ビジネスマンに新しい出会いの場を提供するLunchclub

先月のコラムでは、昨年後半から急に流行りだしたClubhouseについて少し書いた。これは音声によるSNSと言われるようなもので、急激に広がり、招待制のため、招待の権利をもっている人が、それをインターネット上で高く販売する、という現象まで起きていた。しかし、有名人や著名人の参加が減り、ここにきて落ち着きを見せているようだ。多くの人がとりあえず参加してみたものの、あまり魅力的なものを見出せず遠ざかってしまうと、このClubhouse現象がいつまで続くかは、未知数だ。

さて、今回お話するLunchclubも、比較的最近始まり、Clubhouseほどではないが、コロナ禍で静かに広がってきている。どんなものかというと、ビジネスマンのマッチング・サイトのようなもので、Lunchclubに登録したビジネスマン個人同士を、それぞれの興味分野に合わせ、AIがマッチングしてくれるものだ。利用料は無料。コロナ以前は、その名の通り、マッチングされた人が一緒にランチを食べながら話をする、というものだった。しかし、コロナ禍でそのようなことができなくなり、Zoomなどのビデオ会議システムを使って、リモートで会って話をするようになった。

これが逆に人気に火をつけた。ランチを一緒に食べる、ということだと、近くの人としか会えず、また急用が出来てドタキャンしてしまうと、相手はかなり時間を無駄にしてしまうことになる。そのようなことも原因だったのか、コロナ以前は、Lunchclubはそれほど広がりを見せていなかったが、コロナ禍でリモート対応となり、ユーザーが一気に10倍以上に増えたという。リモートなので、世界のどこの人ともマッチングが可能になり、紹介できる相手が飛躍的に増えたのだ。

Lunchclubの仕組みをもう少し詳しく説明すると、まず最初にメンバー登録するときに、自分の簡単なプロフィール、興味のある分野、趣味などを登録する。そして、毎週Lunchclubが何回ミーティングをしたいか聞いてくるので、それに対して、ミーティング可能な時間とともに登録する。週に最大6回まで登録することができる。その週は忙しいのでパスする、ということも可能だ。これをもとにLunchclubで適当と思われる相手を見つけ、ビデオ・ミーティングをセットしてくれ、Googleのスケジュールなどにも入れてくれる。これにお互い参加すると返事をすれば、準備OKだ。

ミーティング前日までには、相手のプロフィールが送られてくる。ビジネスマンとのミーティングなので、通常LinkedInのアドレスも入っており、それを見れば、相手のさらに詳しい情報も事前に得ることができる。日本ではLinkedInを使っている人があまり多くないようだが、米国を含め、多くの国のビジネスマンはLinkedInに詳細なプロフィールを入れている。LinkedInは、そこに登録されている内容を検証しているわけではないが、世界200ヶ国、7.4億人が登録して、すべて実名で使用しているものなので、かなり信頼性は高いと言える。

LinkedInについて、多少付け加えると、これはビジネスマン向けのSNSのようなもので、すべて実名登録、現在の勤務先だけでなく、これまでの勤務先やそこでの仕事、どこの大学を出たかなど、ほとんどの人がこれらの内容を登録している。LinkedInは会社を変わるときなど、仕事探しにもよく使われるので、かなり信ぴょう性の高い情報が入っているといえる。仕事や学歴、仕事に関係する情報の紹介などはあるが、Facebookなど一般消費者向けのSNSと違い、家族の話や、趣味の話などを見かけることは、ほとんどない。

米国に住んでいて感じるLinkedInの便利さは、ある人とLinkedInでつながっていると、ずっとつながりが続けられることだ。昔と違って、米国でも今は人と会うと名刺を交換するが、名刺を持っていても、人の異動が激しく、会社をすぐに変わってしまう米国では、少し古い名刺を持ち出して連絡しようとしても、もう連絡が付かない場合も少なくない。その点、LinkedInでつながっていると、LinkedInもFacebookなどと同じように、メッセージ機能があるので、その人に連絡を取ることがいつでも可能になる。また、初めて会った人と名刺交換しても、その人の過去の履歴などはわかならないが、LinkedInでつながれば、その人のこれまでの経歴や学歴などがわかり、その人に対する理解が深まる。そういう意味で、米国などでは、LinkedInはビジネスマンにとって必須のものと言える。

さて、Lunchclubに話を戻すと、Lunchclubは2018年に創業したまだ若い会社だが、2020年には3回目の投資ラウンドを終え、$4.6 mil.の出資をベンチャー・キャピタル等から受けている。出資した会社の中には、有名なAndreessen Horowitzも含まれており、現在の時価総額は1億ドルを超えている。このLunchclub、私もあるところからの紹介で、昨年8月から参加しており、ほぼ毎週1回、ミーティングで新しい人と出会っている。一言で感想を言うと、とても面白い出会いがたくさんある、と感じている。

私が気に入っていることをいくつか挙げると、まずコロナ禍で、これまでならセミナーなどに参加すると、その前後にあるネットワーキング・タイムにいろいろな人と会うことができたが、それができなくなっていた。そんなとき、このLunchclubに出会い、いろいろな人と会うことができたのは、とてもいい経験になっている。しかも、これまでのセミナー前後のネットワーキングでは、一人と話をするのは、せいぜい数分で、あまり詳しい話は出来ず、そこではとりあえず名刺交換して知り合いになり、必要があれば再度連絡して会う、というステップを経ることになる。

これに対し、Lunchclubでは、基本45分間のミーティングがセットされているので、ゆっくりお互いの仕事について、そして興味あるテーマについて、話をすることができる。また、お互いの知っている情報を共有したり、参加しているグループなどを紹介してもらってそれに参加することになることも、実際起こっている。思わぬ人とのミーティングをセットアップされ、聞いたこともない話を聞き、知識の幅が広がるのも面白い。

具体的な例を挙げると、あるとき、UC Davisというカリフォルニアの名門大学で蟻の研究をしている人と、ミーティングがセットされたことがある。私は蟻に興味があるなどとプロフィールに書いた記憶もないし、一体どういうことかと思いつつミーティングに参加したが、実際参加してみると、蟻の行動と人間の行動の比較の話もとても面白かったし、私が別件で行っている、大学とビジネスマンをつなげる仕組みに興味を持ってくれ、大学側の人間としてそれに参加してくれることになるなど、たくさんのものが得られるミーティングとなった。

他にも、弁護士とのミーティングでは、無料でちょっと相談に乗ってもらったり、ベンチャー・キャピタリストには、最近のベンチャー市場動向の話を聞いたりできた。また、インドのムンバイの会社で新規事業開発に取り組んでいる人、アルゼンチンのブエノスアイレスに住んでいる若い起業家、イスラエルのテルアビブで起業家支援を行っている人、ロンドンに住んでいるビジネス・アーキテクトの人など、さまざまな人たちの話が聞けて、とても面白い。個人的には、面白いミーティングがたくさんでき、コネクションも増えるので、今後も続けていきたいと思っている。現在は招待者優先での参加になっているので、もし参加することに興味があり、参加がWaitingになるようであれば、私に連絡いただければInviteすることは可能だ。今後、Lunchclubがさらに広がっていくことを楽しみにしている。

  黒田 豊

(2021年4月)

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