50周年を迎えたCES
毎年1月はじめにラスベガスで行われるCES(これまでコンシューマー・エレクトロニクス・ショーと呼ばれていたもの)が今年、50周年を迎えた。第1回CESは1967年、ニューヨークで行われ、出展したのは117社、来場者は17,500人ほどだったという。今年はそれが3,800社を越え、来場者は第1回の10倍を越える175,000人以上だった模様だ。
以前のCESは、その名の通り家電のショーという感じで、IT関係のイベントとしては、秋に同じくラスベガスで行われるCOMDEXが中心だった。それが、2003年を最後にCOMDEXがなくなって以来、CESがITを含めたビッグイベントとなった。ただ、それも4-5年前には、またテレビやスマートフォンが中心の、家電ショーに戻りつつあるような感じもあったが、ここ2-3年は、また状況が大きく変わってきた。
2年前のこのコラムでもCESのことを書き、そのときのタイトルは「バラエティーに富んだ今年のCES」だった。すでにそのころからCESの内容が大きく変わってきていたが、今年はそれがさらに進み、本当にバラエティーに富んだ内容のものだった。大手メーカーは、テレビやスマートフォンも引き続き展示はしていたが、もはやメインのものという感じでは、なくなっている。
主催しているCTA(Consumer Technology
Association)によると、コンシューマーのテクノロジー製品への支出は、世界で今年9290億ドルと予想されており、これは昨年の9500億ドルを下回る予想だ。この市場の縮小は今年に始まったものではなく、2013年の1兆450億ドルをピークに、減少を続けている。製品別では、スマートフォンへの支出が全体の47%と半分近くを占めているが、この市場は成熟してきており、市場規模はほぼ横ばいの予想だ。次に大きな市場であるパソコン/タブレットは、今年は5%ほど縮小して全体の20%強になると予想されている。また、もう一つの主力製品であるテレビ市場は、昨年11%減少し、今年はさらに3%減少して、市場全体の11%弱になるとの予測だ。テレビでは、高精細の4K、さらに8Kテレビへの期待があり、また現在主流のLCD型ではなく、より薄く、曲げることも可能なOLEDを使ったテレビを推進しているメーカーも少なくないが、それでも、以前のCESのように、テレビ展示のオンパレードというには、ほど遠い状況だ。
では、代わってどのような製品の展示が増えていたかと言えば、何か一つのものではなく、さまざまな異なる製品だ。いずれも、まだ市場的には大きくないし、ものによっては、市場が大きく広がるのは、今年ではなく数年後と思われるものも多い。各社とも、新しい次の大きな市場を求めて模索している、というのが今年のCESの特徴だった。
具体的に言うと、今年目立ったものの一つは車だ。2年前にCESに来たときも、自動車メーカー数社が出展し、CESに変化の兆しが感じられたが、今年は大手自動車メーカー、さらには大手自動車部品メーカーが勢ぞろいしていた感がある。数年前から広がり始めている、車をインターネットにつなげ、種々のサービスを提供するコネクテッド・カー、そして昨年あたりから急激に話題の中心になっている自動運転車が、メインの展示だ。前者は現在の技術でもいろいろなことができるが、後者の自動運転車については、安全性や法規制の問題もあり、人が介在しない完全な自動運転車市場が本格的に広まるまでには、いま少し時間がかかるだろう。一昨年はトヨタが燃料電池車を前面に出した展示をしていたが、今年はその展示がなかったのは、少々残念だったが、この市場の発展には、もう少し時間がかかる、と判断したのかもしれない。
自動運転車にはAI技術が大きく貢献しているが、AI技術を使ったもう一つのものとして、パーソナル・アシスタント(インテリジェント・アシスタント、スマート・アシスタントなどともいう)が目立っていた。パーソナル・アシスタントとしては、6年以上前にAppleが最初に出したSiriが有名だが、その後MicrosoftのCortana、GoogleのGoogle
Assistant、また、AmazonがAI技術のAlexaを使ったEchoを家庭用に2014年に発表し、それが予想を超えて広がった。
今回のCESでは、これらが、いろいろな製品に組み込まれて使われているのが、注目された。たとえば車、また、冷蔵庫などの家電製品。特にAlexa技術をオープンにし、他社に提供しているAmazonのものが目立っていた気がする。いずれも音声入力をベースにしているところも、大きな特徴のひとつだ。AI関連では、これ以外に、人型ロボット(形が人に似ているとは限らないが、人の代わりに案内などの応対をしてくれるロボット)も、展示が増えていた。
いろいろな物をインターネットにつなげるIoT(Internet of
Things)関連でも、出展が多かった。ウェアラブル製品で、ヘルスケア、そしてフィットネス関連での製品が、2年前に比べると展示スペースを大きく広げ、多くのベンチャー企業を含むたくさんの会社からの出展が見られた。この分野には、大きな期待がかかっているが、フィットネス分野では、ある程度市場が成熟してきているので、いま一歩の進化がないと、次の市場の飛躍にはつながらないように見える。ヘルスケア分野は、これからさらに発展が期待されるが、医療という分野に入ると、FDA(Food
and Drug Administration:食品医薬品局)による承認手続きなど、手間のかかるものも多く、市場発展には、ある程度時間がかかるかもしれない。とはいえ、中長期的に有力な分野であることは、間違いない。
ただ、Apple Watchに代表されるスマートウォッチ市場は、個人がだれでも使う製品として、大きな期待がかかったが、いまのところそれほど大きな市場にはなっておらず、パソコン、スマートフォン、などに続く大型ヒット製品にはなっていない。
冷蔵庫や洗濯機をインターネットにつなげて、付加価値を加えるものは、数年前にも話題になったが、そのときは、市場はほとんど反応しなかった。今回AIを使って、より賢くなったものが、再チャレンジしているが、これに対し、市場がどれくらい反応するかが注目される。
そのほかでは、数年前から話題のドローン、昨年大きな話題となったVR/AR(Virtual Reality/Augmented Reality)の展示もいろいろあったが、市場規模的には、まだまだ小さく、いまのところ特定ユーザー向けという感があり、スマートフォンやパソコン、テレビなどのようにどこの家庭でも、そして個人が誰でも使うような市場になる可能性は、あまり高くない。
今年のCESを評したコメントに、過渡期のCESという声がよく聞かれるのも、次の大きな市場はどこか、各社とも模索中、という状況だったからだ。各社が模索している製品の中から、何か大きなヒットとなるものが出てくるか、そして、そこで飛躍するベンチャー企業が出てくるか。引き続き今後を注目していきたい。
黒田 豊
(2017年2月)
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