AIとともに生きる、これからの世界への日本の対応

 

新年明けまして、おめでとうございます。

 

世界的に政情不安な中、テクノロジー業界ではここ数年、AIを中心にすべてが回っていると言っても過言ではない。このコラムでも、すでに何回かAIについて書いているが、2026年のはじめに何を書くかとなると、やはりAIのことになる。それだけAIは、今の世の中に大きな影響を及ぼすものだからだ。AIについては、すでにたくさんの方々が、それぞれの立場からいろいろ書いているが、インターネットの始まる前からシリコンバレーにいて、インターネットによる世の中の大きな変革などを見てきた立場から、これまで書いてきたことを整理しながら、私なりに書いてみたい。

 

AIは、かなり以前からある技術で、何回かブームになっては、そのブームが去って行った。しかし、2010年代にDeepMind(のちにGoogleが買収)が、それまでの機械学習(Machine Learning)を一段階先に進めた深層学習(Deep Learning)を実用化し、AIが、特にビッグデータ分析の分野で、かなり現実的に広く使える技術として広まった。そして、2022年11月のOpenAIによるChatGPTの発表により、生成AIの世界が始まった。その広がり方は、おどろくほど速い。ユーザーが1億人に達するまでにかかった期間は、インターネットでは約7年と言われるが、ChatGPTは、わずか2ヶ月だ。

 

すでに何回か書いたが、インターネットのときは、日本では当初、一過性のブームではないかと勘違いした人も少なからずいて、その結果、対応に大きな後れをとってしまった。今回はその心配はなさそうだが、ともかく世界の動きは速いので、日本もそれに遅れをとることは許されない。AIに対する日本の対応については、企業、個人そして政府という3つの観点で、それぞれ考えていきたい。詳細に書くと、本1冊くらいになるので、ここではキーとなる考え方を中心に書くことにしたい。

 

まず、企業におけるAI対応だが、いくつかのレベルに分けて考える必要がある。1つ目は、AIを使った生産性の向上だ。これは、現在行っていることの「改善」の類なので、日本の得意な分野だ。すでに着手している会社も多いが、どんな業界でも、世界中の企業に伍して戦うには、AIによる生産性向上で遅れをとることは許されない。しかし、単にAIによる生産性向上だけを目指したのでは、明らかに不十分だ。本コラムのタイトル「AIとともに生きる」という点では、既存のやり方を、AI利用を前提としたやり方に、ビジネスモデルを変革することが求められる。これが次のレベルだ。これはデジタル・トランスフォーメーション(DX)が、単なるIT活用による効率化ではなく、真のビジネスモデル変革を起こすことが重要なのと同じだ。

 

また、企業にとって、もう一つ大事なのは、既存ビジネスの変革だけでなく、これまでできなかったことを、AIを使って実現することだ。これが3番目のレベルだ。新たにスタートアップとして起業してもいいし、既存企業なら新規ビジネスだ。日本は高齢化社会で世界の先頭を歩んでおり、災害も多く、いわゆる「課題先進国」だ。これは、たくさん解決すべき課題があるという意味で、弱みというよりも強みだ。この強みを生かさない手はない。ぜひ、日本企業には、世界をリードする、多くのAIを活用した新たなソリューションを開発し、提供してほしい。

 

AI関連のビジネスには、大きく次の3つがある。1つは、生成AIのベースとなる大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)、2つ目は半導体やデータセンターなどのインフラストラクチャー、そして3番目がAI活用の、業種や利用シーンに特化したAIエージェントなどの市場だ。日本にもっとも可能性の高いのは、課題先進国である強みを生かした、3番目のAI活用のAIエージェントなどの市場だ。すでに世界でも、たくさんのスタートアップ企業を中心に、その動きは活発だ。日本企業には是非先頭を切って、新たなソリューションを開発し、世界に広げてほしい。そのとき、規制や既存業界慣習などによって、日本国内で広げるのが難しい場合には、躊躇せず、早い段階から世界に出て行ってほしい。そのほうがチャンスが早く、大きく広がる可能性がある。

 

LLM開発は、日本はすでに世界に遅れを取っており、大きな投資が必要な分野なので、世界のリーダーと対等に戦うのではなく、日本市場独自のものを含め、何かに特化したものを見つける必要がある。ただ、現在のLLMとは異なる別な新しい技術で、LLMを越えるAIのベースとなる別なものを生み出せれば、別次元での勝負ができる可能性はある。インフラストラクチャ―については、省エネ化などを含め、以前言われた、日本が強い「軽薄短小」というあたりの技術で攻めることも考えられる。AIの開発・利用には膨大なデータセンター、そしてそれを動かすのに必要となる膨大な電力や水が、大きな問題となっている。それを大幅に削減できるような技術ができれば、この分野で世界をリードすることも十分可能だ。

 

では、個人とAIの関係はどうか。ここでも、最初に入りやすいのは、いろいろな作業の効率化のためのAI利用だ。すでにサーチエンジンを使っていろいろ調べることから、生成AIに質問するという形にして、効率アップしている人も少なくないだろう。個人にとっても、企業と同じく、いままでやっていることの効率化だけでなく、これまでできなかったことが出来るようになるものも少なくない。個人として、いろいろなアイディアを持っていても、それをどう実現したらいいかわからない、あるいは実現するための技術をもっていない、という人もたくさんいるだろう。そのアイディアを生成AIに伝え、具体的な素案を作ってもらい、それに自らの考えを加えて、修正しながらものを作っていくことも、生成AIを使えば実現できる。新たな形のクリエーターが、どんどん出てくる可能性がある。

 

たくさん便利に使えるAIだが、気を付ける必要があることも多い。AIは必ずしも正しい答を返してくるとは限らない、いわゆるハルシネーション問題はその一つだ。何かを生成AIに聞いたとき、その信ぴょう性を疑えるレベルの知識は、個人自らに必要となる。また、特定のAIエージェントなどを使う場合には、そのAIエージェントが、物の考え方などを、どこかの方向に持って行こうとしていないか、注意する必要がある。さらに、AIが作った偽物(フェーク)には十分注意が必要だ。特にビデオは、つい本物と信じてしまいがちだが、最近のAIは、本物そっくりのフェーク・ビデオを作ってしまうので、特にSNSなどで見るものについては、必ず本物かどうか疑ってみる必要がある。ついうっかり信じてしまうことがないよう、細心の注意が必要だ。セキュリティの問題や、著作権などの問題も、避けて通ることは出来ない。

 

さて、AIにおける政府の役割は大きく2つ、アクセルとブレーキだ。AIの最先端技術推進や最先端活用にはアクセルを、AIの悪用、間違った結果、大衆のミスリードなどを防ぐためには、ブレーキを使う必要がある。そして、そのバランスが大切だが、国によって、そのバランスのとり方は異なる。米国はバイデン政権の、どちらかというとブレーキをかけることに神経を使っていたものから、トランプ政権ではアクセルに踏み変えた。これは、米国のテクノロジー業界から強い要望が出ていたもので、対中国で優位を保つために必要だったことだと言える。これによって、AIの暴走の危険もあるが、米国企業だけに規制をかけても、他国がAIを暴走させてしまったのでは、どうにもならず、その結果技術的に遅れを取っては大変なので、仕方がないとも言える。政府がAI企業に対する規制で、AIの暴走を押さえられないのであれば、AIを利用する企業や個人が自分自身で自分を守るしかない。ヨーロッパは逆にAIの暴走を警戒して、やや規制を強める方向に見える。

 

では、日本はどうするべきか。日本は、もう少し違ったバランスでものを考えることを期待したい。米国のように、ブレーキ軽視でアクセルを強く踏むのではないが、最先端技術で勝負する部分では、ある程度アクセルを踏む必要がある。一方、AIを広く活用するという面では、適度なブレーキも使い、安全・安心という日本の大きないいところを生かしたAIにしていきたい。ただ、かけるブレーキによって技術の発展を押さえるものになっては、他国に遅れをとり、AI後進国になりかねない。AI後進国になるということは、経済などの面でも後進国になってしまう危険性が強いので、要注意だ。このバランスをどう取っていくかは、とても難しい問題だが、ぜひ日本が世界の模範となるような、最適バランスを作り上げてほしいと願っている。

 

AIは、それを使うメリットが大きいが、注意しなければならない点も多々ある。そして、その進化のスピードは、これまでにない速さだ。企業も、個人も、国も、AIとともに生きることが避けられないこれからの世界。どう生きるかは、我々自身にかかっている大きな問題だ。

 

黒田 豊


2026年1月

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