グリーンITに期待

新年明けましておめでとうございます。

景気もようやく底を打ち、今年はいよいよ本格的な回復期に入ってくると期待している。情報通信業界では、昨年後半から、すでに回復基調にあり、2009年9月末終了の四半期で、IBMがNet Incomeで前年同期比14%アップの32億ドル、GoogleがNet Incomeで前年同期比27%アップの16億ドルなど、明るい話題が多い。市場全体の景気回復とともに、情報通信業界の今年は明るいものになるだろう。

なかでも注目されるのは、オバマ大統領のグリーンニューディールに関連して、グリーンITという分野が挙げられる。グリーンITにはいくつかの意味がある。ひとつはIT機器自体の省エネによるCO2削減。これはIT各社真剣に取組んでおり、製品としての機能、性能に加え、価格以外の第3の差別化要因として、どこまで省エネが出来ている製品かが、ユーザーが製品を購入する上での、大きな要因となっている。

もうひとつは、IT機器を使う場合に使用する空調等の効率化による省エネ、いわゆるデータセンター全体の省エネだ。データセンターは、一般的に単位面積当たり、一般オフィスの10-30倍のエネルギーを消費するといわれるので、その省エネ効果は大きい。そのための仕組みとしては、データセンター・デザインの改善、室内温度分布状況把握と、それに合わせた効率のよい空調や空気の流れの制御、また、システムのワークロードをうまく分散させたり、逆に集中して不要のシステムの稼動を止めるなど、幅広い方法によって実現しようとしている。

そして最後は、あらゆる分野における省エネ、省電力に貢献するITだ。これは社会全体にかかわるものなので、大きな期待がかかる。企業が出す二酸化炭素の「見える化」、そしてその制御のためのシステムも、次々と世の中に出てきている。そのような個別のものに加え、大きな社会のしくみの変革と言っていいものとして注目されているのが、Smart Gridだ。 

もともとは米国の電力送配電システムが老朽化しているため、その再構築をしようというものだが、それだけではない。家庭やビル、工場等で使っている電力を「見える化」し、余分に使っている電力の削減、電力使用料に合わせた変動価格の導入、電力使用のピーク時には自動的に電力消費を抑えるなどの仕掛けが加わる。さらに太陽光発電等、従来から使っている化石エネルギー以外の新たな代替エネルギーによる発電も、電力の送配電システムに組込み、効率よく使う。将来、電気自動車が世の中に広まったときには、各家庭の電気自動車を電気の貯蔵庫に使うなど、幅広い機能が加わる。これらを実現するのに、ITシステムが大いに貢献する。

Smart GridでITが貢献できる分野は多いが、そのいくつかをあげると、電気を使う機器のモニターとコントロールのためのセンサー、それらを結ぶネットワーク、電気使用量をもとに、電力消費の平準化、最適化をするためのデータ分析システムなどがある。このため、センサーメーカー、ネットワーク関連メーカー、さらには情報通信大手のIBM、ソフトウェア・ビジネスが中心のMicrosoftやGoogleも、Smart Gridに関連した製品やサービスを打ち出している。実際、米国ではすでにいくつものSmart Gridトライアルが、各地の電力会社を中心に、動き始めている。

一方、日本では当初、日本の電力送配電システムは、米国のように老朽化しておらず、米国のようなSmart Gridの必要性はあまりない、という論調の議論が多かったようだ。そのため、日本企業でも、Smart Grid関連分野に参入しようとする企業は、もはや日本市場にこだわらず、米国を中心とした海外市場への早期参入という方針に切り替えている。

米国、そしてEUなどでSmart Grid市場が本格化すれば、当然大きな新しい市場が生まれるし、いろいろな標準化もその中から決まってくる。今後グローバル市場で競争する企業にとって、日本市場の立ち上がりを待っていたのでは、外国企業に立ち遅れ、とても市場での勝ち目がなくなってしまう。最初から米国市場を中心とする海外市場に目を向けるのは、当然であり、必須のことだ。日本も海外のこのような動きを見て、ようやくSmart Gridが必要という議論が高まってきたようだが、政府がまず110億ドル(約1兆円)をかけようとする米国などに比べ、遅れを取っていることは否めない。

昨年12月、デンマークのコペンハーゲンで行われた地球温暖化防止のためのCOP15の結果は、一部の主要国がCO2削減のコミットメントを避け、明確な目標に向って地球規模に地球温暖化防止に対応する、というところまでは、残念ながら来ていない。しかし、すでに南太平洋の島国では、温度上昇による海面上昇のため、国の存在すら危うくなってきているのも事実だ。われわれが住んでいる地域でも、夏の猛暑、台風やハリケーンの大型化、冬の寒波が激しくなるなど、少しづつ気候が変化してきているのが、肌で感じられる。夏でも乾燥していて多少気温が高い日でも、あまり汗をかかなかった私の住んでいるカリフォルニアでも、ここ数年、湿度が上昇しており、汗をかくときが多くなった(まだ日本の夏ほどではないが)。間違いなく気候に変化が起こっていると、自分自身でも実感している。

COP15の結果、また、これからのフォローの形がどのようなものになるにしろ、地球温暖化防止のためのCO2削減、そのための省エネは待ったなしだ。IT企業は自分達の製品の省エネだけでなく、世の中全体の省エネのために大きな役割を果たす必要がある。その実現に向け、今年はグリーンITの大きな発展に期待したい。

  黒田 豊

(2010年1月)

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