それぞれのやり方でヘルスケア市場を攻めるGAFAM
GAFAM(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon、Microsoft)がAIで優位に立つべくしのぎを削っているということを書いたのは先月だが、今月はGAFAM各社が、どのようにヘルスケア市場を攻めようとしているかについてみてみたい。なぜヘルスケア市場をとりあげるかというと、GAFAMはテクノロジーをベースにした会社だが、その中でヘルスケア分野については、以前から各社とも本格的に取り組もうとしているように見えるからだ。ただし、その力の入れようには濃淡があり、そのやり方も、それぞれ大きく異なっている。
まず、わかり易いAppleから見てみよう。Appleのヘルスケア関連商品といえば、Apple Watchだ。Apple Watchが最初に発売されたのは2015年。当初からAppleはApple
Watchにいろいろなヘルスケア機能を加え、他の時計や万歩計のようなフィットネス機器との差別化を図ろうとしていた。ただ、最初のものは、当初予定の機能が十分機能を果たせなかった等の理由で導入が見送られ、魅力的なヘルスケア機能があまり入っていなかったのを記憶している。あれから8年、最新のシリーズ8では、多くのヘルスケア機能が含まれている。
その詳細はApple Watchのウェブサイトを参照いただきたいが、そのいくつかを紹介すると、心拍数、不整脈の検知、心電図、心房細動の記録、血中酸素濃度、転倒検知、歩行と心肺機能把握、睡眠状況のトラッキングなど、多くの機能が含まれている。また、メディカルIDを設定しておくと、救急隊員や緊急治療室の医療従事者が、パスコードなしでユーザーのiPhoneのロック画面や、Apple
Watchから重要な医療情報を確認することができる。また、定期的に飲む必要のある薬のリマインダーや、服用記録を取ることもできる。ただ、期待されている血圧測定については、2024年以降になる模様だ。また、もう一つ大きな期待が集まる、非侵襲的(non-invasive)血糖値測定も、まだ含まれていない。
Apple Watch以外でも、iPhoneに含まれているヘルスケア・アプリよって、Apple Watchからのデータ、またApple Watchなしでも、毎日の歩数などを記録し、健康管理に活用できる。Appleはこのように、一般ユーザー向けのヘルスケア機能をメインに提供しているが、医療機関などヘルスケア・プロバイダーへのサービスは、特に目立ったものが見当たらない。
これに対し、Googleは、一般ユーザー向けと、医療機関向けの両方の製品、サービスをGoogle Healthという名前のもとで、提供している。特にAIの活用に力を入れており、ヘルスケアの民主化(Democratization of
Healthcare)を目指している。まず一般ユーザー向けを見てみると、ウェアラブル端末では、2021年初めに買収したFitbitがある。FitbitはApple Watch同様、歩数、脈拍、睡眠パターン、血中酸素濃度などを測定し、記録することができる。また、これらの値を分析し、必要となる運動のお勧めなどを行うGoogle
Fitアプリもある。また、皮膚の写真を3枚送って、皮膚の状態を分析してくれるDermAssistというサービスもある。自宅で室温などを調節するNestは、就寝時の身体の動きや音によって、睡眠状況を分析する機能も持っている。もちろん、適格な情報を探すためのサーチや、YouTubeによる事例紹介なども、一般ユーザーに大きく役立っている。
Googleはこのような一般ユーザー向けの製品・サービス以外に、医療機関向けにも、いくつかの製品・サービスを提供している。その一つはARDA(Automated Retinal Disease Assessment)という、AIを使った網膜検査により問題を早期発見し、視力を失うことを防ぐことに貢献している。また、Care
Studioというサービスでは、患者の情報を、最も必要な情報をわかり易く提供し、患者の情報を探す手間を軽減することに貢献している。
Microsoftは、現時点では一般ユーザーではなく、医療機関向けの製品・サービスに注力している。2020年末に発表したMicrosoft Cloud for Healthcareは、医療機関向けのソフトウェアで、テレヘルスをスムーズに行うための支援を行っている。また、2022年に買収したNuance Communicationとともに、最初のFully AI-Automated
Clinical Documentation Application for Healthcareを今年3月に発表している。また、関係の深いOpenAIが開発した生成AI技術GPT-4を活用し、医療現場でノート記録の効率化のためのツールを、この4月に発表している。
Amazonは、一般ユーザー向けのヘルスケア・サービスを提供しているが、AppleやGoogleのものとは異なる。Amazonのものは、通常の医療機関によるサービスを、オンラインで提供しようというものだ。2019年にSeattleのAmazon社員向けに開始し、その後他州に広げたサービスのAmazon Careは、2022年末に終了したが、そのあとを継ぐサービスとして、Amazon
Clinicという仮想ヘルス・クリニックを今年開始した。これは、今年2月に完了したOne Medicalというヘルスケア・プロバイダーの買収をベースに、以前のAmazon Careの経験を生かしながら、サービスを提供している。このサービスは、年間$144の会費と、その時々に必要なコンサルテーション・フィー(平均で$30程度)で受けることができる。
すでに20を超える症状に対し、アポイントメントなしで、オンラインで受けられる会員制サービスだ。ビデオでの診断も必要なく、送られた情報を元に、必要があれば処方箋薬も処方してくれる。ただし、送られた情報だけでは不十分な場合や、さらに詳細な診断が必要と判断された場合には、医師の診断を受けるよう、勧められることもある。米国では50%以上の人が、現在の医療機関によるサービスに不満があり、1億人の人々が医療のためにお金を支払い過ぎていると感じており、このAmazonの安価なサービスが今後どのように広がっていくのか、注目される。小売業にディスラプションを起こしたAmazonが、今度はヘルスケア市場でディスラプションを起こすのか、業界は戦々恐々としている。
最後にMetaだが、ここはヘルスケアであまり目立った動きを示していない。メタバースが世の中で広がれば、そこでヘルスケアを含むいろいろなものを提供しようとしている模様だが、メタバース自体が今年5月のシリコンバレー通信にも書いたように、あまり大きな動きとなっていないため、ヘルスケアについても、Metaは沈黙したままの状況だ。
ヘルスケア分野への対応は、GAFAM各社それぞれで、そのやり方が大きく異なっているが、ヘルスケア分野が次の大きな市場であると考えていることには変わりない。それぞれの会社、なかでもAmazonが始めているヘルスケア市場に仕掛けるディスラプションが起こるかどうか、今後が注目される。
黒田 豊
2023年7月
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