Microsoftの50年
Microsoftが4月4日で50 周年を迎えた。Microsoftが産声を上げたのは1975年だが、Microsoftの名前がIT業界に出てきたのは、1980年代だ。日本のメディアでも取り上げていたようだが、IT業界でのコンサルティングを長年行ってきた立場から見た、この50年を振り返ってみたい。
IT業界が本格的に動きだしたのは1964年、IBMによる汎用コンピューターSystem/360の発表からだ。その後、1970年のSystem/370の発表と続き、メインフレーム・コンピューターという大型コンピューター中心の時代が続いた。それが大きく変わったのは1981年、IBM PCの発表だ。それは、その数年前にAppleなどから出てきたパーソナル・コンピュータに対抗するためだった。このときIBMが取った戦略は、早期の製品出荷、低価格をめざすため、他社からの部品を活用することだった。これは、それまでのメインフレーム・コンピューター開発で行っていた、ほとんどすべてを自社開発するという考え方と真逆のものだった。
IBM PCは、市場で大成功をおさめた。そして、そこで使われた中心となる半導体チップを提供したIntelと、ソフトウェアの中核となるOperating System(OS)を提供したMicrosoftが、ここから始まるパソコン時代の中心になった。IBM PCは、その後も広く使われたが、既存部品を集めて作られたもののため、同様の互換性のあるパソコンを販売する競合企業がいくつも現れた。しかし、そのどの会社もMicrosoftのソフトウェアを使った。チップも一部競合が出てきたものの、Intelが市場の多くを制した。
IBM PCに採用されたOSのMS-DOSは、実はMicrosoftが開発したものではなく、Seattle Computer Productsという会社から買い取ったものだ。そして、それをIBMがPCのOSとして採用することを、1980年11月に決定した。Microsoftのその後の大きな成功は、ここから始まっている。
このパソコンのソフトウェア市場での地位を生かし、Microsoftは1983年にWord、1985年にExcelという、いまでも多くの人が使う汎用ソフトウェアを開発し、ソフトウェア業界で、大きな地位を確保した。Excel発表前は、VisiCalc、その後Lotus 1-2-3という表計算ソフトウェアが広がっていたが、MicrosoftのOSの支配力をベースに、それをExcelでひっくり返すことに成功した。PowerPointについては、1987年に、PowerPointを開発したForethought社の買収により獲得している。
OSでは、Appleが1984年にMacintosh(Mac)を発表し、マウスを使い、GUI(Graphical User Interface)の世界を開いた。MicrosoftはWindows 1.0を1983年に発表したものの、その初出荷は1985年。しかも、これはまだ十分な機能を持っておらず、本格的にMacに対抗できるものが出たのは、1990年のWindows 3.0だ。Appleに比べ、かなりの遅れをとったが、PCのOS市場を押さえ、WordやExcelなどを使っていたユーザーがMacへの移行を躊躇したおかげで、市場を大きく取られずに、Windows 3.0にユーザーを移行させることに成功した。
こうして、時代はIBMからMicrosoft+Intelの時代に移っていった。IT業界は、メインフレームの時代から、パソコンの時代に移行したが、パソコンですべての処理ができるわけではなく、メインフレーム+パソコンという、分散処理方式へと進化していった。
そして1990年代半ば、次の大きな波がIT業界を襲った。インターネットの到来だ。インターネットの登場で、ITの主役は大きく変わった。Microsoft+Intelの時代から、GAFA(Google、Apple、Facebook(現Meta)、Amazon)の時代に移っていった。インターネットがIT業界を大きく変革するものと、いち早くとらえた企業の勝利だ。Microsoftは、そしてIBMも、その動きに遅れをとった。当時のMicrosoft CEO、 Bill Gates氏の発言を見ても、インターネットに懐疑的だった時期が長かったことがうかがえる。
業界の主役が入れ替わると、過去の主役は消え去ってしまうことが少なくない。しかし、Microsoftは、そのジンクスを見事にはねのけた。インターネットで大きく伸びたGoogleを中心とするサーチ・ビジネス、Appleを中心とするスマートフォン・ビジネス、Facebookを中心とするSNSビジネス、Amazonを中心とするEコマースビジネスでは、残念ながら後塵を拝したが、インターネットを活用したクラウド・コンピューティングでは、Microsoft Azureで何とか他社に追いつくことができた。2024年第4四半期のクラウド・コンピューティングの世界シェアは、Amazonの30%に続き、Microsoftが21%のシェアで2位につけている。
さらに、コロナ禍で広がったリモートワークへの対応でも、Microsoft TeamsがCollaboration and Communication Platformというカテゴリーで38%とトップシェアをほこり、21%のGoogle、15%のZoom、5%のSlackなどを引き離している。気がつけば、ITトップを走る企業の頭文字が、GAFAからMicrosoftを含むGAFAMに変わっていた。最近は、この5社にNvidiaとTeslaを加え、Magnificent Sevenと呼ばれることも多い。
NvidiaとTeslaがITトップ企業に加わったのは、ここ数年のAIの大きな発展が大きい。そのAIでは、しばらくGoogleが優位に立っていたように見えた。特にDeepMindの買収により、AIの新たな世界を広める機械学習(Machine Learning)から深層学習(Deep Learning)への進化で、ビッグデータ分析の門を開き、先頭に立った感があった。この時点でMicrosoftは、再び遅れを取ってしまったように見えた。しかし、その裏で、2019年にMicrosoftはOpenAIに$1 bil.という大きな投資を行っていた。そして、OpenAIがChatGPTを発表し、生成AIの世界が幕を開けたのは2022年11月。Microsoftの最初の投資は、その3年前だ。そして、ChatGPTの急速な拡大を見て、2023年には、合わせて$13 bil.という大きな出資を、OpenAIに行っている。
そして、このOpenAIとの緊密な関係を利用して、MicrosoftはOpenAIの技術を自社ソフトウェアに次々と組み入れ、大手IT企業の中では、生成AIに関してトップを走っていると言っても過言ではない。具体的には、サーチエンジンBingでの活用、またMicrosoft Officeのソフトウェア群(Word、Excel、PowerPoint、Outlook)でのCopilotなどだ。
Microsoft創業50年。振り返ってみると、アップアンドダウンもいくつか経験している。MS-DOSのIBM PCへの採用とMicrosoft Officeソフトウェア群の大きな成功。Apple MacのマウスとGUIのユーザー・フレンドリーなインターフェースに対する遅れは、Windows3.0で何とか挽回したものの、インターネットでは、その重大さに気づくのに遅れ苦戦。一時ITトップの仲間から外れたが、クラウド・コンピューティングやCollaboration and Communication Platformで追いつき、AIでの遅れは生成AIで逆転。株価も高く、時価総額ではAppleやNvidiaと首位を争い、4月30日現在2位。創業から50年経っても、Microsoftの勢いは、当分衰えそうにない。
黒田 豊
2025年5月
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