急拡大するスタートアップ企業への投資と、そこでのビジネス機会

 

2021年のピークを境に低迷していた、スタートアップ企業へのベンチャー投資が、ここにきて急拡大している。2021年のベンチャー投資総額は$701.8 bil.、2020年($350.7 bil.)の倍と、大きなピークを迎えたが、その後2022年($469.5 bil.)、2023年($307.3 bil.)と低下し、2024年($328,0 bil.)に下げ止まり、2025年には$425.0 bil.と、回復基調が見えてきた。それが、今年第1四半期には$300.2 bil.と、1四半期としては記録的なものとなった。すでに昨年1年間のベンチャー投資額の70%を越えている。

 

ただ、今回の大きなベンチャー投資額の内容を見ると、かなり特徴的なものがある。まず、この投資総額の約65%は、4つの会社に対する投資で占められている点だ。その4社とは、OpenAI($122 bil.)、Anthropic($30 bil.)、xAI($20 bil.)という生成AIのLLM(Large language Model)などを提供するFoundational AI企業(AI基盤モデル開発企業)と言われる会社と、もう1社はAIを使った自動運転車を開発する、Googleの親会社Alphabet傘下のWaymo($16 bil.)だ。

 

この4社を含め、AI関連企業への投資が、全体の約80%を占めているという点も挙げられる。昨今のAIの飛躍的な発展を考えると、想像に難くない結果だ。もう一つの特徴は、1つ1つの投資額が大きく、投資の件数そのものは、必ずしも増えていない、という点だ。たとえば、上の4社以外でも、$1 bil.以上(約1,550億円以上)の出資を得た会社は10社ある。これらの企業は、ロボットを含むフィジカルAI、半導体、データセンター、自動運転車、防衛などの分野に属している。

 

このような巨額の投資は、その会社への投資のLate Round(後半での投資)がほとんどだ。そのため、まだ立ち上がったばかりのスタートアップ企業への投資、いわゆるSeed Roundなどの投資がどうなっているかが、心配になる。幸い、その心配は杞憂で、Seedを含むEarly Stage Roundへの投資額も、前年度比41%の伸びを示している。ただ、ここでも個別の投資額は大きくなっており、限られた企業への大きい額の投資という形が、大きな流れだ。特にAI分野では、ある程度大きな投資を受け、それをもとにスピード感を持って開発を進めないと、激しい市場での競争に勝てない、という状況が背景にある。

 

投資先として圧倒的に多いAI、中でも生成AI分野だが、その中を見てみると、スタートアップへの投資という観点で見ると、大きく2つに分かれているように見える。一つはFoundational AI企業への投資だ。OpenAI、Anthropic、xAIへの投資がこれに当たる。すでに大手企業となっているGoogle、Microsoft、Metaなども同様に巨額の投資を行っている。ただ、それに見合った売上、利益が将来得られるだろうかという疑問も市場にはあり、そのため、Metaの今後のAIへの巨額投資への不安から、株価が下がっているようなケースもある。

 

もう一つは、他社のFoundational AIを利用し、それをもとに個別問題に対するソリューションを提供する企業だ。これも実は大きく2種類に分かれる。一つはどのような企業でも使う水平市場(Horizontal Market)を狙ったもの。例えば、プロジェクト・マネジメント、生産性向上、コラボレーションなどを提供する企業が、これに当たる。もう一つは特定な業種などに特化した垂直市場(Vertical Market)を狙ったものだ。例えば、保険業における請求処理、金融業におけるコンプライアンス対応、建設業における工事日程構築など、個別業界における具体的なワークフローに対するソリューションを提供する企業が、これにあたる。

 

どちらも有望な市場ではあるが、競合という点で異なる面がある。それは、水平市場では、Foundational AIを提供する企業、OpenAIやAnthropicなどのスタートアップ企業だけでなく、Googleなども含めて、この市場に戦場を広げてきているからだ。水平市場では、たとえ一時的に、あるスタートアップ企業が市場で成功しても、その後大手Foundational AI企業が参入すると、その市場が奪われる可能性が高い。このため、すでにこの市場は、スタートアップ企業にとっては、魅力が薄い分野となっている。

 

一方、垂直市場でも、同様のFoundational AI企業からの脅威の可能性はあるが、業界の種類は多岐にわたり、またそこで使われるワークフローも多数存在するため、Foundational AI企業が、そのすべての市場を掌握することは考えにくい。そして、これら垂直市場での問題を解決するソリューションを提供するには、その業界の知見やデータを持っているかどうかが、大きく影響する。Foundational AI企業は、個別業界の知見を持っているとは言い難いため、スタートアップ企業にとって、大きなチャンスがある分野だ。

 

Foundational AIについては他社にまかせ、特定業界での強みを発揮できる垂直市場をめざすべき、という話は、私もこのコラムで以前書いたことがあるが、まさしくそれが現実化している。そして、ベンチャー投資もその方向に向かっている。このAI垂直市場は、これからさらに拡大し、今の10倍以上の市場になるとも言われ、既存ビジネスのワークフローのAIエージェント化は、今後飛躍的に伸びる市場だ。また、いままでIT化が十分できていなかった分野でも、AIエージェント化によるソリューションを提供できる分野は、これまでになく広がっていく。

 

いまやAIエージェント構築に、それほどの技術的な専門知識が必要なくなりつつある。必要なのは、業界知識など、現状を知っていることと共に、新たな発想によるソリューションを開発することだ。AIによる世の中の変革は、特に垂直市場では、AI専門家によるものではない。むしろ業界、現場を知っている人達によるものだ。どんなところで仕事をしている人にも、AIを使った新たなソリューションを考えることができる。そこで感じる、必要なソリューションの「ひらめき」が重要だ。そのひらめきがあれば、それを実現するための、新たなビジネスを構築することも十分可能だ。いま起こっている、この新たなビジネス機会に、日本の人達一人一人も、ぜひチャレンジしてもらいたいと願っている。

 

黒田 豊


2026年5月

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