CES 2024、日本企業の世界市場への熱意は十分か

 

毎年1月はじめに米国ラスベガスで行われるCES(旧Consumer Electronics Show)。今年は、もうコロナ禍の影響は感じられず、いつものCESに戻ったという印象だ。私は今年もシリコンバレーからの日帰りで、1日しかいなかったので、CES全体のレポートをするつもりはないが、私の目にとまった今年のCESについて、書いてみたい。

まず、出展社数は昨年より1.000社ほど多い約4,300社、特にスタートアップ企業の出展が新記録となる1.400社を超えたのが目立つ。訪れた人は約135,000人と、昨年より2万人ほど多いが、コロナ前の17-18万人には、まだ及ばない。ただ、いつも目立つ存在の何社かが見当たらず、少々寂しい感じもした。具体的に言うと、いつもメイン会場の前の建物を占有して、長蛇の列に並ばないと入れなかったGoogleの展示がなかった。また、メイン会場の目立つところにあったMicrosoftがパートナー会社とともに出展していたものも、見当たらない。

内容的に見ると、昨年同様、目玉となるような新しいものが、今年も残念ながら見当たらない。今年はAIが話題の中心ということで、AIを活用した製品やサービスは確かに多くみられたが、特定のハードウェアなどの展示ではないので、展示的には目立った感じは受けない。

大きな展示ブースを構えている企業を見てみると、昨年同様、韓国のSamsungやLG、SKなど、また中国のHisense、TCLなどが目立っている。この中で目にとまったのは、テレビでOLED、ミニLEDやマイクロLED、レーザーTVの展示が多かったこと、またLGが初めてと言われる透明なスクリーンを使ったテレビで、スクリーンの向こう側が見えるものが、特徴的なものとして出展されていた。ちょっと面白かったのは、韓国のSKが、SKワンダーランドと称して、Magic CarpetやDancing Car、AI占い師など、小さなアトラクション会場のようなものを作り、真ん中に大きな球の画面を作って、商品を見せるというよりも、来場者を楽しませることに主眼を置いた、いままであまり見なかった展示方法をしているのが、目を引いた。

日本企業ではSonyとPanasonicが、大きなブースを構えていた。Sonyにはホンダとの協業で開発中の電気自動車(EV) AFEELAが昨年に続き展示され、ブースの場所(毎年ほぼ同じ所)が会場の奥のほうにもかかわらず、多くの人が集まっていた。以前は日本企業も多くの新しい技術を使ったテレビを展示していたが、ほとんどの日本企業でテレビの展示は見当たらず、時代の変化を感じずにはいられない。

大きなブースを構えていたところでは、Sustainabilityが多くのところで強調されていたのが、目立っていた。世界的なSDGs(Sustainable Development Goals)の流れを考えると、当然のことだろう。

分野的に見ると、最初に書いたように目玉的なものは見当たらないが、大きなスペースを使っていたテーマとしては、デジタルヘルス、車関連、そしてLife Style/Smart Livingなどがある。ただ、ざっと見た範囲では、それほど新しいものは見当たらず、これまでのものが多少進化した程度にしか、感じられない。デジタルヘルスでは、手術などを行う前のシミュレーションなどに、Digital Twinを使うものがあり、注目された。Digital Twinについては、工場建設など、他の分野でも見られ、静かに広がってきている感じだ。

車関連では、会場スペースは大きいものの、大手自動車メーカーで展示していたのは、限られた数社で、多くのスペースは個別技術や部品などの展示で、数年前に大手自動車メーカーが、一斉に大きな展示をしていたころに比べると、CESにおける車関連の展示の存在感は薄れている。その中で、一つ気になるものとして、Software-Defined Vehicles(SDVs)というものがある。まだ定義も人によって異なるような状況だが、車の機能の一部がソフトウエア化され、車を購入後もソフトウェアの入れ替えによって、機能変更/更新できるものだ。ハードウェアのソフトウェア化については、いろいろな機器で起こっているが、自動車も例外ではなく、これからどんどん広がっていくものだろう。

また、AIの活用は、ほとんどすべての分野で起こっているが、車も例外ではなく、昨年発表したMercedes-Benzに加え、Volkswagenも生成AIのChatGPTを組み込んだチャットボット機能を、自社の車に加えると今回発表している。もう一つ、車のセクションで目を引いたのは、AmazonがAmazon for Automotive というテーマで、比較的大き目のブースを構えていたことだ。車の販売から始まり、開発、製造などあらゆる面でAmazonのクラウド・サービスAWSの、AI機能などが活用できると宣伝していた。Amazonが次の分野として自動車を視野に入れていることの表れだろう。

そのほかでは、個人的に興味があったSports Tech、Food Techなどは、展示がいままでより少なかった。この分野自体が廃れてきた、ということではないと思うが、あまり新しい進展がなかった、ということかもしれない。また、拡張現実/仮想現実(AV/VR)や、空飛ぶ車などの展示も、あることはあるが、それほど目新しい感じはなく、大きな存在ではなかった。

国別にみると、ここ何年かの傾向だが、韓国や中国系企業が目立ち、日本企業の存在感が大きく低下してしまっているのは残念だ。中国系企業については、大手は大きなブースを構えていたが、中小規模企業の展示が、以前に比べると減っている感じだ。米中摩擦の影響の表れかもしれない。

ここまで書いてきて、何か昨年のCESでの感想を書いたときと似ている気がしたので、昨年のものを読み返してみると、まさしく同じようなことが書いてある。どうやら今年は昨年に続き、目立ったものの少ないCESだった、ということかもしれない。

そんな中で元気だったのは、スタートアップ企業の出展が集まるEurekaセクションだ。昨年の展示が、1000社あまり、今年は1,400社を超えたというから、4割ほど伸びている。それぞれのブースはとても小さいので、個別に話を聞かないと、どんなものかわからず、私は時間の関係で、日本からのスタートアップ企業のいくつかに話を聞くにとどまったのは、少々残念だった。日本からもJETROの支援を受け、それなりの数のスタートアップ企業が出展していたが、お隣の韓国は、さらに多くのスタートアップ企業が展示しており、少なくとも数の上では大きく負けている感じだ。大企業でもそうだが、韓国は自国市場がそれほど大きくないので、最初から世界を目指す場合が多い。スタートアップ企業の海外進出については、韓国政府の支援も厚いと聞く。これに比べ、日本は大企業を含め、海外進出への熱意が弱い感じがする。車や消費者向け家電製品などは、一時米国を含む世界で大きな地位を占めていたが、消費者向け家電製品などは、ほとんど韓国や中国に取られてしまった感がある。

日本もここ5-6年、元気のいいスタートアップが多く出てきたのはうれしいことだが、世界に出ていく、という点では、まだ慎重な姿勢を取る会社が多いと強く感じる。これでは、最初から世界市場を目指す他国のスタートアップに、世界で勝つことはできない。日本では、ベンチャーキャピタルでさえ、「まずは日本市場から」などと言っているところが、これまで多かったと聞く。最近は、それではまずいと気が付き、海外に目を向けるスタートアップ向けプログラムなども増えているが、ぜひそのようなものもうまく使いながら、日本のスタートアップ企業も、できるだけ早い段階から世界市場に向け、ビジネス展開してもらいたいものだ。私はシリコンバレーに30年以上住み、日本企業の海外進出のお手伝いも多く行っているので、微力ながら日本のスタートアップ企業等の世界進出を、これからも支援していきたいと思っている。


黒田 豊

2024年2月

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