Apple 50周年
Appleが、この4月1日で50周年を迎える。昨年のシリコンバレー通信を見ると、5月に「Microsoftの50年」というタイトルで書いているので、Appleの創業はMicrosoft設立の約1年後ということになる。Appleは3月中旬から、世界各地で50周年を祝うイベントを開いている。
Appleは創業後、Apple I、Apple IIというパソコンで、それなりの成果は出したが、本格的にAppleの名前を世の中に広めたのは、1984年に発表されたMacintosh(通称Mac)だ。その特徴は、マウスを使い、GUI (Graphical User Interface)を使って、技術者ではない、一般の人が簡単に使えるパソコンだ。コンピューター界における、大きなイノベーションが起こったと言える。その後、iPodやiPhoneなどを見ても、Appleは、世の中にない新しい概念の製品を次々と出してきた、イノベーションを起こす会社、というイメージが強い。
Appleは、それまでに世の中にない製品を出してきた、イノベーションを起こしてきた企業だが、実は何もないところから技術を開発し、それで新しい製品を作ってきた企業ではない。イノベーションという言葉を聞くと、新しい技術の開発、というイメージを持つ人が、日本では今でも多いように思うが、Appleは、新しい技術をゼロから開発した企業ではない。Mac開発にいたった、マウスやGUIの技術は、昔私が所属していたSRI InternationalのDoug Engelbartと彼のグループが開発し、SRIが特許を持っていたものだ。彼らが1968年にSan Franciscoで行ったデモは、今でも「The Mother of All Demos」(または、単にThe Demo)と呼ばれて、見ていた人達を驚嘆させるものだった。
Apple共同創業者のSteve Jobsは、このSRIが開発した技術をもとに、Xeroxが開発したSTARシステムと呼ばれるもののデモを1979年に見て、「これだ!」と思ったようだ。彼は技術に詳しくない一般の人でも、簡単に使えるパソコンの開発をずっと考えていたが、それがこの技術で実現できると思ったのだ。一方、この製品を開発したXeroxは、この製品を企業向けの高額な商品として売り出したが、結果は残念ながら、企業がそれに食いつかず、失敗に終わった。
これに対しSteve Jobsは、この技術を使い、一般の人にも使いやすい製品を作るだけでなく、価格的にも一般の人が買えるものを作ることに注力し、1984年にMacを発売した。Appleは技術のイノベーション(技術イノベーション)を起こしたわけではないが、ビジネスのイノベーション(ビジネス・イノベーション)を起こしたのだ。この先のAppleの歴史を見ても、Appleはどこか他で開発された技術を使い、それに「ひとひねり」を加えたビジネス・イノベーションに長けた会社なのだ。昔Jobsが、Appleはわずかな研究開発費で、イノベーティブが製品を出す会社だと、自慢していたのを記憶している。
これは、その後のiPod開発のときにも見られる。携帯音楽端末では、SonyがWalkmanで世界を一時席巻した。これは全く新しい概念の製品で、世界中に広まった。当初はカセットテープで音楽を聴くものだったので、持って行ける音楽に限りがあったが、Sonyはそれをディスクベースにするなどして、たくさんの音楽を持って行けるところまでは進化させた。しかし、音楽をWalkmanに取り入れるために、カセットテープやCDなどを購入し、それをWalkmanに入れる手間もかかり、好きな1曲だけを購入することも難しかった。
そんな中、AppleはiPodを発表した。ただ、Appleは単に携帯音楽端末としてのiPodを発表しただけではなく、オンラインで1曲ずつ曲を購入し、iPodにダウンロードできる、iTunesという仕組みを構築した。これでユーザーの利便性が格段に向上し、多くの音楽愛好家がiPodを購入した。それを実現するために、Appleは音楽レーベル各社との交渉も当然行い、それを実現した。Apple得意のビジネスの「ひとひねり」によるビジネス・イノベーションで、iPodは大きく成功した。
その後、携帯電話と携帯音楽端末の2つを持ち歩くのは不便なので、何とか1つにならないか、というニーズが人々の間に広がった。そこで出てきたのがiPhoneだ。ただし、ここでもAppleは単に携帯電話と携帯音楽端末を合わせたものというだけでなく、一つ新たな大きな機能と、それをサポートする仕組みを付け加えた。アプリという概念と、そのためのAppStoreという仕組みだ。これにより、iPhoneは、ただの携帯電話兼音楽端末ではなく、手のひらに乗るコンピューターになった。ここでも、大きな技術イノベーションがあったというよりは、大きなビジネス・イノベーションを起こしたと言える。
このように、ビジネス・イノベーションにより、イノベーティブな製品を出してきたAppleだが、Jobs亡き後は、あまりパッとした斬新な製品が出てきていない。Jobsの後を継いだTim Cookは、もともとJobsのもとで、サプライチェーン構築などに力を発揮してきた人だ。新しいイノベーションを起こす人というよりも、既存ビジネスから確実に利益をもたらす実務の人だ。斬新な製品はあまり出てきていないが、iPhoneの売上はその後も順調で、機能の追加拡張などで進化させ、買い替え需要を喚起して、その後の15年もAppleは成長を続け、時価総額も一時4兆ドルを超えるまでにいたった(3月31日現在3.63兆ドル)。
iPhoneは、いまでもAppleの売上の約半分を担っている。一方、Apple Musicなどのサービス・ビジネスも売上は伸びており、売上全体の1/4ほどになっている。これは、新しいものを出してきたというよりも、既存のiPhoneなどのユーザー向けに、サービス・ビジネスを追加し、発展させたものだ。残りの売上は、MacやApple Watchなどだ。
いま、世の中はAIで大きく変わり始めている。Appleは2010年にSiriを買収した時点では、ソフトウェア・エージェントで先行していたのだが、Jobs亡き後は、SiriをベースにAI分野を進化させることは、残念ながらしてこなかった。気が付けはSiriはAmazon Alexa やGoogle Assistantに遅れをとり、生成AIについては、Googleと提携し、Google Gemini AIを組み込むことにより、Siriに生成AI機能を加えようとしている。
もともと新しい技術を自ら作るのではなく、他で作られた技術をベースに何かビジネス・イノベーションを起こすのが得意なAppleであることを考えると、生成AIについても、他社の力を借りるのは、Appleとしては自然な流れなのかもしれない。しかし、これだけホットになっているAI。仮にそのベースとなる生成AI技術は他社のものを使うとしても、Appleにも、AI分野で何か世の中をあっと言わせるような、ビジネス・イノベーションを、是非期待したい。50周年を祝うウェブサイトのタイトルは「50 Years of Thinking Different」だ。50周年に値するような、世界を驚かせるようなものが出てくることを期待したい。
黒田 豊
2026年4月
ご感想をお待ちしています。送り先はここ。