Googleふたたびテレビにチャレンジ

7月24日、Googleがふたたびテレビにチャレンジするのろしを上げた。今回のものは、Google Chromecastと呼ばれる、USBスティックのような小さなもので、テレビのHDMIインターフェースに差込み、家の中のWifiを使ってパソコン、タブレット、スマートフォンなどがインターネット経由で受信したテレビ番組などのビデオ・コンテンツをテレビ画面に表示する。また、Google Chromeブラウザーで表示したウェブ画面を写しだすこともできる。ふたたびチャレンジと書いたのは、Googleのテレビへのチャレンジは、2010年10月にソニーや韓国のLGなどを含め、テレビメーカー数社と組んで市場参入したGoogle TVが最初だからだ。

Google TVは、Googleがソフトウェアとしてテレビメーカー各社に提供し、テレビメーカー各社は、そのソフトウェアを組み込んだものをスマートテレビとして販売した。まだGoogleも、テレビメーカーも、このGoogle TVから撤退したわけではないが、少なくとも現時点では失敗に終わっている。その一番の理由は、使い勝手の悪さに加え、ウェブ上のテレビ番組などのコンテンツが、見られないことにあった。Googleとしては、Google TVソフトウェアでインターネット接続し、インターネット上のコンテンツを見られるようにしたので、テレビ局のウェブサイトやHuluなどで無料で提供されている番組が見られると思っていた。ところが、テレビ局各社はこのやり方に反発し、Google TVからのテレビ番組ウェブサイトへのアクセスを拒否した。

今でもよく覚えているが、2011年1月のラスベガスでのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、Sonyは大々的にGoogle TVを出展していたが、そのデモ機を使ってHuluのサイトに行こうとすると、Google TVからのアクセスは出来ません、という表示が出て、アクセスが拒否された。その一方で、同じSonyの展示場で、Google TVを使っていないSonyのテレビでは、Huluのアプリがあり、Huluにアクセスが可能だった。これは、SonyがきちんとHuluと掛け合い、権利処理等を済ませていたからだろう。

その後、Googleはテレビ局と交渉し、Google TVでも多少のコンテンツは見られるようになった模様だが、まだすべて見られるわけではない。一方、テレビ画面でHuluを含め、インターネット経由でテレビ番組を見ようと思えば、MicrosoftのXbox、SonyのPlaystation、NintendoのWiiなどを経由しても見られるし、Apple TV、Rokuなど、インターネット経由のテレビ番組等を見るための、サードパーティ・ボックスも存在する。そのため、Google TVは、ほとんど見向きもされない、という状況だ。実際、1年ほど前の新聞記事では、Google TVを組み込んでいるテレビは、販売数よりも返品数のほうが多い、などといううわさまであがるほど不評だった。

そこで今回出てきたのがGoogle Chromecastだ。これを利用するには、まずテレビを買い換える必要はない。単にすでに持っているテレビに差し込むだけだ。しかも値段はわずか$35(約3,500円)。プロモーション期間に買えば、さらに3か月分のNetflix(大手インターネット・ビデオ配信サービス会社)の会員サービスが無料でついてきたので、実質は約$11(約1,100円)だ。機能的に特別新しいものがあるわけではないので、販売前の予想では、売れるかどうか、賛否両論が飛び交っていたが、結果的には、少なくとも最初の段階では、かなり売れた模様で、一週間以内に在庫切れとなり、これから買おうとしても、数週間待ちになるようだ。そのため、Netflix 3ヶ月無料のプロモーションも、わずか1日で終わってしまったとのことだ。これほど売れた理由は、ともかく簡単で安い、ということだろう。

発売当初の売れ行きはいいが、機能的には、まだまだ物足りないものがある。たとえば、テレビ画面に表示するためには、そのためのアプリがタブレットやスマートフォン側に必要だが、いまのところNetflixとYouTubeしか用意されていない。これでは、まだまだすべてのテレビ番組を見ることができない。ただ、発売当初の売れ行きがいいことから、他社もGoogle Chromecast経由の配信に積極的になる可能性は十分ある。そうなれば、この市場でのGoogle Chromecastの地位が大きく向上し、Googleのテレビ局等との交渉力も強化され、Chromecastだけでなく、Google TVや、今後サービスを検討していると言われている仮想ケーブルテレビ・サービスがコンテンツ配信交渉を優位に進めることができる可能性が出てくる。

Google Chromecastと直接競合する製品は、Apple TVとRokuだろう。特にタブレットやスマートフォンの画面上に出ているものをそのままテレビ画面に表示する機能などは、Apple TVのAirPlayと同じだ。値段的にはApple TVは$99なので、Google Chromecastのほうがかなり安い。また、Apple TVがApple製品にしか対応していないのに対し、Google Chromecastは、GoogleのAndroidベースの製品だけでなく、AppleのiPadやiPhoneなどにも対応しているのは便利だ。Apple TVに対して劣っているものといえば、やはりコンテンツだろう。Apple TVはコンテンツ提供のアプリも多数あり、ブラウザーもChrome以外に対応しており、さらにタブレットやスマートフォンなしで、直接テレビ画面にインターネット・ビデオコンテンツを出すこともできる。

Googleは、Google Chromeでテレビ画面にインターネット・ビデオコンテンツを提供することに一歩前進したが、その一方で、Google自身がインターネット・ビデオコンテンツを配信することも考えているようで、テレビ局などコンテンツ会社と交渉を行っているとのうわさだ。これは、いわゆる仮想ケーブルテレビ(virtual cable TV)のようなもので、ケーブルの代わりにインターネットを使ってテレビ番組を提供するサービスで、Microsoft、Apple、Intel、Sonyなどもこのようなサービスを検討中と言われている。ただ、どこの会社もテレビ局などとのコンテンツ配信契約に苦戦しているようで、まだ仮想ケーブルテレビは実現していない。Intelは、今年はじめに今年度内にサービスを開始するという趣旨の発表をすでに行っているが、その後の会社幹部の話は、ややトーンダウンしている。その代わり、すでにテレビ局等との契約が済んでいるNetflixなどと契約し、それを配信する、という方向に進んでいる会社のほうが、今のところ多く見受けられる。

Googleがテレビ番組などのコンテンツ配信サービスを立ち上げるかどうか、またそれが成功するかは未知数だが、今回のChromecastを含め、Googleがインターネット・ビデオ配信分野に本気なことがうかがえる。Googleをはじめ、Apple、Microsoft、Intel、Sony、Netflix、Amazon、またRokuなどの新興を含めた有力勢力がそろって参戦し、米国のインターネット・ビデオ配信市場は、活況を呈している。米国ではテレビ局もインターネット経由で番組を同時配信するところが増え、また、大手ケーブルテレビ会社Cablevisionの社長が、将来はテレビ番組はケーブルではなく、インターネット経由で配信されることになるだろうと発言するなど、テレビ番組の配信方法が、単なる放送から大きく変わってきている。日本市場には、いつになったら、この大きな動きが広がっていくのだろう。

  黒田 豊

(2013年8月)

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