いよいよ始まったサーチとSNSの融合
インターネットで何かをするとき、昔はYahooなどのポータルサイトから始める場合が多かった。ポータルには、いろいろな情報が索引のようにまとめられていて、便利だからだ。その後、索引で調べるよりも、キーワードでサーチするほうが便利で早いという動きになり、ポータルに行く代わりにGoogleのようなサーチエンジン・サイトから始める場合が多くなった。ブラウザーを開けたら、Googleの画面が出るように設定している人もいいのではないだろうか?
ところがそれが最近、Facebookを中心としたソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の利用の広がりとともに、最初の画面をFacebookにする人が増えてきている。何かを探す場合も、Googleのサーチを使ってそれを見つけようとしても、厖大な情報が返ってきて、かえって自分の求めているものが見つけ難い場合もあり、Facebookで知り合いに聞いてみる、という方法をとる人たちが増えてきた。
1年ほど前に、「Google を越える勢いのFacebook」という題でこのコラムの記事を書いたが、それがこの1年でさらに進み、広告等を出す企業にとってもFacebookの重要性が非常に高まっている。企業広告がサーチではなく、SNSに行ってしまうと、Googleとしては、本業が侵食されることになり、大きな問題だ。そこで、Googleも昨年春にはGoogle
BuzzというSNSを始めたが、プライバシー上の問題のほうが大きく取り上げられ、いまだ成功にはほど遠い。
しかし、一方で、皆がサーチをするのをやめて、SNSに走っているかというと、そういうわけではない。SNSだけで何かを探すのは難しい場合も多いからだ。サーチは必要、しかし今のままのサーチでは使い難く、SNSの友人の意見も聞きたい、というのがユーザーの声だろう。
そこで最近特に注目され始めているのが、サーチとSNSの融合だ。何かを探すとき、自分の参加しているSNSの友人の意見を聞きつつ、サーチ技術も併用する、というもので、すでにその動きは始まっている。
Facebookは自らサーチエンジンの機能を加えようとはしていないが、Facebookへの出資者であるMicrosoftとのつながりを利用し、MicrosoftのサーチエンジンであるBingと連係し、サーチとSNSの融合を図ろうとしている。Facebook経由でBingに入ってきてサーチする場合、Facebookの友達の「Like」したものかどうか、ということでランキングが変わる仕組みだ。蛇足ながら、Bingはサーチ市場でじわじわとシェアを拡大しており、つい最近、30%を超えた模様だ。Googleの独走は続いているが、Bingがようやく対抗馬の地位を築き上げてきたと言える。
これに対抗して、Googleは3月末にGoogle +1を発表した。Google
+1は、簡単に言うと、サーチした結果のサイトが気に入れば、「+1」ボタンを押す。つまりFacebookでいう「Like」ボタンと同じようなものだ。そして、Googleが把握できる限りの、その人の知り合いで、サーチ結果に対してすでに「+1」されているかを知らせてくれる。これによって、サーチ結果に、自分の知り合いの評価が加わったものを提供してくれるわけだ。
このGoogleサーチをより便利なものにする仕組みを利用するには、まずGoogle Accountの登録が必要になる。Googleのどのサービスも、多かれ少なかれそうだが、個人の情報提供が求められる。そして気がついたら、GoogleのSNSに組み込まれてしまう可能性もある。Google Buzzは、これまでのままではユーザー数を増やせそうにないので、今度はGoogle
+1を呼び水にして、ユーザーを増やそうと考えているのだろう。
GoogleはSNS連係という意味で、Google Accountに登録されている人以外の情報も取り込もうとしており、Twitterへの登録情報は使うことができる。ただし、FacebookはGoogleを競合と考えているので、その情報をGoogleに提供していない。
このように始まり出したサーチとSNSの融合は、広がり始めるとかなり便利なものになるだろう。ただ、SNSの友達がかなり多くいないと、自分が探しているサーチ結果に友人の評価が出てくるまでには、しばらく時間がかかるかもしれない。もちろん、SNSの友人以外を含めて、どれくらいの人が+1しているかをもとに、そのサイトのよさを評価することができないわけではないが、これはなんらかの方法で、多くの+1が出るように細工することも可能で、システムがabuseされる可能性も秘めている。現在のサーチで行われているsearch
engine optimizationによるabuseで、ユーザーの求めていない、広告中心のサイトに誘導されるのと同じことが起こる可能性があるわけだ。
いづれにしても、これまでのような、単なるキーワードによるサーチは限界が来ていることは、確かだ。サーチの改善のためには、SNSとの融合以外にもたくさんの試みがなされ始め、ベンチャー企業もたくさん登場している。その大きな流れの一つは、サーチのパーソナル化で、サーチとSNSの融合もその一環とも言える。パーソナル化では、サーチを何段階か繰り返してユーザーの求めるものにたどりつくのではなく、その個人の居場所、嗜好等を考慮して、それを一気にやってしまおうという、パーソナル・アシスタント技術の発展も、これから目が離せない。Appleが昨年買収したSiriはこの点で注目される。
一見Googleの一人勝ちで成熟した技術のように見えるサーチだが、その奥は、まだまだ深い。サーチとSNSの融合は、FacebookとMicrosoftのBing連合にしても、GoogleのGoogle +1にしても、まだ緒に付いたばかりだ。これからのサーチとSNS融合の発展が楽しみだ。
黒田 豊
(2011年5月)
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