AIの急速な進化で注目されるヒューマノイド・ロボット

 

いま最も注目されている技術がAIであることは、誰の目にも明らかだろう。 最近の大手IT企業の開発者向けイベントでも、多くの時間がAIについての話だ。 Googleの開発者向けイベントGoogle I/Oでは、CEOのPichai氏が、110分のキーノート・スピーチで、AIという言葉を121回使った。 2022年11月に生成AIのChatGPTを発表したOpenAIも、最近の開発者向けイベントで、さらに新しい機能を備えたGPT-4oを発表している。 そして、そのAI市場に必須のAI向け半導体チップでリードするNvidiaは、直近の四半期で売上$26 bil.(前年同期比3.6倍)と絶好調だ。

 

そんなAI業界だが、AIの利用は多岐にわたる。 その中の一つで、最近にわかに注目されているのが、ロボット業界だ。特にヒューマノイドと言われる、姿形も人間に近く、人間と同じようなことをやってくれるロボットだ。 すでに多くのスタートアップ企業が立ち上がり、多額のベンチャー資金も投入されている。 最近大きな注目を浴びたのが、Figure Technologies(通称Figure)だ。 2022年に設立されたばかりの会社だが、今年2月に$675 mil.(約1000億円)という大きな投資を受け、評価額およそ$2 bil.(約3000億円)、ロボット業界で初めてのユニコーンとなった。 出資者には、Microsoft、OpenAI、Nvidia、Amazon創設者のJeff Bezosなどが名前を連ねる。 OpenAIとのコラボレーションも発表し、OpenAIのソフトウェアを活用したロボット構築を目指している。 ロボット活用に積極的な自動車業界もFigureに注目しており、ドイツのBMWが倉庫内で、人には困難で安全でない作業に使う目的で、契約を結んだという。

 

Agility Roboticsは、Figureが話題になる前から注目されていた会社だ。 2015年に創業したこの会社は、Amazonから出資を受け、Amazonの倉庫での利用実験を、昨年11月から行っていた。 すでに終了したようだが、その結果については、両社からの発表は、まだない。 さらに前から注目されていた企業に、Boston Dynamicsがある。 1992年創業で、人型よりも犬型ロボットが有名で、ビデオなどで見たことのある人も多いだろう。 ロボット業界の先駆け的な存在だが、なかなか市場は広がらず、2013年にGoogleに、2017年にはソフトバンクに、そして2020年にはHyundai Motor Groupへと売却され、現在にいたっている。 犬型だけでなく、人型のヒューマノイドも発表しており、この4月にその新モデルAtlasを発表した。親会社との関係もあり、自動車工場での活用を準備中とのことだ。

 

この3社以外でも、電気自動車メーカーのTeslaがヒューマノイドのOptimusを、2025年に出荷する可能性を述べている。 すでに工場内で行う作業の一部を実験室で実施しており、年内には実際の工場の一角で使用可能になるだろうとのことだ。 Teslaは、これまで自動運転車開発のために蓄積したAI技術を生かし、他社より先を行くヒューマノイドが提供できると述べている。 これ以外にも、4月に$100 mil.の出資を受けた、人とともに働くcollaborative robot (cobot)を目指すCollaborative Robotics、3月に歩行スピード記録を作ったUnitree、短時間(24時間)でタスクを学習するヒューマノイドPhoenixを開発したカナダのSanctuary AI、NASAと協業し、宇宙で使うヒューマノイドを開発するApptronikなど、たくさんのヒューマノイドがある。

 

ロボットへのAI活用については、ロボット会社だけでなく、AI有力企業のOpenAIや、半導体チップメーカーのNvidiaも大いに注目している。 Nvidiaは、この3月の開発者向けイベントで、CEOのHuang氏が10台ほどのヒューマノイドを後ろに並べて話をした。そして、プロジェクトGR00T(Generalist Robot 00 Technology)を発表。 これはロボットが自然言語を理解し、人の動きをまね、器用さやモビリティを学習し、人間社会とうまくやりとりできるようにするという。 さらに、ヒューマノイド向けコンピューターのJetson Thorも発表し、それを搭載しているDisney Robotsのデモも行った。 既存ヒューマノイド Robot Platform Issacの大幅改定も発表し、この先AIによって大きくロボットが進化することを印象付けている。 また、NvidiaはオープンソースのRobot Operating System (ROS)開発支援のための組織Open Source Robotics Alliance (OSRA)にも参画している。

 

AIの発展が、ロボット、中でもヒューマノイドの発展に大きく貢献することは、間違いない。しかし、それだけではなく、AIを搭載したロボットの動き、失敗などをAIが学習することによって、さらにAIも進化していく、という状況になると考えられている。 これが進むと、いよいよ人間のような汎用的な知能を持つartificial general intelligence (AGI : 汎用人工知能)と呼ばれるものに近づいてくる。 とはいえ、その道のりはまだ長く遠い、というのが多くの専門家の意見だ。

 

ヒューマノイドに特定の仕事を覚えさせ、実行させることだけでも、簡単ではない。 パソコンやスマートフォン上で動くAIに何か質問して答えてもらっても、その答は100%正しいとは限らない。 AIからの答をもとに、ロボットが何かを実行する場合、その指令が間違っていたら、物を壊してしまったり、人に危害を加えてしまう可能性がある。 そのため、ロボットには、AIから間違った指令が来ても、物を壊したり、人に危害を加えないようにする仕組みが必要となる。 いま、自動運転車の事故は、人が起こすのに比べ、その確率は低いといわれるが、人が自動運転車が事故を起こすことを許す許容度は、人が起こす事故に比べ、はるかに低い傾向がある。

 

ヒューマノイドにしても同じだ。 ヒューマノイドが物を壊したり、人を傷つけたりする事故を起こさないような仕組みの構築が、極めて重要となる。 このコラムで取り上げたロボット企業は、すべて海外のものだったが、日本にもロボット企業は存在する。 そもそも世の中に初めてヒューマノイドまたはそれに近いものを発表したのは、米国のSRI InternationalのShakey(1969年)と、それに続く日本のWABOT(WAseda roBOT)(1972年)で、日本もヒューマノイドの先駆者のひとりだ。 東京ロボティクスという会社は、その早稲田のロボット技術から生まれた会社で、ヒューマノイドを開発しており、AIの間違った指令にも、人に危害を加えることのないようなものにするため、「力制御」に重点を置き、そこに強みを持っている。 昨今は海外勢が多額の投資を受け、優勢にも見えるが、ぜひ日本のロボット企業にも頑張ってほしいと願っている。

 

さて、このAIとロボットの組み合わせで、いつか将来、映画Star Warsで見たヒューマノイドのC-3POの世界が、いよいよやってくるのだろうか? ちょっと恐ろしい気もするし、楽しみな気もする。 みなさんはいかがでしょう?

 

黒田 豊

2024年6月

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