デジタル競争力向上のため、日本に求められるもの

―情報通信技術(ICT)活用の急加速に向けてー

 

新年明けましておめでとうございます。

 

2020年に始まったコロナ禍も、ワクチン接種が広まり、治療薬も増えてきて、重症化率は下がり、国と国との行き来もかなり正常に戻り、解決まであと一歩、そう期待したい。

 

コロナ禍で情報通信技術(ICT)がいかに大切かは、世界中の人達が実感した。人々が新しい技術を受け入れるのにかかる時間が、コロナのために一気に短縮され、ICT活用が世界で加速した。それによって、ビジネスのやり方を変革するデジタル・トランスフォーメーション(日本では、DXと略される場合が多い)も加速し、いろいろな分野で、「Digital First」がこれからの主流になってきている。日本でも同様だが、同時に日本がいかにICT活用で遅れていたかを実感した、ここ数年でもあった。

 

スイスの国際経営開発研究所(IMD)によるデジタル競争力ランキングで、日本は2021年の28位から一つ下がり、2022年には29位になってしまった。日本のICT活用が、世界レベルから見ると、かなり低いことを象徴している。米国は一つ下がって2位との評価だが、その米国は、コロナ禍で10年先と思われていたことが、いま起こっている、と言われるくらい、ICT活用による新しい世界が到来している。日本は29位から順位を上げるべく、そのペースを加速する必要があるが、他の国々もそのペースを加速しているので、日本は急加速しないと追いついていけない。

 

日本もICT活用、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速する必要があるとの認識で、政府も社会も一致しているので、急加速を期待したいが、課題も多い。法的規制のため、ICT活用が進まない、という大きな問題は、デジタル庁の設置と、規制改革に強い河野大臣のリーダーシップで、よい方向に進んでいると思うが、変革に抵抗する勢力も相変わらずいると思われるので、皆でその状況をチェックし、規制改革を進める必要がある。

 

また、よく言われることに、IT人材不足がある。経済産業省によると、2030年には最大79万人のIT人材が不足すると言われ、これについては学校教育へのソフトウェア・プログラミング授業の導入やリスキリングなど、いろいろ進められており、方向としてはいいと思うが、ある程度時間のかかる話だ。

 

もう一つ、ICT活用の障害として、「変化、変革をきらう」傾向が日本企業、日本社会、そして日本人にある点がある。これは、リスクを避けたいと考える企業や日本人の性格から来るとも言われるが、すでに以前このコラムで書いたように、いま世の中が大きく変化する中、自分の会社が、そして個人が「変わらないことが、むしろ大きなリスク」となっている。コロナ禍でこれを実感した企業、個人も多いことだろう。その意識を常に持ちながら、日本企業、社会、そして個人が変化の必要性を認識し、ICT活用を含め、世の中を変えていくことが必要だ。

 

これらに加え、私は、もう一つ大きな点が、日本では不足していると強く感じている。それは、「ICTを使いこなす人」の不足だ。ICTを使いこなすとは、単にパソコンやスマートフォンが使え、Word やExcelなどが使える、という話ではない。企業の発展、社会の課題解決のために、どのICTを、どのように活用すればいいかを、提案できる人のことだ。

 

私は2022年に、日本のある大学の一般教養科目として新しく作られた「デジタル化する社会を考える」という講座で、数回講義させていただく機会があったが、私は、このことを学生の皆さんに伝えることに力を入れた。IT人材、いわゆるITシステムを構築するエンジニアを育てることも、もちろん必要だが、この大学のように、このような講座を設け、「ICTを使いこなす人」を作ることが、日本のICT活用加速のために、ぜひ必要なことだと私は考えている。

 

そして、このような人達は、理系の人達からだけでなく、むしろ文系の人達から多く出てくる必要があると考えている。文系の人達は、技術の中身までわかる必要はないが、その技術がどんなもので、何に使えるかがわかれば、「ICTを使いこなす人」になることができる。一方、理系の人達も、技術そのものの追求だけでなく、その技術が人の役に立つためには、どのように使われるべきかを考える必要がある。そして、文系の人と理系の人が、「その技術を使って ユーザーにどんな価値を提供できるか」を一緒に考えることができれば、ICTを含め、あらゆる技術の可能性が大きく広がる

 

では、「ICTを使いこなす人」を育てるには、どんなことが必要か。私は以下の3つが必要と考えている。

1) どんなICTがあり、それがどんなことに役立つかを理解する

2) ICTを利用した現場を理解する

3) 常に「課題」を見つけるアンテナを立てておく

いまの若い人達は、いわゆるDigital Nativeの人達で、生まれたときからすでにパソコンがあり、インターネットもあった。なので、自分たちの日々の生活でICTを使っているが、一体どんなことができる技術なのか、そして、自分たちが使っている以外のところで、その技術がどのように使えるかを知っている人は、あまり多くない。このような人達に、ICTとしてどんな技術があるのか、それらはどのようなものに役立つのかを理解してもらう必要がある。そして、自分たちの知らない世界での、ICTのいろいろな使われ方を知り、新たな使い方を考えることができるようになる必要がある。

 

このようなICTに関する知識のベースがあれば、3)で企業や社会の問題に気がついたとき、それをどんなICTを活用すれば解決できるかが、提案できるようになる。このような人が増えてくれば、日本のICT活用、デジタル競争力もぐんとアップする。日本人は、現在行われているやり方を「改善」することはとても得意だが、そのやり方を大きく変革するような発想、いわゆるイノベーションに対しては、遠慮し勝ちなところがある。そういう意味で3)は、単に「改善」というレベルの発想ではなく、現状を大きく変革する方法での課題解決の提案が望まれる。これが進めば、社会課題へのソリューションとして、新たなビジネス・イノベーション(ユーザーに新たな価値を提供するもの)が生まれることも、十分期待できる。

 

いま、世の中で大きく取りざたされているデジタル・トランスフォーメーション(DX)は、まさにこれまでのビジネスモデルを変革するような世の中、各業界の変化が、一番注目すべき点だ。業界のビジネスモデルがICT活用によって大きく変わるとき、これまでのやり方の「改善」だけに務めていたら、勝ち目はない。このビジネスモデル変革は、アナログカメラがほとんどデジタルに変わったように、業界が全く変わってしまうこともあるし、小売業のように、Eコマースが発展し、ここに参加しないと倒産の憂き目に会うことがあるものの、お店での販売も相変わらずあり、ハイブリッド型に移行するものもある。また、業界によって、ビジネスモデル変革の始まる時期、また変革に要する期間も大きく異なる。

 

デジタル・トランスフォーメーション(DX)では、このような業界のビジネスモデル変革への対応が最も重要だが、日本の場合、それ以外の分野でもICT活用が遅れているので、日本でのICT活用加速を考えるとき、以下の4つの視点が必要だ。

a) その業界のビジネスモデル変革への対応

b) 売上向上のためのICT活用

c) 生産性向上・コスト削減のためのICT活用

d) 社内改革のためのICT活用

日本のこれまでのICT活用は、c)に偏っていた感があり、すでに米国などでかなり進んでいるb)については、かなり遅れている感がある。したがって、a)だけでなく、b)にも力を入れる必要がある。c)についても、AIなど多くの新しい技術の発展により、さらに進めることができる分野があるので、いままでのもので十分というわけではない。d)については、コロナ禍がとてもいい機会を作ってくれ、リモートワークを始め、多くの進展が見られたが、企業企業によってその進展具合には大きな差があり、遅れている会社は、早くキャッチアップしないと、人材確保に大きな課題を残すことになるので、注意を要する。

 

わたしは最近、中堅中小企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)コンサルティングも実施しているが、上のa)~d)全体を見て、その会社にとって何が最も重要か、実施すべき優先度の高いものは何か、という観点から助言している。デジタル・トランスフォーメーション(DX)を勧める手伝いをしようというIT企業も少なくないが、自分たちの持っている製品・サービスを売ることを目的としている場合が多く、客先企業にとって本当に必要なものは何か、という視点に欠けていることが多いように見えるのは、少々残念だ。

 

日本のICT活用急加速のためには、先に述べた多くの課題を解決する必要があるが、なかでも「ICTを使いこなす人」の育成の必要性を見落としてはならない。そして、その人達を含め、現在デジタル・トランスフォーメーション(DX)を進めようとしている企業は、自社にとっていま本当に必要なことは何かを見極め、ICT活用を進める必要がある。まだ険しい道が続くが、日本人の力は、これまで多くの困難を乗り越えてきた。ぜひその力を発揮して、日本のICT活用が急加速し、デジタル競争力が向上することを期待したい

 

  黒田 豊

(2023年1月)

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