへ来て、日本語が再び脚光を浴び、日本語を勉強する人達が増えている。実際、私の息子の春まで通っていたミドルスクール(日本の中学校にあたる)、そして、今月から通い始めたハイスクール(日本の高校にあたる)でも、外国語科目として、日本語を教えている。妻は近くのコミュニティ・カレッジで、日本語クラスのボランティア・アシスタントもやっていた。

一体、何故いま日本語の人気が再び高まっているのだろうか? 確かに日本経済はようやく回復してきたし、デジタル家電では日本が世界市場で優位に立っている。しかし、それだけで日本が、そして日本語が注目されているわけではない。

実は、最近一生懸命日本語を勉強しようとしている人達は、いわゆるエリート・ビジネスマン達ではない。もっと若い世代なのである。

彼らは日本語に、主に日本のアニメ、ビデオゲームなどで触れているのだ。中には日本の若者の音楽や、ミュージック・タレントの衣装やメークアップに興味を持っている人たちもいる。つまり、今回の日本語ブーム(とまで言っていいかどうかは定かでないが、少なくとも統計的には、Modern Language Associationによると、日本語を学ぶ人の数が1998年から2002年の間で21%増加している)は、ビジネスの世界から来る話ではなく、日本の現代文化から来ている話なのである。

アニメでは、ドラゴンボールやポケモンなど、あらゆるものがアメリカに入って来て、テレビで放映されている。週末など、いくつものチャンネルで日本のアニメを見ることができる。これらは日本語ではなく、英語の吹き替えでやっているが、これで日本のアニメに「はまった」人たちは、インターネットでいろいろなサイトから、いろいろなものをダウンロードしているようだ。ちなみに、アニメという言葉は、もともと英語のアニメーションからきているわけだが、アメリカでは日本のアニメを「anime」と言っているのは面白い。

インターネットでいろいろ調べるとなると、日本語がわからないと十分なサーチもできない、というようなところから、日本語を勉強しはじめているようだ。コミュニティ・カレッジで日本語を勉強している人たちに、アニメ・ファンは多いようだ。なかには、「るろうに剣心」という幕末の話を見ている人もいて(日本では1996年から1998年にかけて放送された模様)、これなど、話の筋や、その背景にあるものを理解するのは、かなり難しいのではないかと思うが、このようなアニメも結構気に入られている。

テレビを見ていると、もちろんアメリカのマンガもやっているわけだが、どうも話がとても単純で、私が子供の頃、つまり数十年前にニューヨークに住んでいたときに見ていたものと、あまり変わらないようなものが多い。アメリカの青少年も、これら単純なアメリカ・マンガに飽き足らなくなってきているということかもしれない。

1980年代のJapan as Number Oneの時代は、確かにアメリカ人は日本の経済成長に目を見張り、その仕組みを学ぼうとしていたが、常に「顔の見えない日本」的な評価をしていたような気がする。つまり、仕組みは評価するが、日本人そのものは評価されていないような感じであった。

今回はアニメやビデオゲーム、それに音楽など、日本の文化が受け入れられており、その中で侍とか、武士道などという考え方も、多少伝わってきているような気がする。映画「ラストサムライ」も、個人的な意見としては、アメリカ人が作ったとは思えないような日本人の感覚が出ていた、いい映画だったように思う。最近の日本語を勉強する人たちの広がりは、文化を含め、本当の意味で日本を理解してもらう、いい機会になるのではないだろうか。

  黒田 豊

(2004年8月)

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